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ドライブ×ドライバ -蒸気妖精物語-  作者: 長月東葭
第三章 -蒸気妖精-
13/55

3-1 : 強襲、また変な女

 ブォンッ!


 うなり空転したタイヤが、虚空を蹴りいた。


〈解体屋〉、エーミール・ワイズ。

 空中で、彼女の細い指先が撃鉄を起こす。


 ジャキリッ!


 中折れ(トップブレイク)式、シングルアクションリボルバー。

 撃鉄を起こす動きに連動して、六連装の弾倉(シリンダー)がガチリと回転する。フレームの隙間越しに金色に光ったのは、フル装填された弾丸の照り返し。


 黒光りする銃身は、携行性よりも弾速に重きを置いたロングバレルモデル。

 先端にぽっかりといた銃口、その奥に浮かび上がる螺旋溝(ライフリング)は、闇夜やみよのぞく獣の牙にも似て。



「見つけたぞ……〈蒸気妖精(ノーブル)〉!!」



〈グラスホッパー〉と呼ぶ蒸気駆動バイクにまたがったエーミールの黒い瞳と、サイハを踏んづけているリゼットの深紅の瞳。

 二つの目が、互いの姿を認めた、その瞬間。


 ドンッ!


 躊躇ちゅうちょも情けも、その他一切の雑念を排除して。エーミールが引き金を引いた。


 ドンッ! ドンッ!


 更に二度。宙へ躍り出たバイクが着地するまでのわずかの間に銃撃音が続く。


 一拍あって、着地の衝撃に突き上げられた緩衝装置(サスペンション)がガンッと鳴き、横滑りしたバイクが路面を削る。



「…………」



 バイクを駆っての、爆走と大跳躍。

 その間の相対風にあおられ乱れた、長く赤い癖毛をさっと背中へと払い。

 エーミールが無言のまま、きりっと精悍せいかんな小顔を向けた。



「…………」



 突然に。颯爽さっそうと。電光石火の勢いで強襲をかけてきたエーミールと対峙たいじして。リゼットのほうはと言えば、妙ちきりんな体勢でそこにいた。


 発砲音に驚いた拍子であろう。目は点。口はあんぐりと半開き。恥じらいもなく開いたまたでバランスを取り、リゼットはサイハの頭の上で逆立ちしていた。



「……外してしまったようだね」



 ドッドッドッと往復運動(レシプロ)エンジンが震えるのに合わせ、エーミールが言った。



「……ヘッ。ハズしたァ? 避けたンだヨ、アタシが」



 サイハの顔を地面にめり込ませたまま、リゼットが小馬鹿にしたように言い捨てる。

「テメェの腕の悪さもあろうが、まずスゲェのはこのアタシだ」と、張り合うように。



「……もがぁっ!」



 二人の女がにらみ合うなか、奇声を発してガバと飛び起きたのはサイハである。


 危うく窒息で意識を飛ばしかけていたサイハが、必至の馬鹿力でリゼットを押しのける。

 押しやられたほうのリゼットは空中で猫のように身をひねり、事もなげにサイハの真横へ着地した。



「ヨォ、バカヤロー。命拾いしたなァ」



〈汽笛台〉から閉め出されて以来、サイハのことは甲斐かい性なしのダメ男と認識しているリゼットである。サイハが肩で必死に息をしているのを、リゼットはいい気味だゼとニタニタ、悪い笑顔を浮かべながら言う。



