お前へのプレゼントだ
僕達はその後、腹を満たす為にファミレスへと入って各々自分の食べたい物を注文する。こうして皆で食べるのもこれで2回目だ。皆で食べる食事は一回目の時は騒々しいって思ったけど、慣れてきた為か僕も楽しんでいた。
「でも集残念だったよな……。今年は」
天道が徐にそう言ってくる。
「なんでだよ?」
「なんでって……、文化祭参加できてなかったのお前だけだぞ?」
あ〜。そう言えば、文化祭って9月の中旬に行われるんだっけ? 夏に入る前から準備が行われるとか。僕としてはそういう作業が面倒だから休めて良かったと思わなくはないけど。
「……行きたかったな」
僕達の席だけが静まり返り皆が僕を見る。……あれ? もしかしてまた僕思った事そのまま言っちゃったのかっ!!
「ボチ崎ってホントっ面白いよね〜っ」
本城さんがケラケラと笑いながら言うと周りも釣られて笑い出す。
「そうだな〜、素直なのか素直じゃねえのか。オレの中じゃ全く分かんねえけど……、そこが集のいいとこなんだろうなっ」
万丈が嬉しそうにはにかみながら言う。
「そうだな、俺も最近になってようやく気付いたよ……。集は俺にとって可愛い弟分だよ」
そう言って隣に座る僕の頭をポンポンと叩いてくる天道。
「かわっ……つうか、弟になった覚えもないってのっ!!」
僕はポンポンと叩いてくる天道の手を掴むと頭から移動させる。
「こうやってツンツンしてる態度も愛嬌があるしな」
「……っ……もう、知らない」
僕は天道とは逆の方へ顔を背け目を閉じる。それを見て皆が笑う。
……なんだろう? 今までだったらこの笑いが堪らなく嫌だった。聞いてて凄く不快になった。だけど……、今皆が向けてる笑い声は嫌いにはなれない。なんでなんだろうか?
多分、本心からなんだろうな。さっき万丈、本城さん、天道が言ったことは紛れもなく嘘じゃなく本心からだとそう思えたから。だから僕は不快にならなかった。ひょっとしたら僕がただ周りを拒絶してそういう穿った見方をしてるってだけで、言ってる本人達は本心なのかもしれない。それでも――。
今この場にいる全員が嘘を言ってるようには見えなかった……。
ファミレスで食事を終えると僕達は店を回る事にした。店と言っても色々あるけど、ここは女子が多いので服屋にすることにした。
予想通り、山岸さん達は服を色々と物色している。もう一人の男子である天道も本城さんに連れてかれて絶賛今一人ぼっちで暇中である。
天道と本城さんを眺める。本城さんが自分の服の上に商品を翳して天道に見せている。それを天道が笑って答えている。
恐らく、本城さんが『どう……これ似合うかな?』『亜希子……、お前だったらどの服でも似合うよ』とか言ってリア充満喫してるんだろうな〜。僕には関係ない話だけど。
「集……。一人なのか?」
声がしたのでそちらへ目を向けると万丈が少し顔を赤らめながらこちらを見ていた。
「え、うん……そうだけど?」
どうしたんだろう? なんか万丈がモジモジしてるんだけど。なにこれ? なんか顔も赤くて目も潤んでるし……はっまさかっ……告白っ!!
そう思っていると万丈がギュッと強く目を瞑りながら右手を僕の方へ差し出す。差し出された右手の握りこぶしからジャリッと言いながらチェーンが出てくる。
「ちょっ……鎖?」
「いや誤解すんなっ!! これはその……、お前へのプレゼントだっ!!」
僕はその言葉に固まる。……え? プレゼントって……。
「今日そんなイベント皆で打ち合わせしてたっけ?」
「し、してない……。オレが……そうしたかっ、ただけ」
……あれぇ? 万丈ってこんなに可愛かったっけ?
凄い恥ずかしそうにしてる顔が可愛く見える。彼女のギュッと瞑られた顔を思わず凝視する。
イチゴのように真っ赤に染まった頬、顔に力を込めているのか時折ぷるぷると震えている。そして彼女の唇……。プルンと柔らかそうな唇。その唇も彼女が息を吐く度に小刻みに震える。そこで僕はある事に気付く。
――万丈の唇、口紅が塗られてる……。
そう、万丈の唇には綺麗な紅が塗られていた。万丈の恥ずかしがっている表情にとってもマッチしていて、心なしか艶っぽく見える。僕は無言のまま万丈を見つめる。万丈がゆっくりと目を開け僕とパチリと目が合う。
「な、なに見てるんだよっ!!」
「……ゴフッ」
ちょっ……ちょっと待ってえぇぇええっっっ!!! 万丈、今普通にボディブロー入れてきたけど身体を鍛えてない僕にそれは本当に堪えるからっ!! 僕は殴られた腹を摩りながら彼女を見つめる。
「……ほらよ」
そう言って差し出された物は楕円のアクセサリーにチェーンが通った、どこにでもあるようなネックレスだ。
「これを……僕に?」
「っ……あぁそうだよっ。文句あるかっ!!」
僕はその言葉に首を横に振る。
「そんな事ないよ。うん、嬉しいよ」
僕がそう言うと万丈は涙を目に溜めながらニッコリと微笑む。
えっ? 何か悪い事しましたっけ? 僕が戸惑っていると
「ほら、早く受け取れよ」
顔を俯かせ、ぶっきらぼうにそう口にする。
「あ、うん」
そう言って万丈から受け取り早速首に通す。
「お、おかしくないかな?」
ネックレスを付けた僕の姿を見て満足そうに頷くと
「それオレの所有物だっていう証だから」
はぁ? いきなり何言ってるのさ万丈。
「と、とにかくっ……そういう事だからなっ!!」
そう言って去っていく彼女の耳は真っ赤に染まっていた。
僕はネックレスを見ながら本当に万丈は良いやつだよなと笑いながらそんな事を思った――。




