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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第四章 確かに僕は
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私の事を救ってくれたよ

「実はね私……小学校の時に両親を事故で亡くしてるの」


 徐に語りだした奏さん。僕はその内容に息を呑む。彼女の両親が事故に巻き込まれて亡くなった事、さっき会った男……叔父に当たる人に今もなお面倒を見てもらっていること……いや話を聞く限りちゃんと家族として扱ってもらってはいないようだけど。


 当時両親を失った事で今まで明るかったのが塞ぎ込むようになったと聞く。当たり前だ。両親を失えばそうなるのも無理はない。その事でクラスの連中に良くからかわれていたらしい。


 僕はそれを聞いて納得する。天道が奏さんの事で見せた後悔の念の意味を……。自分の無力を思い知ったんだ。彼女の為に傷付く事を選べなかった自分を、多分アイツは今も抱えているんだと思う。


「私の過去を聞いて……引いた?」


 僕はその言葉に目を閉じる。引けるわけなんかない……。奏さんはこれまでずっと辛い目にあってきたはずだ。それを聞いて僕が勝手に想像して引くなんて奏さんに対して失礼だ。


 奏さんはずっと孤独だったんだな……。僕も似たような境遇だけど恵まれてる方だなって奏さんの話を聞いて思い知らされる。

 

『集君がどういう思いだったのか想像はできないけど……。これから知っていけたらいいなって……そう思うんだ』


 修学旅行での言葉が蘇る。……自分の方が辛いはずなのに、何言ってんだよっ!!

 僕は目を開けて奏さんを見つめる。彼女の顔は僕達の真上に広がっている曇り空のように浮かない顔をしていた。


「集君っ!? どうしたの……?」


 奏さんが戸惑った表情をする。なんでそんな顔をしているのか最初分からなかったけど、すぐにその理由が分かった。

 僕の視界が滲み、頬に熱い物が伝う。僕は頬に手を当てて見ると、濡れていた。……そう、僕の頬に今涙が流れている。


「ご、ごめんっ!! 泣く気はなかったんだけどっ」


 僕はそう言って両手で顔を覆う。本当に最近涙腺が緩みっぱなしだ。でもこんな過去を聞いたら僕は自然と泣けてきた。


「なんで泣くんだよっ、辛いのは奏さんの……はず、なのにっ」


 僕が泣いていると奏さんの笑い声が聞こえてきて僕は顔を覆ってる手を解き、そちらを見る。


「ありがとうね、集君。」


「怒らないの? ……同情で泣いてるかもしれないのに」


 僕の言葉に彼女は笑って首を左右に振る。


「君が同情なんかで泣けるような人間じゃないって……分かってるよ」


 僕はその言葉に息を呑む。……そうか、奏さんは理解してるんだ。僕なんかの事を。その言葉にまた泣けてくる。


「それにね、集君には本当に感謝してるの」


 彼女は瞳を潤ませ幸せそうに笑って言うけど、僕には心当たりが全くない。


「そんな……。僕は奏さんに対して何も出来てないよ」


 そう、僕はいつだって奏さんに救われてる。彼女が僕の過去を受け入れてくれ、僕という人間を否定せずにいてくれた。そんな僕が奏さんに感謝されるような謂れなんてあるはずない。


「……私の事を救ってくれたよ」


 その言葉で思い出す。あれは半年前のことだ……。中山に襲われそうになった奏さんを僕が、写真や録音などの証拠材料を中山に突きつけ結果彼女を救った。でもあんなの救った内には入らない。


「中山の件を言ってるなら……」


「それだけじゃないよ」


 僕が喋ってる途中で遮るように喋ってきた奏さんによって僕の言いかけた言葉が宙に消える。


「集君は私の心も救ってくれたよ……」


 彼女の頬に一筋の涙が伝い落ちていく。


「集君と出会って色んな事を考えた……。中学の頃から無理して作った人間関係の事や、これからの自分の事……そして」


 そう言って奏さんは僕を見つめる。奏さんの顔が僅かに赤くなっていた。


「……私自身の気持ちも、ねっ」


 その笑顔に僕は我を忘れる。……なんだろう? 僕達の間で凄い甘ったるい空気が流れているようなそんな錯覚を覚える。


 僕は彼女から強引に視線を逸して


「さ、さあっ! 用事は終わったんだろ? 次は何処に行くの?」と強引に話題を変える。


「もう、集君の意気地なしっ」


 背後で奏さんが笑いながら言っている。僕は恥ずかしくなって行き先も分からないのにただひたすら歩き出すのだった――。

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