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【第三十八話】想い人(ウィリアム視点)



「ウィル‼︎一緒に出かけようぜ‼︎」


学生寮の僕の部屋に突然フィンがやってきたのは夏が終わる、ある日の事だった。


「フィン、申し出は嬉しいけれど…今日はリアの休日なんだ。護衛無しでは街に出られないよ。フィンもこの間の誘拐事件を忘れたわけじゃないだろう?」


僕がそう言うと、フィンは胸を張った。


「ああ、忘れていないさ‼︎だから今日はエドワードがついてる」


フィンは悪戯っ子のように笑う。


「護衛対象が2人に増えたくらい王家の護衛騎士なら大丈夫さ。最近勉強三昧でウィルだって疲れているだろ?気分転換に外に出ようぜ」


僕は少しの間迷っていたが、フィンの笑顔に誘われて気がつけば頷いていた。























雲一つない青い空に、強い日差し。

茹だるような暑さの中にあるどことない爽やかさ。





「うーん、暑いな‼︎」


「それはそうだよ、季節の終わりかけとは言ってもまだ夏だもの」


フィンと護衛騎士エドワードと連れ立って街を歩いていく。そんな時僕は遠くに見慣れた人影を発見した。

それは、亜麻色の髪をした人物。


「リア…?」


いつも僕の側に控えている時よりラフな格好をした彼はすらりとした立ち姿でそこに佇んでいた。

(まさか同じ場所へ出かけていたなんて)

街中で偶然想い人を見かけるという出来事に気分が高揚する。

しかし彼の隣を見た途端に僕の心は凍りつき、高揚感は吹き飛ばされてしまった。






栗色の髪に榛色の瞳をした可憐な女性。

艶やかな髪を風に揺らしながらリアの隣に立つその人は、リアに向かって明るい微笑みを浮かべている。


2人はショーウィンドウの前で談笑するように身を寄せ合っていた。






「どうしたんだウィル、何か見つけたのか?」


足を止めた僕に、フィンが怪訝そうな声で問い掛ける。


「…ん?あれはウィルの所の護衛騎士?はは、あんな可愛らしい女性と逢引きとは、ウィルの護衛騎士も隅に置けないな‼︎」


朗らかに笑いながら僕へそう声をかけるフィンの言葉に、僕は心臓を鷲掴みにされたかのような痛みに襲われた。


(何故僕は気付かなかったのだろう。リアにだって想い人がいるかもしれないという可能性に)


いやに大きく鼓動した心臓の音が耳の奥へこだまする。

ショーウィンドウの前に立つ2人は見れば見るほどお似合いだった。







栗色の髪をした女性がリアの耳に何かを囁きかける。栗色の髪の彼女が微笑むと、リアもまた彼女に対して柔らかな笑顔を浮かべた。


その親密な様子に僕の心臓は一層ギリギリと痛めつけられるような心地がする。









次の瞬間、リアがこちらを振り返るような動作をしたので、僕はフィンを抱えて建物の影に隠れた。


「わっ⁉︎どうしたんだよ?」


フィンの言葉に応える事なく建物の影で凍りついたようにじっとする。暫くして僕はそろそろと建物の影から顔を覗かせた。









もう、そこには2人の姿は無かった。










ほっとしたような何とも言えないような複雑な気持ちでいると、フィンが僕の腕から抜け出す。

そしてフィンは僕の方へ向き直った。


「ウィル、何だかさっきからおかしいが何かあったか?顔色も悪いし…帰るか?」


訝しげなフィンの眼差しに、僕は首を横に振った。


「体調は大丈夫。先へ行こうか」


僕はその場から離れるよう雑踏へ向けて足早に歩き出す。







頭の中には、先程の寄り添い微笑み合う2人の様子が何度も繰り返されていた。



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