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関係なくなるのよ 下

今回は冴島凛視点でお送りします。

 私は学校に登校する。修学旅行を終えてから2週間が経った今日、また黒崎集の和に新たな人間が加わった。その人物に周りが驚く。……勿論私も。


「おはよう、集」


 そう、彼の輪に加わった人間はクラスでのリーダー的存在の天道敦。最初この光景を見た時は私も含めて皆戸惑いを隠せなかった。


「だから、その集っていうの止めろって!!」


 黒崎集が心底嫌そうな顔で天道君に言っている。


「全く……。相変わらずお前は釣れないな」


 そう言いながら、彼は自分より10センチ低い黒崎集の頭に手を置きポンポンする。


「なっ!? 頭ポンポン叩くなっ!!」


 黒崎集は頭に置かれた天道君の手を払いのけながらそう言い放ち、どんどん先へと歩いていく。


「あっ、集待てってっ!?」


 天道君は慌てた様子で彼の後を追いかけていく。


「あ~、ボチ崎だっ!!」


「ぐっ……、また面倒なのが来たっ!!」


 声のした方へと視線を向けると先を歩いていた黒崎集の前に彼の輪に新たに加わった二人目がそこに立っていた。


「ヒっど〜イっ!! わたしそんなに面倒くさくないと思うけどな〜」


 そう言って彼女……本城亜希子は自身の金に染めた長い髪の一房を手で掴みクルクルと回す。この光景もまた最初に見た時皆が驚いていた。特に修学旅行では黒崎集の悪い噂が校内に広まっていたのに。その当事者である本城さんが彼に積極的に関わっている……。普通なら違和感しかない。


 でもなんとなく、想像がつく。黒崎集がまた誰かの為に傷付いたんだって……そう思った。自己犠牲……それは人によっては尊いと思われ、また敬遠される行動。私はこの行動を尊い事だとは思う。でもだからといって、それが私に出来るかというと話が違う。

 

 結局私は自分可愛さに奏の為になにも行動が起こせないんだ。そんな自分が憎い。よく、ドラマや小説で『誰だって自分が傷付くのは嫌なんだ』という言葉があるけどその通りだと思う。傷付いて自分にメリットがあるなら良い。でもデメリットしかない事に私は積極的にはなれない。


 私は今目の前で項垂れている黒崎集に目線を向ける。彼は何故平気で自分が傷付く道を選択出来るの? 私には不思議でしょうがない。

 

 傷付く事を恐れていないの? 彼を認識したあの時、こんな事が出来る人間だと思っていなかった。もっと軽薄で自分以外の人間を信じていない……、そういう印象を抱いていたのに。


 気付けば彼の周りには沢山の人に囲まれている。そしてその中にはいつも気にかけている私の親友である奏もその中にいる。彼女は黒崎集の事になると彼女は色んな顔を見せる。最近万丈さんも彼の事が気になっているのか、よく彼と一緒にいるのを見かける。


 その事で前に奏はこう言っていた。


『皐月が集君に密着しすぎてて、このままだと私集君取られちゃうかもっ!!』と。


 私は素直に、なら奏も彼に密着すれば良いじゃない? と言ったら突然ボッと音が出そうな勢いで顔を真っ赤にしてオロオロしだしたのを私はこの先一生忘れないだろう。


「おはよう、凛」


 後ろから声が聞こえて振り返ると奏が満面の笑みで立っていた。


「おはよう奏……。黒崎集なら、あそこで天道君と本城さんに遊ばれているわよ」


「ちょっと、凛っ!? なんで集君の居場所を真っ先に教えるのよっ!! それじゃあ私が四六時中集君の傍に居たいって思ってるみたいじゃないっ!!」


 逆に奏……。それ以外に何があるのか教えてほしいんだけど?


「それより……。なんか最近凛……元気なさそうに見えるけど、どうしたの?」


 ……っ。奏っていつもこういう所鋭いのよね。私は滅多に見せない笑顔を無理矢理捻り出してみせる。


「元気よっ……。ほらっ、この通りっ!!」


 そう言った私の顔を奏はジト目で見つめてくる。……っ、私この目に弱いのよね。こうなんていうか、何かとてつもなく悪い事をしている気がして……。


「はぁ、悪かったわよ」


 私のその言葉を聞いて笑顔になる奏。


「もう、普段笑わない人が笑うのは嘘ついてる証拠だって事を理解した方が良いわよ」


 その論法だと私いつ笑えばいいの? でも、嬉しいな……。こうやって私の変化に気付いてくれたって事は、気に掛けてくれているという証拠だから。


「ごめんね、奏……」


 素直に謝る私に満足気に頷く奏。


「うんっ。でも本当にどうかしたの?」


 心底心配していることが伝わる必死な顔を向けられて私は顔を下に俯かせる。……恥ずかしくて言えない。奏が黒崎集に取られそうで嫌だなんてっ。


 首を傾げながら暫く見ていた奏が私の手を取る。突然の事に私は顔をあげる。


「凛……。忘れないでね。いつでも私は貴方の……()()()()()()()()()()()。」


 私にそう言った奏の笑顔が眩しく見えた。


「じゃあまた後でねっ」


 そして彼女は私の手を離すと黒崎集の元へ駆け出していく。私はその後ろ姿を眺めながらこう思う。


 ……あぁ、やっと私の知ってる山岸奏に戻ってくれたんだって――。


 私の知ってる奏はいつも無邪気に笑って子供みたいに純粋で。でも、人の気持ちにはいつも敏感で優しい……。そんな素敵な女の子。


 だからこそ、切なくなる。どんなに黒崎集の事が好きだったとしてもそれは決して()()()()()()()()()だから。だって奏は――。


 私は、黒崎集の元へ駆けていく奏の背中を見つめる。


 奏……。卒業したら今想ってる黒崎集とは卒業したら関係なくなるのよ。それでも貴方は、卒業するまでその小さな男の子の事を思い続けるの?


 私は駆けていく奏の背中を見つめながらそんな思いを抱くのだった――。

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