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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第三章 結局僕は
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お前の頭の中は相当

 集合時間になるまで散々喫茶店で馬鹿にされ笑いものにされた……。久々に人の悪意ってものを直接受けた気がする。正直疲れた。


 集合場所に着くと僕はグループから少し離れた座席に腰掛ける。そして少し遠い目をしながら本城に言われた事を思い出す。


「いつも暗い顔しててチョーきもい」


「生きてて楽しいの? いっそ死んだほうが良くない?」


「なんで今日普通に修学旅行に来たのよ? アンタがいても邪魔でしかないから来てほしくなかったんだけど」

 それを聞いた周りの連中が盛大に笑い出す。正直言われ過ぎて辛い。


 泣き出しそうだけど、泣いたら泣いたでまた何か言われるだろうから絶対泣いてなんかやらない。そうして気張ったけど流石に精神が疲れる。

 まさか初日にこんなに疲れるなんてな……。今言いたい事は唯一つこの台詞だけだ。


――燃え尽きちまったぜ……。真っ白によ……。


 まさかここに来てあの伝説のボクシングアニメの主人公の気持ちが分かるなんてな。まぁ向こうは肉体的な方だけど、僕は精神的に死にそうだ。

 これをあと今日を入れて3日か……死ねるな。僕は、顔を両手で覆って暫く固まっていると


「黒崎……。大丈夫か?」

 と、声を掛けられる。声のした方へ顔を向けると心配そうに僕の顔を覗き込む天道がいた。


「これを大丈夫なように見えるんだったら、お前の頭の中は相当お目出度いことになってるんだろうな」

 僕は天道に対して悪態をつく。それだけの事を言う元気はある……。というか、言ってないと今すぐにでも崩れ落ちそうだ。


「それだけの事を言う元気はあるみたいだな」

 苦笑しながら言う天道。


「僕から離れた方がいいんじゃないか? あそこ見ろよ」

 僕は顎をその方向へ振って示す。示した先には親指を加えながらこちらを妬ましそうに見ている本城の姿。


「別に……。気にすることじゃないだろ?」

 その光景を見て肩を竦める天道。そして真面目な顔をして僕の目をじっと見てくる。


「な、なんだよ?」

 何も言わず見つめてくる天道を不審に思い僕は問いかける。


「なんで……。言い返さないんだ?」

 真剣な顔で聞いてくる天道に盛大に溜息を吐きたくなるがグッと堪える……。今そんな事をしたら気持ちが滅入るだけだ。


「本当の事なんだから……。言い返しようもないだろ?」

 僕は明後日の方向に顔を向けながら答える。……はぁ、喫茶店での罵倒が終わったら今度は天道……、お前とのディスカッションかよ。


「もしかして相当無理してないか?」

 心配そうな表情浮かべて言ってるけど、今相当無理してるのお前のせいだからな。僕は目を閉じる。……あぁ、早く一人になりたい。


「先生にさっきの事を言ってくる」


「おい待てっ」

 いきなりなんて事言い出すの? それは逆に面倒な事になるって事貴方分からないのかしら? バカなの死ぬの?


「天道……。お前本当に頭お目出度いことになってるのな」

 僕は堪えていた溜息を盛大に吐く。……あぁもうなんか、なにもやる気がおきなくなってくる。


「良いか? お前のやろうとしてる事は確かに正しいよ。けどなそれを先生にチクったって事で結果お前が孤立するか、チクったのが僕だって思われて逆にエスカレートするかの2択だって僕は思うけどな」

 本城が反省するとは思えない。あれは人の痛みなんてものを理解してない……。じゃなきゃ人を傷付ける言葉をあんなに楽しそうに口になんか出来るわけない。

 それに教師である美紗ねえに迷惑を掛けたくないって言うのが本音だ。


「ならどうする?」

 思いつめた顔で問いかけてくる天道。いやお前が被害を受けてる訳じゃないんだから……。そんな顔すんなよ。見てるこっちが泣きたくなってくる。


「なにもしない」

 僕が平然と答えると天道はその言葉に目を丸くする。

 

「それじゃあお前がっ」


「大体」

 僕は天道の言葉を遮る。

 

「誰も求めてないだろ……。それに良いじゃないか、お前が傷付いてる訳じゃないんだから」

 僕は空港内の天井へと目を向ける。


 人間は脆い生き物だ。だから出来れば傷付きたくないと思う……。でも、世の中それだけでは生きていけない。

 唐突に問題を出して悪いんだが皆は集団において一番結束力が高まる事はなんだと思う? 答えは至極簡単、共通の敵の存在だ。


 さっきの喫茶店でそうだったけど、僕の事を本城が馬鹿にしたら周りが盛大に笑っていた。これは一種の協調性というやつだ。あの集団は僕の事を敵と判断し本城あるいは誰かが馬鹿にしたら盛大に笑うんだろう……。文字通り馬鹿の一つ覚えのように。


「そんな事出来ないっ。理不尽過ぎるだろっ!!」

 声を荒げる天道の姿に僕はウンザリする。天道……。お前のその正義感が通るのは長くて中学生までだと僕は思う。


「天道……。誰もがお前みたいに正しい訳じゃない」

 僕はそう言って腕にしている時計を見る。集合時間の5分前を時計は示していた。


「……黒崎」

 呆然としながら僕を見つめてくる天道から顔をそらし僕は立ち上がり天道の脇を通り過ぎる。


 天道……。お前は間違ってない。僕が歪で捻くれてるだけだ。

 それでも僕は傷付くのを辛いと思うけどその行為を嫌ってるわけじゃない。必要とされる時だってある……。それに、その道を選んだのは僕自身の意思だ。


 僕は窓から覗く滑走路と雄大な空を眺めながら、これから3日間僕の心が壊れませんようにと祈っていた。

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