どうして僕なんだよっ!?
東堂が万丈養護施設にやってきたその翌日、僕達はいつもと変わらず学校へやってきていた。
僕は席に着いて万丈の事を考える。
今回は僕の不注意が招いた結果だ。
もっと注意深くやっていれば万丈が攫われるような事もなかったのに。
いやそもそもなんで僕なんだ。
「……集君、思い詰めちゃだめだよ」
僕が思いつめた顔をしていたんだろう。
奏さんが心底心配してるといった様子で僕に言う。
「……だよ」
僕は胸に溜まっているストレスが爆発寸前だった……ヤバイ。
「……集、君?」
僕の様子がおかしい事に気付いたんだろう?
奏さんが僕に顔を近づけてくる。
「近付くなよ……近付くなよっ!!」
僕の怒鳴り声に教室の中にいる全ての人が静まり返る。
奏さんも僕の言葉に固まる。
「急に……どうしたのっ?」
戸惑った様子で尋ねる奏さん。
「なんで……なんでなんでなんでなんでっ、なんで僕なんだよっ!?」
僕は思いの丈をそのままぶつける。
東堂歩に出会ってから当時の気持ちが僕の中で蘇り始めた。
「僕がっ、普通の人間じゃないから……だから皆構ってくんのかよっ!?」
僕が障害者だから、バケモノだから、普通じゃないから……。
「僕だってこうなりたくてなった訳じゃないっ!! なのにっ、みんなして……バケモノ、障害者って、なんなんだよっ!!」
言ってる事が支離滅裂だなって感じる。
でもずっと溜め込んでたものが決壊した事によって吐き出される。
僕はこれを止める術を知らない。
「こんな事なら誰とも……っ」
バチンッという音が教室に響き渡る。
僕の頬がヒリヒリと痛んだ。僕は痛んだ頬に手を当て、叩いた本人……奏さんに目を向ける。
彼女の頬に一筋の涙が伝う。そして一言……。
「……バカ」
そう言って奏さんは教室から去っていく。
僕もいたたまれなくなって、教室から出る。
「……やっちまった」
廊下を歩きながら僕は一言そう呟く。
奏さんには関係のないことだったのに……あれじゃ八つ当たりも良いところだ。
奏さんは僕の障害の事を知っても気にせずに普段通り接してくれていたというのに。
東堂歩に出会った事で当時の記憶……思いが溢れてきた。
そのせいで僕は……人を信じることが怖い。また裏切られたらどうしよう? 傷付くのはもう嫌だっ!!
心の中でそう叫ぶ自分がいる。
『……私と友達になってくれませんか?』
あの言葉を信じたはずなのに、今はそれを信じるのも怖い……。
「なぁ、誰か教えてくれよ」
なんで奏さん達は僕に構うんだ? 僕が障害を持ってるから興味本位で関わってるのか……それは違うか。だって僕が障害を持ってるのを皆が知ったのはついこの前なんだから。
高校になれば、誰とも関わらずに済むと思っていた。
実際それは入学してから2ヶ月間上手く行っていたんだ。
……山岸奏と出会うまでは。
彼女に出会ってから僕の世界は少しずつ変わっていった。
友達と思える人間が増えていった。
奏さん達にここに居てもいいよって……言われてる気がした。
やっと僕の居場所が見つかった……そう思っていたのに。
だめだった……。高校になっても僕の障害は付いて回ってくる。
僕は立ち止まり、外を眺める。
外では満開の桜を付けた木々が並んでいた。
これからどうしよう……?
学校にいるのも嫌だ……一人になりたい。
一人が気楽だ。嫌な思いをする事も他人に気を使う必要もない。
万丈、僕は……。
僕は授業中の廊下の中をトボトボと静かに歩いていった――。




