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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第五章 僕の過去
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私が間違ってたのかな

私が集君の頬を打ってから1週間。

あれから一度も集君は学校に登校していない。

私は今日も空席の集君の座席を眺める。


『僕がっ、普通の人間じゃないから……だから皆構ってくんのかよっ!?』


なんで集君、あんな事を言ったの?

理由は分からないけど、私が相当思い詰まらせちゃったのよね。


集君はいつだって誰かの為にやってきた。

でもそれは集君が望んだ事じゃないのかもしれない。思い返してみれば私と初めて会った時まで、ずっと目立たないように過ごしてきたんだから。


――私が間違ってたのかな。


私が……集君の日常を変えてしまった。

私なんかに出会わなければ、集君は今まで通り目立たずに生活出来たんだ。でもそれは本当に楽しいのかな?

最近の集君は私から見ても楽しそうに見えた。

ならどうしてあんな事を言ったんだろう?


「奏……また黒崎の席を見て考え事?」


凛が私の座ってる席まで来て声を掛ける。


「考え事も良いけどお昼休みなんだから、ご飯を早く食べないと時間無くなっちゃうわよ」


そう今はお昼休み。周りでは仲の良い人同士でご飯を食べてる姿が垣間見えた。

私は凛の言われた通りに昼食を取ることにして、鞄に入れてあったお弁当箱の入ったピンクの可愛い袋を取り出す。


「でも黒崎……どうするつもりなのかしら?」


袋からお弁当箱を取り出し食べようとした手がその言葉で止まる。


「学校の事もそうだけど……2週間後に皐月を助けに行くのかしら?」


「……それは」


私はその言葉に口を濁す。

今までの集君だったら迷わずに助けに行ってたと思う。

でも今回は……。


「大丈夫。集は絶対、助けに行く……そうに決まってるさっ!!」


声のした方へ顔を向けると天道君と亜希子、それから木下さんがいた。


「天道君……でも」


「大丈夫だって言ってるだろ? 集は普段から捻くれた態度取ってるけど、誰よりも優しい奴だって事……山岸が一番理解してると思うんだけど」


それは知ってる……。

集君は他人の為自分の為だったとしても、平気で自分を傷付けられる人間だって事を私は知ってる。

だからこそ私は集君が心配なんだ。いつか壊れてしまうんじゃないか……そう思っちゃうから。


黒板側の出入り口が勢いよく開け放たれた事により大きな音を立てる。教室にいる全員の視線がその出入り口へと視線が向けられる。開け放たれた出入り口から入ってきたのは……。


「……黒崎先生〜」


亜希子が間の抜けた声で入ってきた人物を口にする。

黒崎先生は教室の中を見回す。

私達の所で視線が留まるとこちらに向かって歩いてくる。


「貴方達……放課後、少し残ってくれるかしら?」


私は集君の事だと悟る。

これだけ休んでいれば姉としては心配だよね。

私が頷くと残りの皆も頷く。


「あ、あの」


弱々しく黒崎先生に声を掛ける木下さん。


「何かしら木下さん?」


木下さんの肩がビクッと震えるのが見えた。

私も驚いた。まだ一ヶ月も経ってないのに生徒の名前をもう覚えてるなんて……。


「そ、そのっ……わたっ、私も残って……い、良いんです、か?」


木下さんの言葉にニッコリと微笑む黒崎先生。


「木下さんは集ちゃんの友達でしょ……違うのかしら?」


「私はっ、そうで……あ、ありたい、です」


黒崎先生はその言葉に頷くと教室から去っていく。


「どう考えても、集の事だろうな」


去っていく黒崎先生を眺めながら天道君が口にする。

それと同時にチャイムがなる。

……え? 待って私まだお弁当一口も口付けてないんだけどっ!?


結局私はお昼ご飯を食べずに午後の授業を受け、放課後を迎えた。

放課後になるとクラスの担任である黒崎先生が、迷いなく私達の元へ来る。


「話は他でもない集ちゃんの事よ」


なんの前置きもなく黒崎先生が本題を口にする。


「万丈が来なくなった翌日から集ちゃんが来なくなった。……なにか理由があるのかしら?」


「先生聞いてくれ。実は……」


天道君が率先して黒崎先生に事の次第を説明する。


「そう。集ちゃん……やっぱり気にしてたんだ」


「気にしてた?」


私はその言葉の意味が分かんなくてオウム返しする。


「集ちゃんはね、自分の過去を知ってる人間に出会って、当時の頃と全く同じ心理状態に今陥ってるのよ」


当時と同じ心理状態って……。


「ひ、人を信じ、られないって事、ですか?」


途切れ途切れに尋ねてくる木下さんに黒崎先生が頷く。


「ボチ崎、なんで?」


悲しげな表情を浮かべながら亜希子が言う。


「集ちゃんはね、自分がどんなに辛い目に遭っても弱音をあまり吐かない子なの……。だから心がどこか壊れちゃってるの。本当は優しい子なのにその優しさをどう表せば良いのか、そのやり方を知らない。あの子自身戸惑ってた。でもそれを捻くれることによってその優しさを隠して……他人と関わらない道を選んだ。そうすれば」


「……自分が傷付かなくて済むから」


私は震える声でそう言うと黒崎先生は静かに頷く。

そんな……そんなのっ、間違ってるよ集君っ!!


「最近の集ちゃんは、交通事故に遭う前の頃に戻っているように感じてたのにね」


黒崎先生がどこか遠くを見るような目をする。

私は……、私は集君の為に何ができるんだろう?


私はそう思いながら彼の姉である黒崎先生を眺めながら胸を締めつける――。

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