あの子が孤立してる理由ですよ
結局、あの金髪の女の子と1言も喋らずに目的の場所に着く。木々に囲まれた森林。ここで皆テントを張って3日間を過ごす。まぁ、3日目の朝にはそのテントを撤去することになるんだけど。
「さぁ皆、テントを協力して張ってね〜」
僕は元気にそう言った人物に僕は近付いて行く。
「なんで美紗ねえが仕切ってんだよ?」
僕は呆れ半分にそう聞く。
「……だってやりたかったんだもん」
「『だってやりたかったんだもん』じゃないよっ。全く……」
美紗ねえがそういう気持ちも分からなくはないけどね。美紗ねえは元々、小学校の教師になりたかったという話を美紗ねえが教員免許を取ったときに聞いたことがある。まぁそれでなんで、保健医になったのかは知らないけど。
「しょうがないでしょ……。集ちゃんと同じで可愛いんだから」
「うんちょっと待って……。僕って小学生と同列な訳?」
すると美紗ねえは、こくんと頷く。いやいや、全国の小学生に謝っとけよ。絶対捻くれてる僕なんかより小学生の方が可愛いでしょうが。僕はそう思いながら、目の前で必死にテントを張っている小学生達に目を向ける。
視界には子供達が和気藹々とテントを張る作業に取り組んでいる。その中では歩も混じっていて、楽しそうに笑っていた。なんだかんだ言いながらも子供が好きなんだなと、歩の新たな面に僕は驚き関心する。そうして周りを見回していたら
「ん、あれは……」
ある一点に僕の視線が留まる。
視線の先には1つの集団が。6人で1つの集団のはずなのにある1人だけ除け者にしてるかのように見えた。しかもその女の子が、今しがた話しかけていた金髪の女の子だったのだ。
金髪の女の子は目の前でテントを張っている自分のグループをただ静かに眺めていた。
「あぁ、またなのね……」
近くにいた山龍小学校の教師が1人言のように呟く。
「また、というと……あの子はいつもああいう状態なのですか?」
美紗ねえがその教師にすかさず聞く。
教師は女性で、初老に入っているのか髪に色艶などがあまりなく、ただ伸ばしただけの手入れも行き届いてないような長髪をポニーテールにしている。僕はその教師の目を見て嫌悪感を抱く。
まるで何かに疲れ切ったような瞳をしていたから。その瞳からはやる気というものを一切感じなく、多分今目の前で孤立状態にある金髪の女の子の事もどうでもいいと思っているように見受けられた。
「えぇ。あの子の名前は坂巻希空っていうんだけど、学校ではいつも孤立してるのよ」
と覇気のない声で教師は説明する。
「そういう風になった原因は?」
美紗ねえが問いかけると教師は面倒臭そうな顔を浮かべながら
「分かりません。それに子供達には子供達の事情という物がありますから。深入りできないんですよ」
僕はその言葉を聞いて憤る。かつて僕も小学生の頃、虐められていたのに教師は何1つ動いてはくれなかった。それはどうやら何年経とうと場所がどこだろうと現状は変わらないらしい。
「でも理由ぐらいは聞けるんじゃないんですか?」
僕は深く考えずに思った事を口走っていた。
「理由……理由って何の?」
教師がまた面倒臭そうな顔を浮かべて僕を見てくる。
僕はその瞳をまっすぐに見つめる。
「……あの子が孤立してる理由ですよ」
僕は怒鳴りつけたい気持ちを精一杯抑えながら声を出す。
「聞く必要はないんじゃないかしら? あの子平気みたいだし」
僕はその言葉に堪らえようとしていた気持ちが爆発寸前になる。
「そんな訳っ」
「黒崎っ!!」
そして教師に詰め寄ろうとしたところで、美紗ねえに肩を捕まれ静止の声が僕の耳に届く。『黒崎』と呼んでいたから今の美紗ねえは教師モードだ。
「先生。後ほどお話があります……。休憩の時にでもゆっくり話しましょう」
美紗ねえは怒りを押し殺したような声で教師に告げると、その声を聞いた教師の体が恐怖からか震えていた。そして静かに立ち去っていく美紗ねえの後ろ姿を眺める。
なんとなく後ろ姿から怒っている事が伝わってくる。正確に言えば美紗ねえは怒った時歩き方が、ガニ股になるから1目で分かるのだ。
珍しく、怒ってんな〜。僕は美紗ねえを見た後、生徒達に視線を向けるとあの金髪の女の子と目が合う。女の子は今のやり取りを驚愕の表情で見ていたんだろう。目が大きく見開かれていた。
僕は女の子から目を逸らして自分の作業に戻ることにした――。




