90.宿調査【1】
ココが死刑になってから半日が経った。
現在は海鮮丼屋で昼食を食べながら、昨日の説明をしている。
「そういうことだったのね」
「ああ、隠していて悪かったと思っている」
「別にいいわよ。ゼロは最初からそうじゃない。今更どうも思わないわ」
「でも、サラに辛い思いをさせたことは事実だ。本当にごめん」
「サラ。ゼロがこう言ってるけど何か言ったら?」
リアにそう言われ、サラは口をモグモグして海鮮丼をゴックンっと飲み込む。
それから水で喉を潤し、口を開いた。
「あたしは別に気にしてない。ゼロが毒を飲まされる可能性だってあったわけだし。それに死んでないから問題ない。だから、気にしなくていい」
「だってさ。ゼロって何も言わないくせに、後から気にするよね」
「うっ……まぁ確かに」
「だからと言って、これからは全て先に言えとは言わないわ。それがゼロのやり方だと私たちはもう理解しているしね」
リアのそんな言葉に、僕はやっとあることに気が付いた。
そう、二人が僕を理解し受け入れ始めているということを。
いや、薄々気付いていたが、今この瞬間に確信したと言うべきか。
正直、僕の行動などに二人が興味を持っているとは思ってもいなかった。
精々スキルなしが頑張っていると思われているぐらいだと。
無駄に頭が冴える奴だな、程度に思われているのだと思っていた。
だが、それは僕の思い違いだったようだ。
二人は完全に僕をもうハンデや生ゴミなどとは思ってはいない。
そう言えば、スキルなしをバカにされることも無くなったような気がする。
一体いつからだろうか。
「そうか。じゃあこれからも僕はこのスタイルを変える気はないぞ」
「ええ、もちろん。急に変えられても困るだけだもの。あくまでも私たちはゼロのやり方を理解しているだけで、考え方や予想はあまり理解できていないというのが現状。昨日のことも先ほどの話を聞いてギリギリ納得できたぐらいだしね」
「そうだったんだな」
「そうよ。本当に『予想スキル』でもあるんじゃないかと思うぐらいだわ」
苦笑いしながらそう言うリア。
それに僕も苦笑いを返す。
はっきり言ってそんなスキルなんかない。
でも、そう思わせるほど僕の予想能力が他とは違い過ぎていたことに変わりはない。
別にそんなことを二人に思わせるつもりなんか一切なかった。
だがしかし、一族に命を狙われていると知っている以上はある程度の対策を取る必要があったのだ。
それが結果的に他より優れた予想能力を持っていると思わせることになったというだけ。
まぁ二人がそれを受け止めてくれたというのはラッキーだったと言える。
何か疑われ、僕という存在を変に思われなくて良かった。
いや、変だとは思っているが、役に立っているから何も言ってこない可能性もあるな。
どちらにしろ追求されることは無さそうだ。
「話も食事も終わったし、そろそろ宿に戻るか?」
「そうね」
「うん、お腹いっぱい!」
サラはニコニコとした笑顔を見せ、気持ち良さそうにお腹をさすっている。
満足してくれたようだ。
「じゃあ、会計してくるわ」
「私たちは外で待っとくわね」
「ああ」
リアは僕の返事を聞くとゆっくりと立ち、柔らかな表情のサラを引っ張りながら店を出て行った。
一方、僕はいつも通り会計。
奢らさせるのは慣れたもので、もう別に嫌とは思わなくなった。
むしろこれが当たり前。
「3万ポイントとなります」
相変わらず高いが、あの高級寿司屋に比べれば可愛いものだ。
って、完全に感覚がおかしくなり始めているな。
「はい、ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております!」
見慣れた店員の笑顔を見て、僕は軽く頭を下げ海鮮丼屋を後にした。
⚀
海鮮丼屋を出て数分、僕たちは宿に到着。
「ところで今からどうするの?」
「あたしはダラダラ~」
「ダラダラしないぞ。ちゃんと予定はある」
「「予定?」」
僕の言葉に二人は首を傾げる。
「今からこの宿を調べようと思っていてな」
「調べるって何で? ココはもういないじゃない」
「まだココが黒幕だったという証拠はない。僕は今もマーキュリーがどこかで僕たちを狙っていると考えている。それを探るためにまずはこの宿を調べるというわけだ」
「なるほどね」
「あたしも調べる?」
サラの奴、お腹いっぱいの上に昨日の疲れがあるのか相当ダラダラしたいようだ。
