87.ココのポイズン
「さ、サラっ! ねぇ、ど、どうしたのよ!?」
「ぐぅる、じぃ……」
首をかきむしりながら涙目でそう訴えるサラ。
額や首から汗が滝のように流れ出し、完全に普通の状態ではない。
ココナッツジュースはいつも飲んでいる飲み物。
いきなりこんなことになるとは思えない。
変なところに入ったとしても、ここまでには絶対にならない。
「サラ、分かった。分かったわ。すぐに私のスキルで楽にしてあげるからね」
リアは優しくそう言い、安心させるような笑みをサラに向ける。
それにサラは軽く頷き、リアが回復スキルを使い治療を始めた。
一方、僕はこんなにサラが苦しむ中、一言も声を出さないココに視線を向ける。
すると、ココは……笑っていた。
しかも、頬を上げて目を細め、腹に手を置いて大爆笑。
「ココ、何笑ってやがる。一体何をした?」
「えぇ~? 何って少し……『毒』を入れただけだよ!」
「毒……だと」
「うん、そうそう! 毒だよ毒! し・か・も、かなり強烈なやつを、ね!」
ココは毒という言葉を強調しながらそう言い、満足気な笑みを浮かべる。
今の話、今のココの姿は正直信じたくはないが、この目でサラが苦しんでいる姿を見ている以上、信じざるを得ない。
もう先ほどまでいたココは目の前にはいない。
口調はガラッと変わり、面白おかしくサラの苦しむ姿を見て楽しんでいる。
まるで、悪魔のよう。
いや、悪魔だ。
一変してしまったココに僕は少し戸惑いながらも、平然とした口調でココに問いかける。
「それはつまり、サラを殺そうとしたってことか?」
「そうに決まってるじゃん! 毒の使い道ってそれ以外にあるの?」
僕の問いに一切否定することなく、二つ返事でそう言うココ。
そんな反応に一瞬、僕は謎の圧を感じ息を呑む。
「……な、ないが、これは正真正銘の殺人行為だ。間違いなくお前は実力協力制度のルールにより死刑になるぞ!」
「ああ、知ってる。ゼロが言った通りボクは間違いなく死ぬ」
「は? それって最初から死ぬ気でこんなことを――」
「だから、そう言ってるじゃないか」
ココはため息交じりにそう呟く。
僕を見るその目は呆れており、「普通に分かるでしょ?」とでも言っているかのよう。
もちろん聞く前からそんなことは分かっていた。
だが、分かっていても理解が出来なかったのだ。
だって、死ぬ覚悟で殺しに来ているなんて信じられるか?
いや、実際に起きているのだから信じるも何もないのだが、やはり理解には苦しむ。
今までこんなことはなかったし、聞いたこともなかった。
前代未聞としか言いようがない。
僕が言葉を止めて理解に苦しんでいると、ココは僕の姿を見て「ふんっ」と鼻で笑い口を開く。
「しかし、ここまでの道のりはなかなか長かったよ。リアとわざとぶつかり、三人の前でずっと『優しくて真面目なココ』を演じて。そんな日々にストレスを感じ何度も吐いた。けど、その甲斐あって無事に今日という日を迎えることが出来た。本当に、本当に……幸せだよ!」
天使の羽のように両手を天にあげ、ココは何かに解放されたような表情で幸せを叫ぶ。
だが、僕の目から見たココは気が狂っているようにしか見えない。
いや、気は完全に狂っている。
でも、これが本物の表のココなのだろう。
「ゼロ、リア、サラ!
今まで三人を騙していたことは謝るよ。そしてこんなボクを受け入れてくれないか?
数分後には、住む場所が変わることになるけど、一緒の場所でまた食事でもしながら同じ時を過ごしてほしいんだ!
