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魔道皇子、精霊の愛し子になる  作者: サトム
二章 魔道王子、帰国する
10/28

魔道皇子、怒る

・このお話はフィクションでファンタジーです。

・【2022.10.14】 大量改稿しました。

 エーレクロン王国からシャムロック魔道帝国までのあいだに五つの国がある。アラステアは帝国を出てから一年かけて王国にたどり着いたが、それは途中で依頼を受けたり、途中にないレストラーダ聖王国で大聖女に呼びだされたり、精霊に関する情報を集めるために寄り道していたりしていたからだ。


 実際は主要国の転移門を使ってエーレクロン王国に向かえば三か月もかからないのだが、アラステアは帰りも転移門を使うことなく帰国しようと考えていた。

 無事諸外国を隔てる山脈を超えた一行は、エーレクロン王国の近隣国であるカラストリア王国に入国する。この国にはジークもなんどか遠征に赴いたことがあり、街道では精霊であるレスタへの人々の視線も珍しい旅人が来た程度だ。


「騎士団の遠征って多いのか?」


 ヴァージルが馬に揺られながら先頭を走らせるジークに聞いた。


「この国の騎士団で手に負えない魔物がでたときに討伐の応援を要請される。条約で決まっているらしいが、だいたいは下級騎士が担当するな」


 過去には応援要請が遅くカラストリア王国の騎士が犠牲になることもあったらしいが、今は連絡用の魔道もしっかりしているので平和であるようだ。

 国境を越えてから二日。黒馬のジスレに乗ったアラステアが街道の先に視線を向ければ、そこにあるのはカルシーム砦よりも低い石造りの外壁と警備兵の姿があった。エーレクロン王国との交易の要の街カラニアである。


 魔獣の多い山岳地帯に隣接している土地なので小さな村や町は少なく、わざわざ強い魔獣のいる国に行くのは強い護衛を雇える裕福な者か商人、冒険者くらいのものだ。大陸の中央にありながら二国にしか接していないこともあるのかもしれないが、主要街道であるにも関わらず人通りは少なかった。


 それがここにきて一気に賑わいを見せる。商人、冒険者はもとより、馬車や荷車を引く者から大きな荷物を背負った者まで、カラストリアの第三都市カラニアに向かっていた。


「来るときも通ってきたけど、旧王都というだけあって賑わっているよな」


 風に揺れる前髪を抑えながらアラステアが笑いかけ、たてがみを揺らして見上げるレスタの蒼い目が同意するように細められる。やがて王都でしかみられないような立派な軍馬に乗った三人の男たちと、黄金のたてがみを持つ獅子の組み合わせに人々の視線が集まるようになった。


「やっぱりレスタは注目を集めるね。これだけ凛々しい姿なら仕方がないな」


 ニコニコと微笑みながら馬を歩かせているが、アラステアが少しずつ緊張してくのが同行者二人にも伝わってくる。まもなく大きく開いた木製の大扉まで近づくと、二人の警備兵の視線が警戒するようにこちらを向いた。

 いやな視線だな、と思いつつ馬から降りて手綱を持ってレスタと並んで歩くと、二人のうちの一人がすぐそばの建物のドアを叩き、中から出てきた数人に何かを話すと全員が出てくるのが見えた。


「まぁ、レスタは見たことのない姿だからな。警戒もするだろ」


 それまで精霊など見たこともないヴァージルが彼らをかばうようなことを言っていたが、アラステアだって最初から理解してもらおうとは思っていない。大変不本意だがここまで警戒されるのならば、やはり従魔としておいたほうが話は早いだろうとギルドカードを取り出した。


「一級冒険者アラステア。目的は宿泊だ」


 周囲を取り囲む警備兵にいつものように対応するアラステアは、穏やかな口調で滞在目的を告げると、ギルドカードを確認した男たちが睨みながら取り囲んでくる。殺気に近い緊張をはらんだ空気で後ろに並んでいた商人の馬が騒ぎ始めるが、逆になにも感じない人間はのんきな様子で遠巻きに見ていた。