口調もかなりダルそうだし。
まぁプールからの毒だから仕方ないか。
でも、やはりサラを同行させないと身の危険を感じる。
イベントまでは休むつもりだ。
なので、今日だけは頑張ってもらいたい。
「念のためサラにも同行してほしい」
「うん、分かった」
文句一つ言わず素直にそう答えるサラ。
それに少し驚いたが、こちらとしては有難い。
「じゃあまずはキッチンから見て行こうか」
僕の言葉に二人は頷き、キッチンに向かう僕についてくる。
この宿に二ヶ月半ほど泊っているが、キッチンに入るのは初めてだ。
もちろん見るのだって初めて。
ずっと入ってみたいと思っていたのだが、宿の管理人だったココだけしか入れなかった。
少し重い扉を開け、僕たちはキッチンへ。
壁のボタンを押し、電気をつける。
「案外、普通のキッチンだな」
「見た感じそのようね。怪しさも何もないように見えるけど」
「同意見だが一応調べておくぞ」
とても綺麗なキッチンだ。
料理器具も綺麗に並べられており、シンクの汚れすらない。
あらゆる場所にある棚を開けるも、大量の皿やコップ、ナイフ、スプーンなどが出てくるだけ。
全く怪しいものは出てこない。
「そっちは何かあったか?」
「いいえ、何もないわ」
「あたしの方も食べ物ぐらい……モグモグ」
「おいおい、何バナナ食べてんだよ。毒であんな思いをしておいて警戒もクソもないな」
「あ、つい食べちゃった」
何が「つい食べちゃった」だ。
数分前に昼食で海鮮丼を食べたところだろ。
三日ぐらい何も食べてないなら仕方ないと思うが、流石にこれには呆れる。
サラらしいと言えば、サラらしいがな。
「まぁ何も無さそうだな。次は部屋でも回るか」
というわけで、次は僕たちの部屋がある二階へ。
ここには僕たちの部屋を含め五つの部屋が存在する。
前から興味はあり調べようと試みたこともあったが、どの部屋にも鍵がかかっていて開くことはなかった。
だけど、今なら無理矢理にでも開けることができる。
ゆっくりと階段を上がり二階に到着。
僕たちの部屋は一番奥なので、手前の部屋から順番に見て行くことにする。
「まずここからだな。さっきのキッチンに鍵とかあったか?」
「見てないわね」
「あたしも」
「だよな」
僕たちの部屋の鍵はあるのに、他の部屋の鍵がないとは不自然だ。
ココを処理する時に、何か持っていないか調べたが何も持っていなかった。
一体、どこに鍵があるのだろうか?
まぁないなら無理矢理こじ開けるしかないけど。
「前と変わらず鍵がかかっているな。サラ、この扉をブチ破れるか?」
「もちろん可能」
「ちょ、ゼロ! 壊す気なの?」
「そうだが問題でも?」
「いや、問題しかないでしょ! 針金で鍵を開けるとかさ、他にもやり方はあるでしょ?」
「それはもう試した。そして無理だった」
そんなやり方で開くなら、このような手段は使わない。
というか実際使いたくない。
だが、前に一度挑戦してみた結果、特殊な鍵穴のようで手応えすらなかった。
そういうわけで、こういう手段を選んだのだ。
「そ、そう。なら仕方ないわね」
もう試していたことに少し驚いていた、いや、引いていたが、リアは納得してくれたようだ。
「ゼロ、もう蹴っていい?」
「ああ、頼む」
僕が蹴りを了承した瞬間、サラがバナナの皮を地面に投げ捨て、二歩下がって飛びながら前蹴りを繰り出す。
すると、扉は吹っ飛ぶことなく、何故かその場で崩れ落ちた。
同時にその理由が目の前に現れる。
「えっ、これって……」
「……壁だな」
扉の向こうにあったのは壁。
普通の壁だ。
「どうなっているの? 部屋は?」
「見て分かる通りない。これはフェイク扉だ」
普通に考えて、僕たちの部屋しかない宿など怪しさしかない。
だから、敢えてこのように壁を少し削り、扉を埋め込んだのだろう。
ちゃんとした宿だと信じてもらうためにな。
「ということは他も――」
「間違いなくフェイク扉だろうな」
そしてこれが意味するのは、この宿が僕たちを殺すためだけに用意されたものだということ。
正直、大掛かりすぎる気がするが、最初から他の客を泊める気がなかったことから間違いないと思う。
しかし、マーキュリーという存在はGポイントを相当持っているな。
僕と同じかそれ以上なのは間違いない。
そう考えると、マーキュリーはかなり厄介な奴らだと言える。
本当に厄介すぎだ。