「……命拾いぃ? たった今死にかけたとこだ! お・ま・え・の・せ・い・で!」



 サイハがリゼットの胸ぐらをつかむ。

 先ほどまでサイハの身体の自由を奪っていた金縛りは、今はうそのように解けていた。



「ハハッ! アタシのせいぃ? 違うゼ、サイハァ。ソレ(、、)見てみろヨ」



 リゼットがちょんちょんとサイハの背中を指差す。


 サイハのバックパック。

 そこには銃痕が刻まれていた。うっすらと硝煙まで上がっている。



「い゛っ?! し、死ぬとこだった?!」



 同じ言葉を叫ぶこと二度目にして、いよいよ事態の深刻さを悟ったサイハの顔が青くなる。



「その一発目は威嚇用。軟性弾頭だから心配ない。木の板一枚も()けないよ」



 二人にとっては初対面の襲撃者、エーミールが世間話をするかのように会話へ割って入った。



「君がどうして道の真ん中で踏みつけられていたのか、よくわからなかったからね。一般人をあまり巻き込みたくはないんだ。警告と受け取ってもらえるかな?」



「いや、いやいやいや……ちょっと待て。よくわからなかったって……そんな〝とりあえず〟で、いきなりぶっ放してくるとか正気かよお宅……」



 サイハがげっそりしてエーミールを見る。「うそやだ、この女も変な奴なの……?」と。



「ッヘェー……一発目は(、、、、)、ネェ」

 度重なる女難にふらりときているサイハの横で、リゼットが目を細めて地面を蹴る。

「だッたら、あとの二発もさぞ慈悲深いタマだッたンだろうナァ? ハハッ」



 リゼットの足元には、二発の弾痕がついていた。

 どちらも固い路面を深々と穿うがち、着弾時に発生した衝撃波でこんもりと土が盛り上がっている。



「あぁ、そうだね」

 エーミールがロングコートの裏ポケットから鈍く金色に光る弾丸を取り出し、指先で転がして。

「二発目と三発目は同種の弾丸。弾薬を増やして、弾頭も硬化処理していた」



 それはつまり――

 リゼットに向けて放った二発は、殺意をめた弾丸であったということ。



「〈蒸気妖精(ノーブル)〉が相手なんだ。これでも不安材料のほうが多い。事実お前には当てられなかったし、有効打になるのかすら確認できなかったのは下手をした。せっかくの奇襲だったのに」



 冷たい声音で所感を述べると、エーミールは指ではじいた弾丸をパシッとつかんでポケットにしまった。



「フゥン……アタシが〈ノーブル〉ッてわかンのか、テメェ」



 リゼットがピクと眉を揺らした。



「当然。〝お前たち〟のことはよく知ってる。我々はそのための〈検出器〉も開発しているからね。…………それに何より、お前のその見た目。正直、悪目立ちがすぎるよ」



「……ハハッ! おンもしれ。サイハよかよッぽど話がわかるオンナだゼ。ナァ聞いてくれヨ……コイツ、いくらアタシが〈ノーブル〉だッつッても全ッ然通じねェの。操者(ドライバ)のクセにだゼ?」



 会話に置いていかれているサイハの足を、リゼットが不満げにゲシゲシと蹴りながら言った。



操者(ドライバ)……? 君が……?」



 そう言ってエーミールが険しい目を向けてきたものだから、サイハはぎょっとなる。



「ま、待て待て!? オレは関係ないんだっつの! この暴力女とは何もなぁい!」



「ア゛ァ!? テメェすッとぼけてンじャねェぞコラァ! アタシのことほッたらかしといて!」



 必死に否定しようとする横でリゼットが迫ってくるものだから、サイハは生きた心地がしない。


 何せ相手は平気な顔で銃を向けてくるやから。どう見ても堅気ではない。

 そんな連中とのいざこざに巻き込まれてたまるものか、オレは機械部品をそろえに来ただけなのにと嘆くサイハである。


 しかし「オレは関係ねぇ」と躍起になればなるほど、関係者ですと言っているのと同義で。人生とはままならない。



「……。……いいさ。少し手荒にはなるけれど、尋問すればわかること」



 至って真面目な顔でそうのたまうエーミールが冗談を口にしている可能性は、万に一つもなく。

 いよいよサイハが逃げだす算段を考え始めた折――



「ロロロ……お待ちいただけますれば、エーミール殿」



 この場において四人目となるその声が、独特の抑揚をつけてエーミールを呼び止めた。


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