俺の過去に決着をつける為だ
万丈皐月視点でお送りします。
オレは今、目の前の光景に驚いている。
「おら、食えよ?」
オレを捉えた筈の男……東堂歩がオレに飯を食べさせようとしているからだ。
オレ、コイツの暴走族『ゼロ』に捕まったんだよな?
なのになんで割と良い扱い受けてんだ……。
「悪く思うなよ? 俺の子分の中でテメェに勝てる奴がいねえからよ〜。両手は縛って置かなくちゃならねえ。ま、全て終わったら縄解いてやんよ」
そう。
オレは今両手を拘束されている。
理由は今東堂が言ったとおりだ。それでコイツは今オレに飯を食べさせようとしている。
「ちょっとお人好し過ぎねぇか?」
オレは挑発するように言う。
「この行為がか? 一つ言っとくが、俺はあまり喧嘩は好きじゃなくてな」
「嘘付けっ!! 喧嘩が好きじゃなかったら暴走族の総長も務まんねえし、あんなに強え訳ねえだろっ!!」
「あぁ、教室での事を言ってんのか? そういやアイツ、お前の妹分なんだってな」
そう言うと東堂はその場に正座してオレを真っ直ぐに見据える。
「悪かった」
東堂がそう言い終えると土下座をしてくる。オレはその行動に対して、どう反応したらいいか分からなくなり固まる。
本当になんなんだコイツは?
最初に合った時のような威圧感を全く感じねえ。
「後悔してんだ。女に手をあげちまった事をよ」
東堂は寂しそうな笑みを浮かべる。
「……なぁ。どうしてゼロの総長なんてやってんだよ?」
東堂は驚いたのか目を大きく見開く。
オレもそれを見て口を噤む。
……何聞いてんだオレは? 今までそんな事気にした事もねえってのによ。
ただ、ここまでのコイツの態度を見てそこまで悪いやつじゃないと思った。
暫く静寂が流れた後に東堂が口を開く。
「……周りに舐められねえ為だよ」
俺はそれを言った東堂の目を見て息を呑む。
なんだよ、その誰も信じてねえみたいな目はよ……。
「バケモノから聞いてるかも知れねえけど、俺は小学校の頃に虐めを受けた」
「それは聞いてる……それと集はバケモノじゃねぇ人間だっ!!」
東堂は首を横に振りながら
「まぁ聞けって……。俺はその虐めが嫌で転校した。でも、転校した先でも何も変わらなかったんだ……。皆が皆、俺の有る事無い事噂して転校前と同じような内容の虐めを受けて……」
そこで一旦東堂はひと呼吸置く。
語ってる時のコイツの顔が寂しそうにオレには見えた。
「そこで思ったんだよ……。どうせこの先虐めを受ける運命なら力でもって反抗してやろうってっ!! 力があれば他人を黙らす事が出来るっ!! 服従させる事が出来るっ!! 何をしたって誰も俺には逆らえないっ!!」
「そうか。お前……可哀想な人間なんだな」
オレの言葉を聞いた東堂がギロリと睨みつけてくる。オレはそれに構わず続ける。
「話しててお前は良い奴だって思った。だけど、お前には心の底から信じられる仲間がいなかったんだな……っ」
パチンッと音が鳴り響く。
頬が痛い。東堂がオレを打ったからだ。
「知ったような口を聞くんじゃねぇよっ!? 仲間……ハッ、笑わせんじゃねえよ」
ゲラゲラと笑う東堂。
そしてギラギラと燃えるような瞳をオレに向ける。
「仲間……か。かつてはいたさ、お前と一緒に行動してる黒崎集がそうだったっ!!」
オレは無言で東堂を見つめる。
「アイツはさ、いっつも一人だったから俺が構ってた……。そのせいで俺は周りから虐めを受けるターゲットにされちまったっ!! だから言ってやったよ……。『イヤだっ……なんで皆、イジメるんだよっ!? 』ってさ。だけど、俺のその声に誰も答えなかった……。仲間だって思ってた黒崎にもなっ!!」
オレはその言葉を聞いて苛立つ。なんて、自分勝手な奴なんだよコイツはっ!!
「まずさ……、構ってたとかそういう考え方をやめろよ。集は良い奴なんだ。それを理解してくれる奴が居なかったってだけで」
東堂はその言葉に目を剥く。
「なんで……なんでなんだよっ!! なんでぶっ壊れてる人間であるアイツには信頼できる人が集まって……俺には集まらねえんだよっ!!」
東堂は近くの壁を殴りつける。その殴った拳からは鮮やかな赤い血がポタポタと滴り落ち、地面をその鮮血で染めあげていく。
「それが、集とテメェの違いだよ」
集は自分が傷付いても誰も恨もうとしない。
どんなに深い心の傷を負ったとしても。
「アイツはさ、ずっと耐えてきたんだよ……。お前みたいに全てを恨んで反抗なんかもせずに」
突然東堂が立ち上がった。
そしてオレの近くに来ると……。
「……ぐはっ」
腹を思い切り蹴られる。
口の中から胃液が溢れ出てくる。……気持ち悪ィ。
「どうでもいいさっ。今回は俺とアイツの蟠りを終わらせる為にするんだっ!!」
「コホコホコホッ……どういう事だよ?」
「つまりアイツと喧嘩して……この下らねえ俺の過去に決着をつける為だっ!!」
そう言って不敵に笑う東堂を見ながら俺は思う。
早く助けに来てくれよ……集。
オレは薄れゆく意識の中でそう思いながら意識が奈落のそこへ落ちていくのを感じた――。




