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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第四章 確かに僕は
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下の名前で呼んでよ

 ショッピングウインドウも終え、僕達は辺りを散策する。僕は歩いてる中首に吊るしたネックレスの事を考えていた。勿論、見られると面倒なので服で隠している。


 さっきの万丈の照れた顔……、可愛かった。女の子らしいとさえ思った。というか女の子なんだよな、アイツ。男友達の感覚で接していたからあまり意識してこなかったけど……。


「……っ」


 脳裏にさっき見た万丈の口紅が塗られた唇を思い出す。ぷっくりとしていて、触れたら壊れちゃうんじゃないかって思う。……って止めだ止めっ。何を考えてるんだよ、僕は。


 しかし困った……。僕は今日、まさかプレゼントを渡されると思っていなかったから何も用意していない。元々僕の周りには女の子どころかプレゼントを交換し合うような相手がいなかった。だから何を渡せば良いか良く分からない。


 季節的に考えてマフラーとか手袋の方が良いかな? あぁでも、形の残る物は流石に引かれるかな。だとすると……僕が真剣に贈り物を何にするか悩んでいると


「集君……ねぇ、集君ったらっ!!」僕は山岸さんの声に驚く。だって急に大きな声を出すもんだから。周りを見ると万丈達の姿が見えない。どうやら先に行ってしまったみたいだ。とそんな事より


「なっ、何っ!?」


 僕が慌てて聞き返すと


「なんかさっきから様子がおかしくない?」


「そ、そうかな……? 全然だよ」

 

 僕は作り笑いを浮べる。山岸さんが僕の事をジト目で睨んだ後、バッグから小さな紙袋を取り出す。僕はそれをただジッと見つめる。中身は何かは分からないけど、あのリボン……まさかな。


 僕がそう思って彼女の顔を見ていると万丈と同じように顔を赤らめ目を潤ませている。……山岸さん、お前もかっ!! 


 山岸さんは暫くモジモジした後、ギュッと目を強く瞑ってから両手で包んだ小さな紙袋をグイッと僕の前に差し出す。……あれ、おかしいな。デジャヴってやつかな?


「えっと、山岸さん……これは?」


「何って……プレゼントだよ集君」


 いやそれは見れば分かるけど……。


「えっ、今日プレゼント交換しようっていう企画あったっけ?」


 僕がそう言うと山岸さんは口元を尖らせる。……何それ可愛い。


「企画なんてしてないよ。これは私が集君の為に用意したのっ!!」


 今日は何なのっ!! 万丈に続いて山岸さんまで僕にクリスマスプレゼントを渡してくるなんて……。可愛い女の子二人に渡される僕はなんて幸せ者なんだろうと思わなくはないけど、なんで二人ともピンポイントに僕に渡してくるのっ!? モテ期かと思ってちょっと自惚れちゃうよ〜っ!! と、冗談はさておき。


「嬉しいな、ありがとう」


 そう言って僕は彼女が前に突き出した小さな紙袋を受け取る。


「……開けていい?」


 そう言うと彼女は顔を俯かせながらコクンと頷く。僕は紙袋を綺麗に開けていく。そして中身を取り出してみると


「……手袋?」


 中から出てきたのは手袋だった。紺と白で縞模様になっている手袋……。正直山岸さんがこれを贈り物にしてくるとは思わなかった。 


「ど、どうかな?」 

 

 不安そうな表情を浮かべながら山岸さんが聞いてくる。僕は笑う。


「ありがとう、これで寒い間……ずっと身につけてられるよ」


 そう言って僕は早速、手袋を手に嵌めて山岸さんに見せる。すると彼女が満面の笑みを浮かべる。


「良かった……。実はそれ、私が編んだの」


 えっ? これ手編みなのっ? 凄い気持ちが重いんだけどっ!?


「手編みなんて重すぎるよね?」


 寂しそうな顔で問いかけてくる山岸さん。


「……全然っ!! そんな事ある訳ないじゃんっ!!」


 僕の言葉に彼女は目を見開く。


「本当に? 引いたりしてない?」


「引くわけないよっ!!」


 いやまあさっきまでドン引きしかけたけどもっ。それでも山岸さんが僕の事を思って編んでくれたんだ。そんな大事な物に対して重いとか思っちゃダメだよな。


「あ、でも僕……プレゼント持ってきてない」


「いいよ……。私がしたくてした事なんだから」


 なんて優しい笑みを浮かべる子なんだろう。山岸さん君はまさに女神だって思いますっ!!


「でもそんな訳にも行かないよ」


 僕が尚も食い下がると山岸さんはポンと両手を叩く。


「なら、私のお願い聞いてくれる?」


「それでチャラになるとは思わないけど……うん、分かった」 


 お願いと言ってもそんな難しいことじゃないだろうと、僕は安請け合いをする。山岸さんはニッコリと笑って


「下の名前で呼んでよ」


 僕はその言葉を聞いて固まる。え、今なんて?


「ごめん、良く聞こえなかった……。なんて言ったの?」


「だから私の事を()って呼んでよっ!!」


 うん、聞き間違えた訳じゃないみたい。って、ええぇぇええぇぇぇーーーっっっ!!! 山岸さん何言ってるのっ!! 僕が女の子の事を下の名前で呼べる訳ないじゃんっ!!


「どうしてもそれじゃないとダメ?」


 彼女はこれ以上ない程に眩しい笑顔で


「うん。ダ・メ♡」


 うおぉぉおおぉぉおおっっっ!!! あの笑顔が悪魔に見えてきたぞっ!! でもやると言い出したのは僕だっ。腹を括るしかない。


「……か、かかっ」


 僕の様子を山岸さんは何も言わずに凝視している。いや余計に緊張するから見ないで欲しいんだけど。


「か、かなっ……奏」


 そう言うと彼女は顔を一気に赤くして俯かせる。僕もそれを見て恥ずかしなり


「……さん」と付け足した。すると俯かせていた顔を山岸さんが上げる。その顔は半ば不機嫌そうだった。え、何か悪い事したっ!?


「集君って普段はかっこ悪いよね」


 ちょっと待てっ!! なんでそんな話になるのっ!! 僕が戸惑っていると山岸さんは不機嫌な顔を崩し笑顔になる。


「でも、集君にしては頑張ったほうかな?」


 そう言って彼女は歩き出す。


「ちょっ……どこ行くの?」


「どこって……もう帰るんだけど?」

 

「皆は?」


「とっくに帰ったわよ」


 嘘っ……。皆僕達を置いて帰ったのかよ? そう悲観に暮れていると


「あっ、集君見てっ!!」と言って空を指差す山岸さん。


 僕も釣られて空を見上げると言葉を失う。だってそこには……。


「……ホワイトクリスマスよ。集君っ」


 そう、空から雪が降ってきたのだ。僕は手の平を空に向けると雪が手の平に落ちてきた。手の平に触れた瞬間に雪は水になって消えていった。とても儚いなと思いながら僕はその様を眺める。


「わぁ、なんかいい事が有りそうな予感がしてきたわ」


 明るい顔で山岸さんは言う。寒くて冷える時期だというのに山岸さんは元気だなって感心する。そして山岸さんは僕に顔を向けると


「じゃあ、そろそろ帰るわね……またね集君っ♪」そう言って山岸さんは僕に手を振る。


「うん、また新年明けたら宜しく」僕がそう言うと、彼女は不敵な笑みを僕に向けた後静かに去っていく。


 はて? あの笑みは一体何の意味が……? 僕はそう思いながら彼女の背中を見つめた――。

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