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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第八章 それは長いかもしれない
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そ、そんなことないよっ

「お前、凄いよな……」


 歩が坂巻希空の手を引きながら歩いてくる僕を見て言う。歩の顔を見ると微笑んでいた。


「全く……この後の事とか考えてないでしょう、集君?」


 僕は奏さんの質問に口を噤む。

 その通りだからだ。僕はその場の感情でやってしまったけど、根本的な解決にはならない。


「勝手な事をしないでよ」


 不意に横からそんな言葉が聞こえると同時に、坂巻希空の手を掴んでいた手が振り払われる。


「私、助けてなんて言ってない……」


 目を伏せながら坂巻希空は言う。目を伏せてる姿はまるで、今の自分に居場所なんてないと言ってるように見えた。


「そ、そんなことないよっ」


 大きな声が耳に響く。

 声のした方を見ると木下さんの姿。


「雫……」


 木下さんの傍にいた蓮君が戸惑いの色を含んだ声で木下さんの名を口にする。


「わ、私には分かる……。今の貴女、か、悲しそう……」


「私は別に悲しくなんか……」


 明後日の方向を見ながら素っ気なく言う坂巻希空。


「か、悲しいよ。だって……私がそうだったんだもん」


 と木下さんはどこか遠くを見るような目で言う。

 彼女はついこの前まで虐めを受けていた。中学から続く虐めに。

 蓮君が辛そうな表情で木下さんを眺める。


「ま、周りに頼れる人がいなくて……。そ、そんな自分を守る為に、平気なふりして。でも誤魔化せない」


 彼女は伏せていた目を上げてまっすぐに坂巻希空を見据えると


「自分の気持ちは誤魔化せないんだよ……」


 その言葉に僕は驚く。彼女が吃らずに言えたこともそうだけど、僕と全く同じ考えを持っていた事に衝撃を受けた。


「…………」


 坂巻希空は何も言わずに顔を伏せる。これ以上何を言っても、聞いてくれないだろうな。木下さんもそれを悟ったのかそれ以上は何も言わずに自分の席へ移動していく。

 

「さぁ、カレー……冷めないうちに食べよう」


 僕はそう言って坂巻希空の肩を軽く叩く。

 彼女は顔を伏せたままトボトボと歩き出す。僕はそんな彼女の後を黙って付いていく。

 僕達の食べる場所に着くと彼女はどこに座ればいいのか分からないのだろう。辺りをキョロキョロと見回していた。


「ほら座りなよ……」


 僕はそう言って席に着くとその隣を指し示す。

 暫くぼーっと眺めていた坂巻希空だったが、特に抵抗するなどといった事もなく、僕の隣に座る。


「思ったより素直じゃ~ん」


「集とは大違いだな……」


 おいそこの2人、後で覚えてろよ。僕は恨めしい気持ちで敦と本城さんを見つめる。


「さぁ、早いとこ食べよう……。この後も色々あるんだから」


 そう言って奏さんが食べだす。皆もそれに倣って食べ始める。僕は奏さんを見つめる。昨日の事についてはどちらも触れていない。なんか距離が出来たみたいで、少し寂しい……。そう思いながら僕は新しい食器を受け取りに美紗ねえがいる教師陣の元へ行くのだった――。

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