簡潔に言うとね、ボクは死んでもまた三人と楽しく笑って過ご――」
「それはないわよ、ココ!」
「はぁ、はぁ……」
「なっ!? な、ななな、何でサラが生きている。毒耐性があるのはリアだけじゃ……」
やはりリアが毒耐性があることを知っていたか。
これでまた一つ謎が解けた。
「残念だったわね。毒耐性があるってことは毒を治癒することだって出来るのよ!」
「ふ、ふざけるな! あの毒はGレイヤーで一番の毒だぞ!」
「それがどうしたの? Gレイヤーで一番の毒が私に勝てなかった。ただそれだけのことでしょ?」
「うっ……」
胸を張ってそう自慢気に言うリア。
自分のスキルで裏切ったココをぎゃふんと言わせることが出来て気持ちいいのだろう。
それにサラを助けることが出来て内心ホッとしているが、それを表には出さないように強がっているという感じか。
サラの方はというと、今ゆっくりと呼吸して息を整えている。
首をかきむしった後も綺麗に消えており、真っ赤だった肌が真っ白な肌に戻っていた。
ふぅ……不意を突かれて一瞬、焦りはしたが予定通りだ。
僕という存在がいる限り、そう簡単に仲間が死ぬことはない。
頑張ったココには悪いが、僕はこんな場所を墓場にする気など毛頭ないからな。
「ココ、悪いが死ぬのはお前だけだ。残念だったな」
「これは……一本取られたね。約二ヶ月半にも及ぶ計画が大失敗だよ」
ココはやれやれという感じで目を閉じながら首を振り、重々しいため息をつき言葉を続ける。
「まさかボクがスキルの能力値を見誤るとはね」
「フンッ、まるでそれだけの理由で失敗したみたいな言い方だな」
「何が言いたい? 計画が失敗した理由などこれ以外ないだろ?」
「確かにそれが失敗した理由の重要な一つには違いない。だが、本当にそれだけだと思うか?」
「そ、それはどういう意味だ!」
「はぁ……まだ分からないのか。仕方ない、簡単に分かりやすくストレートに教えてやるよ」
一度、息を整える僕。
ココは息を呑み、静かに瞬きすることもなく僕の続きの言葉を待つ。
数秒だけど長く感じる沈黙が流れ、僕は少し口元を緩めて口を開いた。
「僕はずっと前からお前のちんけな計画に気付いていた。ただそれだけのことだよ」
そうただそれだけ話。
何が約二ヶ月半にも及ぶ計画だ。
笑わせるのも大概にしてほしい。
それにしても、計画を実行してくれるまでかなり長かったな。
恐らく僕たち三人が間違いなく判断が朦朧とするぐらい疲れて帰ってくるであろう今日を狙たんだと思うが、そんなことはハッキリ言って無意味だったと言える。
だって、僕は全てを知っていたのだから。
僕とは違い、そんなことを一切知らないリアとサラはというと、現在口をポカーンと開けて静かに聞き耳だけ立てていた。
正確には状況を未だに理解できていないという方が正しいか。
だが、それでも今の二人の状況や反応には一瞬目を疑った。
なぜなら、Gレイヤーの中で一番長い間、一番近い場所にいたココという存在に裏切られたにも関わらず、前の時とは違い、今回は冷静な態度で場を乱さなかったのだから。
加えて今回はサラを殺されそうになり、リアはグループメンバーが殺されそうになったというのに、だ。
僕の心からは「驚いた」という言葉しか出てこない。
でも、二人が大きな壁を乗り越えて二ヶ月半という短期間で大幅に成長してくれたことは間違いない。
そんな二人の成長に関心していると、頭を抱えたココが口を開く。
「ぼ、ボクは……ミスなどおかしてない!」
「じゃあ、ミスしなくてもバレるぐらいの計画だったということだな」
「なっ……ど、どこで気付いた?」
「どこで気付いたというよりかは最初から怪しすぎたんだよ、ココがこの宿が」
僕は最初からココとこの宿を怪しんでいた。
ぶつかっただけで格安で泊めさせてくれた点。
他に宿泊客がいない点。
いや、お風呂で一度だけデネブというお爺さんと出会ったのだが、この宿のシャンプーとボディソープを使い続けているうちに、そう言えば、デネブからはその匂いがしていなかったということに後々気付き、この宿の者ではないと確信。
じゃあ何故あそこにいたのかという疑問が生まれるのだが、それは僕にも分からない。
そのような理由で最初から相当怪しんでいたのだが、この二つの点だけではあのような計画を企んでいるという手掛かりすら見つからない。
だが、ココとこの宿で日常を送る中で色々と見えてくるものがもう二点ほどあった。
それがこの計画を知る、いや、予想するきっかけになったのだ。
本日更新日―ー10月9日は三一五六の誕生日!!!
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