僕も同じだから
15時、僕は奏さんとの約束通り山龍小学校の前に来ていた。だけど約束の時刻になっても奏さんが一向に現れない。でも僕は別にその事で来ないかもしれないという不安は一切なかった。だって彼女は……。
「集君、お待たせっ!!」
背後からいつも聞き慣れている声が聞こえた。僕はゆっくりと後ろを振り返る。そこには額に薄っすらと汗を流している奏さん。
そう。だって奏さんは……誰よりも人と人の繋がりを大事にしている人だって事を僕は知っているから。
「ううん、今着いたところだから大丈夫だよ」
肩で息をしている奏さんに僕は優しく声を掛ける。
「そ、そう? なら良かった……」
彼女はほっとひと息つくと僕を真っ直ぐに見据える。
「それで、希空ちゃんはまだ来てないの?」
――キーンコーンカーンコーン
奏さんが僕に尋ねた瞬間、山龍小学校からチャイムが鳴り響いた。
「丁度今、授業が終わって放課後になった所だよ」
確か僕が通ってた時、この曜日は5限までのはず。
暫く待っていると学校の出入り口から沢山の生徒が出てくる。どうやら僕の読みは正しかったようだ。
「後は、希空ちゃんが来るまで待てばいいわね」
そう。奏さんの言う通り待てばいい。あの金髪なのだから1目見れば気付くはずだ。だけどいくら待っても彼女が現れない。
「どうしたのかしら? もしかして部活?」
「どうなのかな?」
希空ちゃんが部活……。あり得なくはないけど会った時にそんな感じは一切しなかった。結局僕達はもう少し待ってみようという話になって、もう30分だけ待ってみることにした。するとボロボロの姿で出入り口から出てきた希空ちゃんの姿が見えた。
「「希空ちゃんっ!?」」
僕と奏さんはそう声を上げてから彼女の元へと駆け寄っていく。
「……なにしに来たのよ?」
この前と同様、無表情な顔で言う希空ちゃん。だが彼女の綺麗な顔は今、何者かに殴られたのか凄く腫れていた。
「誰が……誰がこんなことをっ!?」
その瞬間、希空ちゃんが出てきた出入り口からゲラゲラと耳障りな笑い声を上げながら出てきた連中を見て僕は納得する。僕の目の前に現れたのは林間学校で希空ちゃんの事を、仲間外れにしていた子供達だった。彼等は僕達を見つけると笑い声を止めた。
「お前達か……。お前達がこんな事をしたのかっ!?」
「やめてっ!!」
僕が詰め寄ろうとすると希空ちゃんが拒絶の言葉をあげる。
「な、なんで?」
「なんで? それはこっちのセリフだよ……。こんな事をしたって何もならない。余計な事しないでよ……」
希空ちゃんはそう言うと走り出す。僕はそんな彼女の後を追いかけはしない。追いかけたかったけど何も言える言葉が思いつかなかったから。
「集君、私追いかけるねっ!!」
奏さんは立ち尽くす僕にそう言うと希空ちゃんの後を追っていった。僕は希空ちゃんに暴力を振るった彼等に目を向ける。彼等は「ヒッ」と言って肩をビクビクと震わせていた。
「なんで……なんだよ?」
なんで、いつになっても虐めって……なくならないんだよ?
なんで大人がそれを黙認するんだよ?
なんで虐められてる方が悪いみたいな風潮なんだよ?
「教えろよ……。お前等はなんであの子、坂巻希空を虐める?」
集団の1人が、女の子が答える。
「だってあの子、ムカつくんだもの。母親が外人でだからあんな金髪で……。でも皆と違うじゃない? 正直言って気持ち悪いのよ?」
僕はその理由を聞いて心底腹が立つ。金髪だから……? 彼女が父親が日本人なら外人と日本人の間に生まれたハーフって事になるけど、そんな理由で……
「そんな理由で希空ちゃんに暴力を振るったのか?」
「えぇ、だってあのお人形みたいに整った顔も、心底気持ち悪いんだもん。それに何をされたってアイツは嫌な顔1つしないし」
よく分かった。コイツ等は人の痛みに無関心なクズだと言う事が。僕の1番嫌いな人種だと言う事が……。
「ふざけろっ!!」
僕が突然大きな声を出した事により彼等は、ビクッと身体を大きく震わせる。
「金髪だから……。顔がお人形みたいに整っているから……。そんな下らない理由で希空ちゃんを虐めたのかっ!?」
僕の言葉に女の子が開き直る。
「なによ。アイツに余計な事しないでって言われてたくせに。まだなにかするつもり?」
「あの子の気持ちをよく知りもしないくせに、そんな事を軽々と言うなっ!!」
僕はなんとなく分かる。多分あれは希空ちゃんなりの処世術なんだろう。いくら手を上げられようと虐められようとずっと耐える。そうする事でしか自分を守る事が出来なかったんだと。僕には分かる。だって僕も……同じだから。
誰にも相談が出来なくてその結果出た答えが耐え続ける事。周りの人間には誰1人頼らずに過ごしてた。今の希空ちゃんはそんな小中学時代を過ごした僕と同じだ。
「っ……。ならどうするっていうのよっ!! アンタになんか出来るっていうのっ!?」
「確かに……。僕は同じ学校に通ってないから。直接力にはなれない」
僕の言葉に女の子は厭らしい笑みを浮かべる。
「でも僕は、あの子の友達だから。だから」
僕はそう言って彼等の方へ歩みを進める。
彼等は向かってくる僕に肩を震わせビクビクするだけで逃げ出そうともせずにいた。僕が彼等の前に立つと
「次あの子に手を出したら許さないっ!!」
それだけ言って僕は後ろを振り向き駆け出す。後ろからはわんわんと泣き叫ぶ何人かの声が聞こえた。
そうだ。誰も力になってくれないなら、僕が……いや、僕達が坂巻希空の力になればいい。僕は心の中でそう誓いながらポケットからスマホを取り出す――。




