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【第一部完】優しい領主と聖女ちゃん ~突然現れた聖女?に「偽物!」と、追い出されてしまいました~  作者: 群青こちか@愛しい婚約者が悪女だなんて~発売中
第四章 ラウラと優しい領主

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ラウラとフィデリオ



今、フィデリオ様が私を好きだと?

聞きまちがいじゃないよね? 

でもどうすればいいの……私、何て言えば?

嬉しいっ! でもどうしよう、あーもうわかんない!


ラウラの思考はぐるぐると渦を巻いていた。

フィデリオは顔を隠すラウラを静かに見つめ、少し困ったように微笑んだ。

そうっと手を伸ばし、その長い指がラウラの麦穂色の髪に触れる。

何とも言えないくすぐったさに、ラウラはきゅっと身を固くしてしまう。


「あっごめん」


フィデリオは慌てて手を引いた。

彼の表情には申し訳なさと不安が入り混じっている。


ああ違う! 

嫌だったわけじゃないのに!


ラウラは素早く顔から手を外し、フィデリオをまっすぐ見つめた。

決意に満ちた青紫の瞳に迷いはなかった。


「フィデリオ様っ!」

「ん?」

「私は明日18歳になります。さっきフィデリオ様が言ったように、これから色々な人と出会うかもしれません」

「そうだね、君はとても素敵だから」

「すっ……! でも私の気持ちは変わりませんっ! もしフィデリオ様が、私の心が変わるかもしれないと思っているのなら、一年後にもう一度聞いてもらえますか?」

「え、一年後?」

「はいっ」


元気よく答えたラウラだったが、どうしてこんなことを言ってしまったのか、自分でも分からなかった。

本気で想っていることを伝えたいだけなのに、なぜか一年後なんて口にしていた。


三年前からずっと好きなんだから、これからも変わるはずない。

もしその頃に、フィデリオ様の気持ちが変わってしまったとしても……それは仕方がないこと。

ただ、私の気持ちが本気だということを、とにかく信じてほしい!


「フィデリオ様は私のことを子供だと思っているかもしれませんが、この気持ちは本当なんです! 一年後なら信じてもらえますか?」

「……こんなこと君に言わせてしまうなんて、本当に僕は頼りないな」

「そんなことありません!」

「いや……僕はずっと年上なのに臆病だ」

「違います、年上だからこそだと思います! フィデリオ様は優しすぎるんですよ、まかせてください!」


なぜか自信満々に胸をはるラウラの姿に、フィデリオはくすりと笑う。


「頼もしいね」

「だってフィデリオ様はずっとフィデリオ様ですから!」


ラウラのまっすぐな言葉に、フィデリオの表情が揺らいだ。

その瞳には、特別な思いが映し出されている。


「ありがとうラウラ。僕は君の笑顔にいつも救われているよ」


微笑むフィデリオに、ラウラの胸は小さな星が瞬くようにふるえた。

薄明りの中、フィデリオの美しい瞳がラウラを見つめている。


うぅーここが明るくなくてよかった……。

好きな気持ちと恥ずかしさでどうにかなってしまいそう。


ラウラは息をひそめたまま、この時間が永遠に続けばいいと思っていた。


「ラウラ、そろそろ戻ろうか。皆が心配しているだろう」

「……あっ……はい」

「まだ何か気になることがあるのかい?」


少し身をかがめて、フィデリオはラウラの顔を覗き込んだ。

フィデリオの青い瞳が近すぎて、ラウラは言葉が出てこない。

もう少しだけ二人でいたいという思いがふくらみ、どうしようもない気持ちになっていた。


「あのっ、わがままなんですけど……」

「うん?」

「……裏口で私を迎えてくれた時みたいに……背中をぽんぽんして、ほしい……です」

「えっ」

「ああっ、ごめんなさい! うぁー私ってば!」


思わず口にした言葉に、ラウラ自身が驚いていた。

そんな言葉が自分から出るとは思っていなかった。

慌てふためくラウラに、フィデリオは一瞬ためらうように動きを止めたあと、ふわりと抱き寄せた。


「こんなことでよければ、いつでも」

「!!」


ラウラは突然のことに、心臓が小さく跳ねる。

緊張の中、フィデリオの胸から伝わる心臓の高鳴りに、ラウラは胸の中で息を呑んだ。

優しい手がラウラの背中を静かに叩き、リズムを刻んでいる。

その温もりは、言葉以上の安心感をラウラに与えていた。


「フィデリオ様……」


ラウラがフィデリオを見上げたその時、高窓から朝の光が差し込み、地下室を照らしはじめた。

僅かに地下室が明るくなり、二人の顔が浮かび上がる。

光の中でフィデリオの頬は、赤く染まっていた。

ラウラも自分の頬が熱くなっているのを感じていた。

目が合った瞬間、二人は照れくさくなり笑ってしまう。

言葉にできない感情が、ラウラの全身をゆっくりと包み込んでいく。

ラウラはもう一度、フィデリオの胸に顔を埋めた。


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