「その生き物はなんだ」


 ここで最初に立っていた男の一人が前に出て質問してくる。胸を張って見下すような話し方は警備する人間特有のものだから気にならないが、レスタを『生き物』と称したことにアラステアは違和感を覚えた。

 ちょっと試してみるか……と緊張で乾くくちびるをぺろりと舐めて口を開く。


「彼は私が契約している精霊です」

「はっ、精霊だと? 人語を話す得体の知れない化け物だろうが」


 間髪を入れずに反論してきたのは、あとから出てきたここで一番偉そうな男だ。前面に立つこともないくせに口だけ出してくる性質の人間なのだろう。部下には嫌われているようで、男が暴言を吐いた瞬間に数人警備兵が顔をしかめたのが見えた。

 最初の彼はレスタが精霊であることが判っていたのだろう。だが上司が精霊を嫌っているから、精霊を認めるような言い方ができなかったのかもしれない。

 ここで男を言い負かすのは簡単だ。相手はただの警備兵。対してこちらは国に十人もいない一級冒険者である上に魔道帝国の皇子の身分もある。だがそれをするまえにアラステアは感じた疑問を男にぶつけることにした。


「ここはエーレクロン王国に近くて魔物も他より強い。それを目当てに中級冒険者が集まり、採れた素材は国の重要な経済の要の一つでもある。国境近くに中級冒険者では手に負えない魔物が出たときは、エーレクロン王国の精鋭騎士団が討伐するという条約も結んでいる。そして従魔は冒険者が連れる戦力であり、エーレクロン王国の騎士には精霊の契約者もいる。なぁ。彼らに見放されて困るのはあんたたちなのに、どうして精霊を嫌うんだ?」


 ヴァージルにそれは詭弁だろうと言われそうだが、これはいい機会だった。疑問の答えにたどり着くためには多少の嘘も必要なのだと心の中で舌を出しながら言い訳していると、男は顔を真っ赤に染めて怒り出す。


「俺たちだけでは魔物を倒せないとでも言うつもりか?」

「倒せないとは言わないが手に余るだろうな。話を戻すが、なぜそこまで精霊を嫌うんだ?」


 質問に質問を返してくるあたり小賢しい交渉は心得ているらしい。だが継承権はなくとも大国シャムロック魔道帝国の皇子だったアラステアは慣れた様子で再度質問をした。


「人の言葉を話す畜生など気持ちが悪いだろうが。しかも寿命がないなんて陰で人を食ってるからだって噂だぞ。そんな化け物を街の中に入れられるか」


 彼の答えはアラステアの想定内で、目新しいものはなかった。要は姿、寿命、能力の違う知的な生き物の生態が判らない恐怖や羨望で、やみくもに拒否している連中の考えに感化されているだけなのだろう。


「匂いは(もと)から絶たなきゃダメか」


 匂いの素は複数いてそれぞれ主張が違うが、大元(おおもと)は人の精霊に対する知識不足だ。彼一人の認識を変えたからと言って何かが変わるわけではないと再認識すると、不機嫌さを隠してにこやかにほほ笑む。


「それで? 私は街に入ることができるのか? できないのか?」


 ここで返答を間違えればこの国が一級冒険者の反感を買うと理解している男は、くちびるを噛みしめて悔しそうにこぶしを固く握りしめる。その姿は理不尽な要求を突き付けられて脅されているようにも見え、後ろに並んでいた商人たちがひそひそと言葉を交わしていた。


「なんかさぁ。まるでアラステアが悪者みたいに見えるけど、正式な身分証もあって、レスタの従魔登録もしてあるのに街に入ることを拒否されてるこっちが被害者だからね~」


 馬の手綱を握っていたジークの肩の上にいたロイが、つまらなそうに発言した。最初ジークが発したと思った一同だったが、彼の肩からレスタの頭の上に移動したネズミが立ち上がって腕を組み周囲を見上げる。


