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【第一部完】優しい領主と聖女ちゃん ~突然現れた聖女?に「偽物!」と、追い出されてしまいました~  作者: 群青こちか@愛しい婚約者が悪女だなんて~発売中
第二章 ラウラと偽物の聖女

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街の様子


階下の柱時計が、時間を告げる音で目が覚めた。

カーテンの隙間から漏れる光が、部屋の中を白く照らしている。

慌てて身を起こし、ラウラは部屋の時計を確認した。


「やだ、もう12時!」


昨夜は眠れず、早起きしたせいでうたた寝をしてしまった。

喉の奥が少しだけ気持ち悪い。

ロクセラーナが放った甘美な香りが、まだどこかから香ってくるような気がする。

そしてここは自分の部屋ではなく、宿屋のベッドの上。

やはり、今朝起こった最悪な出来事は現実だ。


「はぁ……」


完全に魅了された薬師たちの姿を思い出し、ラウラはため息を吐く。


皆、私のことなんて見ていなかったな。

グレイスは、エルノさんがあんな状態になってるのを見ちゃったよね……大丈夫かな。

もうお昼を過ぎてるってことは、フィデリオ様は屋敷に戻ってきてるかもしれない。

そして、今頃あの魔女(ロクセラーナ)と……。


「ん゛ん゛―――」


ラウラは大きく頭を振り、思い浮かんだ想像を振り払った。

フィデリオがロクセラーナを見つめる姿を考えたただけで、胸が苦しくなる。


ベッドから立ちあがったラウラは、鏡の前で寝癖で乱れた髪と服装を整えた。

少し腫れぼったくなった目の周りをぎゅっと押し、右耳にイヤリングをつける。


昨日まで、バルウィン家で幸せに暮らしていた。

15歳で聖女になれなかった時の辛い記憶と、ただ沈んでいくような悲しさもいつの間にか消えていた。

毎日薬草に触れ、大切な友達も出来て充実した日々を送っていた。

この土地に来て、フィデリオ様との出会いは私の人生を変えるものだった。

初めは感謝の気持ちだけだったのに、いまではそれが好きという感情になってしまった。

その思いは年々大きくなる一方だったけど、それも含めて幸せな毎日だった。


そんな私に今できること、それは、グレイスたちを助けること!


ラウラは、ロクセラーナの特異性について考えていた。

誰にも危害を加えていないというのは、結婚相手以外に興味がないからでは? と。


さっきだってそう。

私は追い出されたけど怪我はしていない。

魔女はからかってきたけど、それ以上の危害は加えられなかった。

めろめろになってる男の人達には悪いけど、あんな強烈な魅了、どうやって解いたらいいのかわからない。

この本に書いてある資料だけじゃ、ヒントもほぼないいようなもの。


魔女については、もっと調べる必要がある。

だけど、これ以上のことは何もわからないかもしれない。

もしわかったとしても、魔力が使えない私にとっては、どうしようもできない可能性が大きい。

それでも、このまま諦めるわけにはいかない!


フィデリオ様がロクセラーナの虜になっていても……バルウィン領が廃れてしまうなんて考えたくない!

だから、まずは、グレイス達をあの屋敷から連れ出す。

その後は、何年かけてでも、あの魅了を解く方法を探すつもり。


ラウラはもう一度、ランプロスから譲り受けた本を開いた。

中盤には魔除けのアクセサリーの作り方が詳しく書かれている。


この街の薬草店で手に入るハーブで、作れそうなものを探そう。

魅了は、感情を強く揺さぶる。

本当なら万能薬かドロップを飲むのがいいけど、その前にすぐ身につけられるものが必要だ。

ラウラはそう考え、必要な材料を書き留めて街に飛び出した。


昼下がりの街は普段と変わらず、活気に満ちていた。

市場から行き交う人々の声が聞こえ、通りには商人たちの威勢のよい掛け声が響く。

美味しそうな香りが漂い、あのむせ返るような匂いは全く感じられない。


薬草店に行く前に、ラウラは洋服屋に入った。

同じ格好では、屋敷に戻った時すぐに気付かれてしまう。

いくら危害を加えられなかったとはいえ、私はなぜか追い出されてしまった。

だから、しっかりと顔が隠れるものを探そう。


「こんにちはー」

「いらっしゃいませ」

「コートありますか?」

「はい、一番奥になります」

「ありがとう」


ラウラは早足でコートがかけられているラックに向かった。

赤やオレンジなどの華やかな色が並ぶ中、濃紺のケープが目に留まる。

手に取ると、黒いリボンと大きなフードがついていた。


これいいかも。


ラウラはケープを羽織ってフードを被り、鏡の前に立った。

襟はスタンドカラーになっていて、リボンを結ぶと自然と口元が隠れる。

フードはとても大きく、深く被らなくてもほとんど顔が見えない。


このケープ、可愛いし顔も隠れるから凄く良い!

でも、まるで私が魔女みたい。


そんなことを思いながら苦笑いをし、ラウラはお金を払って店を出た。

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