表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第六章 これから変われるよ
129/179

資格を失ったんだよ 下

川崎蓮の視点でお送りします。

◆◆◆◆


 中学の入学式を終え1ヶ月が経ち皆クラスに慣れ始めた頃の事だ。俺と雫が2人で登校して教室に入ると俺達は黒板を見て驚愕する。

 黒板に大きな文字で『木下雫、死ね』と書かれていたのだ。


「誰だよっこんな事したのはっ!!」


 俺は大声で怒鳴るとクラスメートに目を向ける。

 皆俺が目を向けた瞬間に気まずそうに目を伏せる。


「本当に誰がこんな酷い事をやったんだろうね〜っ?」


 教室に聞いてて不愉快になる程の甲高い声が響く。

 俺は聞こえた方へ目を向けるとガングロの肌に髪をブラウンに染めた生徒、櫻井智子がニコニコと笑ってこちらを見ている。


「今それを探してるんだよ」


「へぇ〜、でもなんでこんな事書かれたのかな〜っ?」


 櫻井は雫に目を向けながら言う。

 キンキンと甲高い声に俺は次第に苛ついていく。


「これはね〜、あくまでアーシの意見なんだけど〜、木下さん調子乗ってるから悪いんだと思うんだよ〜」


「私……調子、乗ってなんか、ないよ」


 その言葉を聞いてケタケタと笑う櫻井。


「そういう所だよ〜。人の話を聞く前から否定する所〜っ」


 雫はその言葉に呆然とする。


「多分ね皆は〜、対して可愛くもないのに〜、川崎君と一緒にいるのが許せないんだと思うよ〜?」


「そんな……」


 雫はその言葉に顔を伏せる。

 俺は櫻井を睨みつける。


「お前っ!!」


 櫻井は人を小馬鹿にしたような顔を浮かべて両手を上に上げる。


「ちょっと待って〜っ、アーシは皆が思っていそうな事を代弁してるだけで〜、アーシの本意じゃないから〜。そこ勘違いしないでね〜」


「……チッ」


 俺はこの時理解してた。

 書いたあるいは書くように指示したのは今目の前にいる櫻井智子だと。コイツは皆の気持ちを代弁とか言ってるけど、やってる事は一方的に雫を皆の前で詰ってるだけだっ!!


「でさ〜多分みんなね〜、櫻井さんには〜川崎君から離れて貰いたいんだよ〜」


「そんな、どうして……」


 その言葉にニッコリと笑う櫻井。


「分からない〜? それはね〜、そうすれば皆〜櫻井さんに嫉妬したりしないからだよ〜っ」


 分かってる。

 これは雫の事を思って言ってる訳じゃない。

 思ってくれてる人間がこんな……厭らしい笑みなんか浮かべない。

 結局黒板に書いた人間は誰なのか分からないまま、有耶無耶となった。その後も変わらず俺と雫は一緒に行動した。だが2日後にまた新たな虐めが起きる。教科書を隠されたのだ。俺と雫はその日の放課後、学校中を走り回って探した。

 そして見つかった場所は校舎裏のゴミ置き場に全教科書が破かれた状態で捨てられていた。

 俺はこの事を翌日職員室に行って担任に伝えに行った。……なんとかして欲しいと。でも担任の教師は『うちのクラスで虐めがあるはずがない』『それは木下に問題があるからだめなんじゃないか』と言ってまともに取り合ってくれなかった。

 本当にそうなんだろうか? 雫に問題があるのか? 雫が何をやったってんだよ? そこであの言葉が蘇る。


『多分ね皆は〜、対して可愛くもないのに〜、川崎君と一緒にいるのが許せないんだと思うよ〜?』


 俺が、俺が離れれば……全て終わるのか?

 俺はこの時に天秤に掛けたんだ。雫への想いを取るか。それとも雫の安寧を取るか。俺は雫が虐められることなく平和に学校生活を送ってほしい。その為なら俺の雫に対する想いなんて……。

 翌日の朝いつものように家を出ると笑顔で俺に『おはよう』と声を掛ける雫の姿。だけど俺はそんな彼女の言葉を無視して歩き出す。


「えっ……蓮、ちゃん?」


 無視された事に動揺してる事を隠せない様子の雫。

 後ろで動揺してる雫の声が聞こえて俺の胸が張り裂けそうな思いに駆られる。

 いいんだ。……これが正しい事なんだ。俺はそう思っていた。

 だが現実は違った。俺と行動しなくなった雫に櫻井達は陰口や本人に直接悪口を言うようになった。それだけじゃない。机に鉛筆か彫刻刀で掘ったのだろう。『死ね』『カス』『学校に来んなっ』などと言った消す事のできない文字が掘られていた。

 午後の授業が始まった時彼女の姿を見て驚く。皆制服なのに1人だけ体操着姿なのだ。


「あれどうしたの〜? お漏らしでもしちゃったのかな〜」


 櫻井の言葉に皆がドッと笑い出す。

 その言葉を聞いた雫が顔を俯かせる。俺は自分の選択に後悔した。

 雫から離れても虐めは収まるどころか激しくなる一方だった。こんな結果にしたくて俺は雫から離れた訳じゃないのに。

 

「……っ」


 雫と目が合った。

 だけどすぐに彼女は悲しそうな顔を浮かべて目を逸らす。

 当然だよな……。勝手に離れてその結果がコレだ。

 雫からしてみれば許せる訳ない。

 その後も彼女が虐められている事に気付いていても、俺はなにもしなかった。次第にそんな自分が嫌になって周りを拒絶するようになった。髪を伸ばすようになった。理由は前髪に掛かるくらい伸びれば、見たくない物を見なくて済むと思ったから。

 俺は家の自室から窓から見える雫の部屋に面している窓を見る。窓は固く閉められ、カーテンも閉められていた。

 結局俺の選択がもたらした物は虐めをエスカレートさせる事と雫との距離が大きく開いてしまったという最悪な結果だけだ。

 俺は天井を眺める。

 もう俺が彼女……木下雫の為にしてやれる事があったとしてもしてやれる事は出来ない。

 ――だって俺は資格を失ったんだよ。

 幼馴染としての資格。そして雫の事を好きでいる資格も。

 俺は目を瞑る。この世の全て、そして自分自身を呪いながら――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