頑張ったな 上
旅行を終えてから、俺達は暇さえあればちょくちょく会っていた。
……集と万丈を除いて。
俺は自宅の自室でクーラーを利かせた上でベッドで寝そべりながら考えに耽る。
あの2人、最終日海岸で話し合っていたのを遠目から眺めていた。話してる内容までは距離があったから聞こえなかった。だけど、集が戸惑った表情を浮かべて去っていたことから、なんとなく察しがつく。
集が去って行った後、万丈は酷く暗い表情を浮かべてこちらへ歩いて来たのを今でも覚えてる。集の奴……、悲しませてんじゃねぇよ。ま、それも仕方ないかって俺は思う。
集は気付いてんのか知らねえけど、アイツにとって山岸奏は特別な存在として意識してる。俺はそう思ってる。集が時折山岸に向ける目は、なんていうか優しさに満ちていた。それにアイツはいつも山岸の事を気に掛けていたように見えだ。俺から見てそう見えるんなら、周りもそう感じてると思うのに当の集は、自分の気持ちに気付いてないみたいだ。
でも、遠目から見た集の顔……すげぇ戸惑ってたな。
『この別荘にいる間に告白するって話よ』
不意に冴島の言っていた言葉を思い出し、俺の心がザワつく。
くだらねえ。何を勝手にザワついてやがる。俺には関係ねえだろうが。そのはずなのに……なんで。
「なんで万丈皐月の事が頭から離れねえんだよっ」
万丈の暗い顔を見てからというもの、その時の事が頭から離れない。くそっ、俺は何がしたいってんだ。考えても仕方ねえだろうがっ。俺はそのまま考える事を放棄して眠りに就く。
そして、夏休みも残すところ1週間を切った頃。俺は万丈と再会する。何気なく学校から少し離れた駅でブラブラ歩いていたら前方に見覚えのある3人が歩いて来た。
それは万丈とその妹分達だった。最初に俺に気付いたのは、スケバン刑事みたいな格好をしている女だ。女は俺を見つけるとすぐさま隣りにいる万丈に耳打ちする。そして万丈が俺に目を向けたかと思うとすぐさま顔ごと伏せる。……おいおい、いきなりそんな事されるといくら俺でも傷付くぞ。
なんか隣りにいる色気ムンムンと漂わせてる女が俺と万丈を意味有り気な笑みで交互に見てきてんだが?
俺と万丈達の距離が次第に近付いていく。だが、万丈は何も言わずにそのまま通り過ぎようとする。いつもの俺ならそのまま何事も無かったかのように通り過ぎた。その筈なのに、気付いたら俺は万丈の手首を振り向きざまに掴み取っていた。
「……なんだよ?」
俺は万丈の不機嫌そうな目を見て我に返る。
俺は一体何をやってんだ……。放っとけば済む話だろうが。でもこの時の俺は何故か放っとく事が出来なかった。
「目、腫れてるぜ?」
「……っ」
それを言われた万丈はすぐさま空いてる方の手で顔を覆う。どうやら見られたくなかったらしい。一応、そこは女の子なんだな。
「おい、え〜とお前等の名前なんつったっけ?」
そう尋ねる俺に目を白黒させたかと思うと、妹分の2人はお互い顔を見合わせる。そして妖艶な雰囲気の女が俺を見ると
「赤城、赤城涼」
そしてスケバン刑事の格好をした女がその後に続いて
「雨宮、雨宮紗季」
と名乗る。てか、雨宮紗季って本名か? パロディに本気入れすぎじゃね?
「そうか、悪い。お前等の姉御……借りてく」
俺はそう言うと、万丈の手首を引いて歩き出す。
「なっ、おいっ!!」
万丈が抗議の声を上げるが俺はそれを無視して歩く。
後ろからは静止の声は特にあがらず、俺はそのまま駅の外へと向かった――。




