「本音という名の建前」を被らないと書きたいものが書けない人間になると、創作はただのサービス残業になる
皆様今晩は!お久し振りのシサマです。
7月は個人的に多忙な月だったので、長編の連載を一時お休みして改稿を行ったり、不定期の歌詞や短編小説の発表に専念していました。
改稿を終え、先日長編の連載も無事に再開し、前々回のエッセイで3本程素案を紹介した新作候補こそ発表出来ませんでしたが、今はユーザー様との約束の大半を守れた事にひと安心していますね!
さて今回は、必要以上の欲やプライドに煽られ、それでいて自分の真の味方は自分だけというWeb小説の世界に於いて、他者を認めながら自分らしさを貫く事の難しさについて考察したいと思います。
私はこの7月、初めてホラー小説を2作投稿しました。
「夏のホラー2020」の企画が開催されており、スケジュール的に長編を書く余裕は無いけれど、短編なら書けると思った事と、以前からホラー小説を書いてみたいと思っていたからですね。
私は以前このエッセイで、「全年齢向け作品を書く事に誇りを持っている」と述べており、普段の作品にバトルシーンや恋愛描写があっても、特に残酷な描写や性表現は無くても良いと考えている人間です。
とは言ったものの、作品で人を殺す事が読者様や運営側から容認されているホラー小説の世界はやはり魅力的で、たまには残酷描写を含めた「人の死」や「Rー15表現」を、娯楽性に盛り込んでみるのもいいなと感じた訳ですね。
そして、まずは私が中高生時代に影響を受けた、エンタテインメント性の強い80〜90年代のホラー洋画を思わせる作品を投稿し、レビューまでいただける程好評を得る事が出来ました。
その結果に気を良くした私は、より不条理なサイコホラー的な作品を投稿しましたが、こちらは評価が今イチで(笑)、連載再開の目処が立った時点に於いてホラー小説への挑戦を終えたのです。
しかしながら、ホラー小説に挑戦してみて気付いた事は、意外と怖くないホラー小説が多かった事でした。
いや、怖いかどうかは読者様の感性によるので、個人による断定は出来ないのですが、始めから殺人を前提にしていない、不気味さの中に流れる温かさや、人間や霊の愛情を描いた作品が沢山あり、こう言っては失礼かも知れませんが、「なろう作者の皆様もなかなかやるじゃないか!この作者様はこちらのジャンルの方が向いているんじゃないの?」と思ったのです。
一方で、「小説家になろう」サイトのトレンドを眺めてみると、ハーレムやスローライフをテーマにした様な作品でさえ、バトルシーンでは四肢離散の血塗れ描写や、メインキャラ以外の人の命の扱いがゴキブリ以下のものが意外とありますよね。
ホラーで心暖まる様な作品を書いている作者様の本業が、ホラーでも書けない残酷描写溢れるハーレム&スローライフ作品であったとしたら、その作者様は「小説家になろう」サイトに何を求めて来ているのだろう……?と、同時に疑問も芽生えました。
「ランキングを上がって書籍化を目指したいから、その可能性が高いジャンルで、スタートダッシュに成功する為に、目立つ刺激を盛り込んだ作品に挑戦しているんだよ」という答えが、最も一般的なものであると考えてみましょう。
その視点から考えて、敢えてホラーで心暖まる作品を書く理由も、「怖そうに見えて、心暖まる作品だったら目立つし、読者様からの評価も高まると思うんだよね」という答えが最も一般的なものであると考えられます。
これはつまり、「小説家になろう」サイトでのサバイバルを考える中で、作者様が本当に書きたいと思っている作品が、相応しいジャンルで書く事が出来ていない現実が見えていると言えそうですよね。
ランキングに目を向けると、時折「ジャンル詐欺」の疑いをかけられてしまうファンタジー風の純文学や、子どもが読めない(?)ブラックコメディー的童話等があります。
しかしこれは、純文学のエッセンスともクロスする「普遍的な価値観を持つキャラクターの活躍」が、「小説家になろう」サイトのファンタジージャンルに於いて、刺激を求め続ける一部の読者様にはもう相手にされなくなっている現実にも目を向けないといけません。
また、読者様によって全く笑いのツボと許容範囲が異なる「ブラックコメディー」というジャンル分けが存在しないという現実もあり、この状況下では、書きたいものが相応しいジャンルで書けないが故の「ジャンル詐欺疑惑」という議論に、答えは出せないのかも知れませんね。
私の作品は、所謂「小説家になろう」サイトのテンプレ型のファンタジーや恋愛ものではありませんが、ご都合主義や労せず成功する主人公等が幅を利かせる、それらの作品へのアンチテーゼとなる、ハードな世界観やリアリズムを重視した作品でもありません。
言わば需要の少ない隙間産業であり、かつ刺激も少ない。
だがしかし無くなると寂しい、年末番組「ゆく年くる年」みたいな存在だと考えています(笑)。
とは言うものの、私個人としては決して読者様を蔑ろにした作品を作っているつもりはありませんし、書きたいものを相応しいジャンルで書き続ける事に特に悩まない幸せを、無意識の内に満喫していますね。
私も含めて、どうせ書くなら「小説家になろう」サイトで成功したい!と考えるのは作者様の本音ではあると思うのですが、それがどれくらい本音であるのかについて、しっかり自覚する事が必要な時代が到来しつつあると感じています。
「多くの読者様に読んで貰えなければ意味が無い」という姿勢を、行動で前面に押し出さないと、周囲から取り残されるのではないか……と思った事はありませんか?
それはもう、「本音という名の建前」に支配されていると言えますよ。
自分の本当に書きたい作品が、トレンドやランキングに不適合である場合、それらの攻略法とは別のやり方をもって創作活動を楽しまないと、報われない結末を勝手に想像しながら、苦しい執筆を行わないといけなくなる、言わば創作活動がサービス残業になってしまいますからね。




