当然そうなるよね
「おい黒崎、起きろっ」
僕はその声に従い目を開けると
天道の顔が間近に映る……近っ!?
普通に近いんだけどコイツ、ホモかっ!?
僕は窓から外を眺める。
そこから見えた景色はアスファルトで出来た地面
に何台もの飛行機が停まっていた。
まるで翼を広げたまま飛ぶのを今か今かと待つ鳥
のように。
どうやら僕は伊丹空港に着くまで本当に寝てしま
ったらしい。
まぁ別に天道と話さなくて済んだから僕としては
有難いことだ。
僕は立ち上がる。
そして出入り口に向かおうと
体を天道の方に向けると
「そろそろ降りるみたいだ。
今黒崎先生が他の先生と打ち合わせしてる」
笑顔で聞いてもいないことを教えてくる天道。
つまりまだ時間に余裕があるのか……。
僕は旅のしおりを取り出す。
次の飛行機に乗る時間は――。
「次に乗る飛行機は11時だよ」
僕が調べようとした事を軽々と答える。
僕は天道を凝視する。
旅のしおりを出してる訳でもないのによく答えら
れるものだと感心した。
相当読み込んだのだろうか?
「因みにそれまでの間は班ごとに自由行動って事に
なってる」
そんな細かい事まで知ってるのかよ。
相当の暇人なのかコイツ?
にしても……。
僕は再度窓から見える景色に目を向ける。
先程と変わらず何台もの飛行機が滑走路から少し
外れた場所で停まっていた。
班ごとの自由行動……。嫌な響きだ。
どうせなら個人での自由行動にして欲しかった。
でも、残り2時間近く……。
回れる場所にも限りがある。
僕だったら空港内を散策するのにその残り時間全
てを使い切る自信がある……基本遠出したくないか
らな。
前の座席からこちらに顔を向けてくる人がいる。
本城だ……。
本城は僕の顔を見ると嫌悪感丸出しの顔を作る。
当然そうなるよね、でももう少し隠せよ。
そんな露骨にやられちゃうと僕傷付いちゃう。
僕このあとグレちゃうぞ? と内心下らない事を
考えていると
「ねぇ敦……。このあとどうする?」
と、嬉しそうな声をあげる本城。
「まずは皆合流して……それから行きたい所を決めよ
う」
天道はゆったりとした口調で答える。
なんだその、俺余裕ありますよみたいな態度……。
僕は二人のやり取りを眺める。
これから今日を入れて3日間……この二人を入れた
計6人で過ごす事になる。
正直……集団行動を送ってこなかった僕としてはか
なりストレスでしかないんだけど……大丈夫かな?
過度なストレスで死んじゃわない? 死ぬのは言い
過ぎだけど病気になりそうな気がする。
暫くして僕達は飛行機から降りて空港内へと映
る。一学年が悠々入れるスペースに辿り着くと
先生達の説明が始まる。
僕はそれを軽く聞き流しながら周りを見る。
黒いスーツに赤、青、黃と三者三様様々なスカー
フを首に巻いたCAがトランクを引っ張って歩い
ている。
これからフライトか……。いいな……僕としては早く
お家に帰りたい。これがホームシックというやつ
だろうか?
説明が終わり各々自由行動へと入る。
さて、1つ目の関門だな……。とそんな事を思ってい
ると
「集君」 「集」
僕の名前を呼ぶ2つの声。
振り向くとそこには山岸さんと万丈がいた。
「どうしたの? 二人とも」
彼女達とはグループが違う……。
自由行動になったといえ、基本グループでの行動
のはず。
「お前が寂しい思いしてないかと思ってよ」
僕の頭にポンと手を置いて意地悪そうな笑みを浮
かべる万丈。
僕をからかうつもりだな万丈……。
でも、少し有り難いって思う。
ここまでの間
心休まる時間があまりなかったから。
「集君、夜になって旅館に着いたら就寝時間になる
までだったらお話できるから。それまで我慢だ
よ」
優しげな笑みを向けてくれる山岸さん。
ああ凄い癒やされる……。ってなんか二人とも僕の
事寂しくて死んじゃうウサギみたいな小動物扱い
をしてるように感じるんだけど。
僕は頭に置かれた万丈の手を払いのけながら
「別に……。寂しくなんかないよ
天道達とも上手くやってるし」
はい、なんで嘘吐くかなーっ。
僕絶賛嫌われてるじゃん。さっき思いっきり本城
に露骨に嫌な顔されてたのにどの口が言ってるん
だっ僕ーーっっ!?
そういう僕の姿を見て二人は笑う。
なんで笑うんだよ……。僕がジト目で二人を見ると
「ゴメン……。集君はどこ行ってもブレないなと思っ
て」
「ああ……。そんだけの事が言えるなら今日一日問題
ねぇなっ」
そう言い終わると同時に万丈が抱きついてくる。
ちょっ、なにしてんのっ!?
「ちょっと皐月っ……なにしてるのっ!?」
山岸さんがあたふたしながら聞く。
なんでそんなに慌ててんの山岸さん?
「なにって……。充電だよ充電」
僕はその言葉に首を傾げる。
僕……いつから充電機器になったんだよ?
「いいから離、れてっ」
僕と万丈の間に入った山岸さんが僕と万丈を引き
剥がす。
「チッ……意外と力強えな。
ま、集成分は充電ほぼほぼ完了したし……良しとす
るか」
ちょっと待て万丈……。集成分ってなんだよ、集成
分って。
万丈は僕を見て満面の笑みを浮かべた後、自分の
グループへ向かって歩き出す。
「もう皐月ったら……。油断も隙もないんだから」
グループの元へと向かう万丈の後ろ姿を呆れた様
子で眺める山岸さん。
そして僕の顔に視線を移すと抱きついてくる。
「ちょっ、山岸さんっ!?」
え〜〜っっ!? 今日なんなのっ!?
修学旅行初日からなんか山岸さんと万丈がおかし
いんだけど……。いや、僕としては嬉しい限りだけ
どもっ。
数十秒してから山岸さんが僕から抱擁を解き離れ
る。その顔は真っ赤に染まっていた。
「あの……、山岸さん?」
僕が戸惑った声を上げると
「私も集成分足りなかったから充電しちゃったっ
♪」
と、人差し指を頬に当て可愛くウインクしてくる
山岸さん。だけど頬は依然として赤いままだ。
言い終えると同時に「じゃ、じゃあねっ」と
顔を俯かせながら逃げるように去っていく山岸さ
ん。
なんだ? 集成分って言葉流行ってんのか?
そして恥ずかしいならやっちゃダメだよ……山岸さ
ん。
「モテモテだな、黒崎」
茶化すように言う天道。
僕は去っていく
山岸さんと万丈の後ろ姿を眺める。
二人は僕の事を心配して来てくれたんだ。
この修学旅行……二人の為にも問題は起こさず平和
に過ごせるよう頑張ろうっ!! と二人の後ろ姿を
見て、決意を固める僕なのであった。




