やっぱり良いもんだな
「よし、皆これからラーメンでも食べに行かないか?」
天道が笑顔でそう答える。
「いいね〜っ」
嬉しそうに本城さんが天道の言葉に反応する。
「そういえばこのメンバー……というか私と皐月、集君とも外食した事なかったね」
「そういえばそうだなっ、オレは賛成だぜ」
「……奏が嫌じゃないなら」
どうやら僕以外全員乗り気みたいである。
僕は席から立ち上がり出入り口に向かいながら
「じゃあ皆で楽しんできなよ……。そういうことで」と言って帰ろうとする僕の両腕を山岸さんと万丈が掴んで止める。
振り返ると山岸さんはハムスターみたいに頬を膨らませて拗ねた顔を、万丈は怖いくらいに満面の笑顔を浮かべている。
「帰らせる訳ないだろ? 集……お前も行くんだよっ!!」
「もうっ。そろそろ自分には関係ないみたいな態度止めたほうがいいよっ?」
なんで二人共僕の事になると少しムキになるんだよ? 僕抜きでも楽しめるだろうからそうすればいいのに……。
僕がそう思っていると背中にチクチクと刺さるような視線を感じる。振り返ると僕の事をすごい形相で睨んでいる冴島さんの姿。……ヒイイイィィィ〜〜〜ッッッ!!!
「わ、分かった!! たたた、食べに行こうっ!!」
僕は慌てて賛成の意を告げる。……刃物を突き付けられて脅される人の心境って多分こういう気持ちなんだな……。初めて理解したよ。
僕の言葉を聞いて山岸さんと万丈がゆっくり花開くように笑顔になる。僕はその光景を間近で見て息を呑む。万丈も綺麗だけど、それよりも山岸さんに目を奪われる。だって……本当に幸せそうに微笑むから。
「……集君どうかしたの?」
ずっと見つめている僕を不思議に思ったんだろう。キョトンとした顔で山岸さんが聞いてくる。
「……な、なんでもない」
僕はそう言って彼女から顔をそらし下を向く。あれ? どうしたんだ? 頬に手を当てる。なんか顔が暑い気がする……。修学旅行で山岸さんに抱きしめられて泣いてから、僕は気付けば彼女の事ばかり考えてる気がする。彼女の事を考えるとこう……胸が苦しくなる。なんなんだろう……これ?
「よーしっ!! 集も来ると決まった事だし、飯でも食いに行こうぜーーっっ!!」
万丈が僕に肩を組んでからそう言い放つと、それを聞いた天道と本城さんもその言葉に頷く。
そして僕達はまた吹雪いてる雪の中を6人で歩き駅へと向かう。
「ねえ、二人共くっつき過ぎじゃない?」
「そう? そんな事ないと思うけど」
「あぁ。集……お前が意識し過ぎなんじゃないか?」
いやそんなことないだろっ!? 明らかに二人僕の腕に……む、胸押し付け過ぎだってっ!! あぁでも何だろう? 片方は物凄い弾力あるのに、もう片方は当たってんのかよく分からない。
「集君、今失礼なこと考えてるでしょ?」
山岸さんが僕にジト目を向けながら言う。ちょっと可愛いからそういう目やめて欲しい。僕は山岸さんから目線を逸し今もなお吹雪いている雪を眺める。
雪……か。僕は夏と冬どっちが好きかと言われると冬が好きだ。理由はこんなにも綺麗な雪が見れるから。雪と言っても色んな景色がある。例えばこの僕達の身体に凄まじい強さで吹きつける吹雪。シトシトと静かに降る雪。中でも僕はヒラヒラと舞い降りる様に降る雪が好きだ。まるで自分の行きたい場所を自由に選んできてる気がして。
――ホント、僕とは大違いだ。
「両手に花とか……。流石だな、親友っ」
後ろから天道が僕の事を茶化してくる。
「そんなじゃないっ、それと親友とか言うなっ!!」
全く……。僕と天道は親友どころか友達でもないっていうのに。
「アハハハッ、敦……ボチ崎に嫌われてやんの〜」
笑って言う本城さん。君の事も僕は嫌いなんですけどね。
「でも……。敦がわたし以外の女と一緒だったら許さないけどね〜」
「そんな事をするわけ無いだろ……。俺はいつでも亜希子一筋だよ」
「敦……」
二人が無言で歩きながら見つめ合う。……はい、そこラブラブしてんじゃねえよっ!! 冬だっていうのにお前らのとこだけめっちゃ気温上がってんなっ!! どうせ僕にはそんな甘くてキラキラしたような事はないの分かってるけどさっ。
「ふん、いいもんっ。年を取れば胸なんて空気の抜けた風船なんだから」
なんか山岸さんが凄い事言ってる……。あまり触れないようにしよう。そうして僕達は駅に辿り着くとラーメン屋へと赴く。
「うんっ、皆で食べるのはやっぱり良いもんだな」
天道が味噌ラーメンを食べながら感慨深そうに天道が言う。
「僕はもう少し静かに食べたいけどな」
こんなにうるさい食事は初めてだ。しかも会話をする内容はテレビで放送されている話題のドラマの話。……僕は見てないから聞き役に回ってるけど正直辛い。
「そんなこと言って〜っ、奏や皐月と一緒だから嬉しいんでしょ〜っ?」
本城さんが戯けて言ってきた。……僕殴っていいかな? 良いよね?
「私は集君と一緒に食べれて嬉しいけどな?」
「オレもな」
山岸さんと万丈が笑って言う。……いやまぁ、僕としても嬉しいけど。
「私は全然嬉しくないけど」
冴島さんの冷たい視線が僕へと向けられる。……なんだろう? 山岸さんが関わると当たりがキツくないか? 僕はまだ温かい塩ラーメンを黙々と食べる。喉を通った塩ラーメンの温かさが腹に渡っていき彼女の冷たい視線で冷え切った心が温かくなるようだ。
「まぁでも、明日から楽しみだな青春部」
笑顔で言う天道に僕と冴島さん以外全員が笑う。僕はそんな光景を眺めながらふと思う。
この光景が僕の欲しかった物だったのかな……って。確かにうるさくて喧しいとは思うけど嫌じゃない。何故なら今笑ってる彼女達には裏表が存在しないってそう思えるからだ。……まさか、山岸さんと関わるようになってからこんな風になるとは思わなかった。
願わくば、彼女達との関係がこのまま続いて行ってほしいと僕は嬉しそうに笑う山岸さん達の姿を見ながらそう願うのだった――。




