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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第三章 結局僕は
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キモいじゃんアンタ

 自由行動になって僕達は空港内の喫茶店に入ることにした。理由は飛行機に乗る11時まで約1時間30分。それなら時間になるまで喫茶店で過ごそうという話になった。

 無論僕の意見など反映されていない、それどころか求められてすらいない。


 この感覚……懐かしいなと感じる。集団として組み込まれてはいるけど誰からも相手にされない。その場にいるのに僕はそこに存在していないような感覚……山岸さんと関わる前の僕に戻った気分だ。

 

 喫茶店に入り僕達は出入り口に一番近いテーブルで立ち止まり席に腰掛ける。そしてメニューを開き小腹が空いていたので適当に安い食べ物を頼むと天道達は喋り始める。


 話してる内容は沖縄に着いてから何をするかという話題が殆どだった。僕は全員が話してる様子を遠巻きに眺めていた。


「アンタもなんか喋りなさいよ」

 突然本城が声を掛けてきた。僕は咄嗟に身構える……なんだいきなり?


「アンタの噂色々出回ってるから本当かどうか確認しようと思って」

 見てて晴れ晴れする満面の笑みを浮かべる本城。


 何言ってるんだ? 

 お前が噂を流したんだろうが……確固たる証拠はないけど。


 僕は本城を睨みつけるように眺める。


「な、何よ……まさかあたしが噂を流したとでも思ってんじゃないでしょうね?」

 怒りを顕にした顔で問い詰めてくる本城。


 ええ思っとりますとも……なんていつもだったら言うけどこの修学旅行では絶対に喧嘩はしないって決めたからな……よしっ!!


「全然思ってないよ」

 僕は明るく笑ってそういう……テンション高めに。


 すると、その場の全員が静まり返る……あれ、僕なんかミスった? 暫くして天道以外の全員がドッと勢い良く笑い出す。

 

「アハハハっ」

 僕はその笑い声を聞いて嫌な記憶を思い出しそうになる。

 慌てて僕は首を横に振ってその記憶を掻き消す。


「今のはないわ……アンタあれで笑ってるつもり?」

 まだ笑い過ぎで腹が痛いのか腹を抱えながら本城は言う。


「ハハッ……ハ〜ッ、久々に盛大に笑ったわ

 でもこれでアンタがやったんだって確信したわ」

 軽い調子で言う本城。


「なんでそう言えるんだよ?」

 僕は少しムキになって尋ねる。


「だって、キモいじゃんアンタ」

 僕はその言葉に耳を疑う。


 は? そんな理由で噂が本当だって確信した? 

 バカじゃないのか。僕は呆れて何も言う気になれない。


 僕は天道に視線を向ける。すると彼は周りの顔を伺っているようで目立つよつな言動を取らないようにしている感じだった。


 分かるぞ天道……。人間なにが原因で嫌われるか分からない。だから最新の注意を払って毎日を過ごさなくちゃならない。本当お疲れ様……。


 天道みたいな人間は別段珍しくない。寧ろ天道のようなスタンスの人間が一般的な考え方だと思う。


 さっき言ってた僕と最初に出会った頃の山岸さんもこんな感じだった。出る杭は打たれるという諺があるけど、本当その通りだって思う。だから山岸さんや天道は学校という組織の輪の中で気を遣って

上手く人と付き合ってきたんだろう。


 でも僕は思う。果たしてそうして出来た友情は本物なのだろうかと。人に気を遣うのは当たり前のことだ……それが出来なきゃ今目の前で僕を小馬鹿にして笑ってるクズの出来上がりだ。 


 最低限気を遣ってその上で楽しくやっていくのが本当の友情なんじゃないのか? 


 喧嘩なんていくら仲が良くても起こり得ることだ。大事なのは普段からトラブルの原因となる事をなるべくしないようにすることであって、その張本人以外の人間が普段より気を遣うのは間違ってるように感じる。


 理想論を口にしてるのは分かってる……だから僕は他人に求めたりは

しない……いや、しないようにしてたと言った方がいいかも知れない。天道、認めてやるよ。確かに僕は心の奥底で人を求めてる。けど、こうも思う。


 人は元来孤独を嫌う人間が殆どだ。その孤独を誤魔化す為に人は群れを成す……こんな事を以前言ったと思う。

 なら一つ疑問だ……。その寂しさを誤魔化すために出来た友達。そこに果たして友情は存在するのか?


 今目の前で天道が周りの顔を伺いながら、ただ黙って見守る……それは友情とは呼べないんじゃないのか?

 僕は他人に気を遣うくらいなら僕は一人で良いと思っていた。誰かに干渉されたくない……そう思っていたのに。


『これからも、よろしくな……集』


『……私と友達になってくれませんか?』


 二人の言葉が脳裏に蘇る。そう、僕は確かにそう思っていた。

 だけど、山岸さんと万丈は違う……。仲良くしたいと心の底から思えた。何故かと理由を聞かれたら困るけど強いて言うなら嘘を感じないから……かな。


 多分、自分と似たような物を感じたからだと思う。山岸さんや万丈は心の奥底に何かを抱えてる。万丈の場合で言うなら妹さんだ……。

 そういえば、落ち着いたら施設に顔を出すようにって言われてたっけ。


 と話を戻すと何かを抱えてる人間はその重みに耐えかねて僕みたいに捻くれてしまう人間が多い。だけど、山岸さんや万丈は必死に耐えて前を見続けてきた人間なんだろう。


 ――だからこそ普通の人より真っ直ぐでそんな二人に僕は憧れているんだと思う。


 だからその二人に少しでも近付く為にもこの嘲笑に耐えなければっ!!そう思いながら僕は本城の罵詈雑言を聞いていた。

 

 

 

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