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【第五十六話】責務



喪主として葬式を全うしたウィリアム様は、引き継ぎもないまま領主の仕事に追われる事となった。

必要書類を読み漁り、周辺貴族や国外に対しての外交を行い、領内の人民の元へ右に左に駆け回る。

様々な業務がウィリアム様へ降り掛かり、彼は早朝から深夜まで働き詰めであった。


私はそんなウィリアム様の負担を少しでも減らすべく日夜奮闘していたが、そんな私も自分に与えられた新たな役職の仕事に忙殺されていた。

私に与えられた新たな役職…それは警護部隊の騎士団長という役割であった。


次期公爵の筆頭護衛騎士は、公爵が代替わりすると同時にムーア公爵家警護部隊の騎士団長に就任する。

これは代々の決まりで基本的に例外は無い。


この決まりを知った時「手ずからウィリアム様の守りをかためる事ができる」と喜んだものだが、いざ自分がその立ち位置になってみると忙しさで目が回りそうだ。

ウィリアム様の警護、書類の整理、騎士団の運営や訓練の監督…。自分が何人も欲しい、と切実に思う。













来るべき日、ウィリアム様を守るために今日も今日とて私は騎士団の人材育成に精を出す。

警護部隊の騎士たちに訓練の指示を出し、彼らがそれをこなしている間、私も鍛錬を開始する。


「はぁ…はぁ…フローレス団長…」


(駄目だな、動作が大振りになり過ぎる。もっと鋭く…)


「フローレス団長‼︎聞いてるっすか‼︎」


鍛錬に集中していた私がはっとして顔を上げると、いつの間にかそこには息を切らした茶色の髪の男が立っていた。

ぜいぜいと肩で息をしている彼はその鳶色の瞳を眇める。


「ぜぇ…はぁ…言いつけられた訓練…はぁ…全員完了したっす…よ…。もう、おれ…限界っす…」


荒い肺呼吸を繰り返す彼に、私は微笑みかけた。


「報告ありがとうジョンソン。そろそろ昼休憩だ、昼食にしようか」


私がそう言うと彼は躍り上がって喜んだ。


「やっほう‼︎昼飯っすね‼︎おれ、騎士団の連中に知らせてくるっす‼︎」


大声で歓声を上げるや否や訓練場の方へ走っていく。

(何だ、まだ元気じゃないか)

私は彼の背中を眺めながら苦笑した。









彼、ダニエル・ジョンソンは私が警護部隊の中から副団長に抜擢した人物である。

彼は確かな実力を有していたが、貧民街出身というその出自から今まで正当に評価されないでいた。

意思疎通能力も高く、訓練中にさりげなく騎士仲間を補助する時機はまさに絶妙。

これは掘り出し物だと考え副団長に据えた訳だ。


事実、その判断は正解だった。

ウィリアム様の補佐のために中々警護部隊の采配まで手が回らない時、ジョンソンは私と騎士たちの間を上手く取り持ってくれていた。


(警護部隊の訓練は順調に進んでいる。しかし警護部隊だけ鍛えても出来ることには限りがある。近い将来、反王族派の軍勢と戦う可能性がある事を考えれば有事の際の出兵を請け負う治安維持部隊との連携は必須。何とかして治安維持部隊の騎士団長と連絡を取り、定期的な合同訓練を行えないか打診をしなければ…)


私がそんな事を考えていると、


「フローレス団長‼︎早く行くっすよ〜‼︎」


ジョンソンが遠くから私に向かって手を振った。


「行きましょうよ団長ー‼︎」


「団長〜‼︎」


他の騎士たちも私に向かって呼びかける。

私は考えを中断してそちらへ足先を向けると、ゆっくりと皆んなの方へ歩いて行った。




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