「従魔は安全を確認されていると冒険者ギルドとエーレクロン王国が保証しているよ。それでもダメだっていうんなら、それ相応の理由を用意しないと。それと君の個人的な偏見とうわさ話を仕事に持ち込まないでほしいな」


 弁の立つ小さなネズミの姿に、背後にいた商人たちが驚きながらも納得して頷いた。そう言われると、今までアラステアが警備兵を脅しているように見えた光景が、冒険者が持ち込むモノに難癖をつけて警備兵が堂々となにかを要求しているように見えてくるから不思議である。

 周囲の空気ががらりと変わったことが判ったのか、男の手が腰の剣に伸びる。薄く笑みを浮かべたままのアラステアは身構える様子すらなく、ジークもヴァージルもただ黙って事態を見守っていた。


「何事だ」


 ここでこの砦の責任者らしい壮年の騎士が姿を現した。騎士服を着ている男性は、警備兵とアラステアたちを見ると兵長らしき男に説明を求める。


「彼らが従魔などとごまかして精霊を街に入れろと騒いでおりまして……」

「許可証は確認したのか」

「……はい」

「不備や偽造は?」

「ありません」

「では通すしか(・・・・)あるまい(・・・・)


 騎士の鋭い灰色の目が警戒や侮蔑を浮かべながらも許可を出したその瞬間、ひゅんと風が鳴った。同時にレスタが腰を上げてアラステアの腕にたてがみを押し付ける。警戒していたヴァージルが後ろで組んでいた手をほどくのと同時に、ジークが背後から抱きしめるように青年の目を片手でふさいだ。


「落ち着け」


 腕に触れる豊かなたてがみの感触。体に響く低い声。ジークの体臭と汗の匂い。顔に触れる暖かな手。守るために広げられた側近の魔力。塞がれた視界の中で感覚が捉えたのは、大好きな人たちが自分を守ろうとしてくれた(あかし)だった。大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 そうしている間に前に出たヴァージルが片手を腰に当てて彼と対峙した。


「いいや。あんたたちが俺たちを不審人物だと思うのなら、正式な許可証があろうとも拒否する権限はあるぞ。警備兵とは(・・・・・)そういうもの(・・・・・・)だ」


 だからそちらが選択をしろと突き付ける痩せた男を、壮年騎士が不機嫌そうに睨む。騎士の男は精霊が人を喰うことなどないと判っていて、今回の騒動を双方お咎めなしとして収めようとした。人の目もあるし、騎士ならばエーレクロン王国騎士団の精霊の扱いも知っているから、これ以上は不利だと判断したのだろう。

 だがそれに気が付いたヴァージルがアラステアの買った喧嘩を引き継いだ形で白黒はっきりつけさせようとしていると、ここでようやく黄金の獅子が口を開いた。


「ヴァージル。身分のある人間が一度出した許可を取り消すわけはあるまい。彼はすべてを(かんが)みて判断したのだから、我々はそれを受け入れるだけだ。そうだろう?」


 海の底のような深い青の目を向けられた騎士が促されるようにうなずくと、レスタは穏やかに笑って己の契約者を見上げる。


「アラステア。街に入ってゆっくりしようか」


 どこまでも契約者に甘い精霊王は、自分を貶されたことに反論するよりもアラステアを早く休ませることを優先させる。それに気が付いたヴァージルが苦笑を浮かべて正面から退(しりぞ)くと、アラステアを解放したジークが馬の手綱を持って先に進んだ。


「それでは街に入らせてもらう。明後日には出ていくと約束するよ」


 アラステアがまだ少し硬い表情のままレスタを連れて騎士の前を通ると、いつの間にか肩に上っていたロイが元気よく声を上げた。


「今日は美味しいものを食べようね! 楽しみだなぁ」

「……出てる。……精霊からは絶対マイナスイオンが出てる」


 それを聞いたアラステアはこぶしを握り締めて噛みしめるようにつぶやいたのだった。


改稿前の残りは10話に入れました。

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