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77.公開グループ戦【3】

「白ってことは何か命令することが出来るんだよな!」

「ああ、そうだ」

「じゃあさ、軽く俺の足の指でも舐めてみてくれや!」


 カジキのその言葉に思わず僕たちラックの三人は固まり、冷たい視線を送る。

 だが、カジキの方は本気のようで、組んでいた足を長机の上に「ドンっ!」と乗せた。


「そういう性癖なのか?」

「いやいや、違うぞ。俺の中で命令と言えば『靴舐めろ』なんだけど、Gレイヤーでは靴とか履かないからさ。そうなると、舐めさせることが出来るのは足の指しかないだろ?」


 いや、そんな真面目な顔で堂々とそんなこと言われても困る。

 何て答えればいいか全く分からない。

 というか、靴舐めさせることが出来ないなら、舐めさせる命令を止めればいいと思う。

 なぜ、そんなに『舐めさせる』ことにこだわっているのだろうか。


「おい、なんか反応してくれよ」

「あ、悪い」

「てか、早く舐めてくれ。この体制を保つの意外とキツいんだわ」


 なら最初からそんな命令しなければいいのではないかと思うが、見ているこっちもなんか可哀想に思えてくる体制なので、早めにどうにかするか。


「サラ、舐めてやれ」

「え、あたし?」

「嫌ならリアに頼むが――」

「私は無理よ。苦手分野だわ」


 いや、これ得意分野の奴なんていないからな。

 と、僕は心の中でツッコミながら、面倒な命令をどうするか考える。


 リアの方は完全に引いてしまっているので無理そうである。

 特にリアのようなお金持ちとして育ってきた奴にはプライドがあったりするからな。

 まぁプライドがなくても、男の足の指など舐めたくないが。

 そうなると、やはりサラしか頼める存在がいないのだが、サラも流石に少し嫌そうな表情をしている。

 常識外れだからすぐに了承してくれると思っていたんだが、こういうところは意外とちゃんとしてるのかもしれない。

 そんなことが分かって良かったと思えた半面、残念でもあった。

 なぜなら、二人が舐めないなら、消去方で僕が舐めることになるのだから。

 想像するだけで吐き気がするな。


「サラ、無理そうか?」

「ううん、やる」


 サラは神なのか。

 正直、今回は二人の表情を見て、もうほとんど舐めることを覚悟していたのに。

 サラはなんて良い奴なんだ。

 僕の真横に天使が舞い降りたぞ。

 本当にありがとうございます。


 表では平然を装いながら、心の中ではサラに向かってペコペコ頭を下げる僕。

 それも何度も何度も何度も。

 近いうちにあの高級寿司屋にでも連れて行ってやるか。

 それぐらいはしないとな。


「それは助かる」

「お、女の子が舐めてくれるのか!?」

「僕が良かったか?」

「いや、それは遠慮しておきます。マジで、本当に、無理です」


 僕の冗談を聞いた途端、カジキの表情が満面の笑みが真顔に変わり、真剣にお断りされた。

 しかも、最後に引き気味で「無理」とか言われたし。

 もし、僕が舐めることになっていたら、どうする気だったのだ。

 周りは引き、どちらも嫌がりながら……相当な地獄絵図になっていたところだったぞ。

 僕と同じようにサラに心から感謝してほしい。

 それともう少し考えて命令してほしい。


「もう舐めていい?」

「あ、うん。いいぞ」


 僕がそう言うと同時に、サラが顔をカジキの左足へ近付けていく。

 指まで数センチほどなり、サラが食事をする時のように大きく口を開け、犬のように舌を出して汚らしい親指をゆっくりとペロンっと舐めた。


「あっ! な、なんか変な感じだな……」


 カジキが需要のない喘ぎ声を街中に響かせ、目を閉じながら今の状況を口にする。

 そんなカジキの表情を見て思ったことは、そういう系の特殊な性癖があってもおかしくないということ。

 非常に気持ちが悪い。見ているだけで吐き気がする。


 それよりも少しサラの様子がおかしい。

 見たことないほど渋い表情で、犬のように「はぁ、はぁっ」と言いながら、ずっと舌を出している。

 数秒後、サラが吐きそうになりながら開いている口から声を出した。


「うっ、うぇっ! なんか……なんか変な味する!」

「だ、大丈夫か?」

「大丈夫じゃない。気分は最悪。舌が汚染された」


 僕が申し訳なさそうに心配する言葉をかけるが、サラの渋い顔は更に渋さを増していくばかり。

 何も対処方が思いつかない僕は悩んでいると、サラの舌がついに限界を迎えたようで、サラは体を小さく丸めて手を隠しながら、水が入ったペットボトルを生成。

 すぐさまキャップを開け、手に水を乗せて必死に舌を擦るように洗う。


「な、何だ、その反応は!? 俺の足の指を舐めれて嬉しく思えよ!」

「生ゴミのような味。お風呂入った? 腐ってるんじゃない?」

「グサッ、グサッ! グサッ……」


 サラの言葉にショックを受けたようで、自分の口で刺されるような効果音を言いながら、刺されるような演技をするカジキ。

 まるで、その姿は拗らせた中二病。

 演技のクオリティはなかなか高く、かなりリアリティを感じる。

 だが、その無駄なクオリティの高さのせいか見ているこっちが恥ずかしい。

 そういうことなので、これ以上は触れないでおく。


 それにしても、サラの奴もかなりボロカス言いやがったな。

 恐らくサラのことだから思ったことを全部口にしただけだと思うんだけど、言葉一つ一つが鋭く尖った刃物ぐらいの攻撃力はあったと思う。

 サラはそれを無意識に飛ばしてしまうのだから恐ろしい。


「そこまで言わなくてもいいじゃん……」


 カジキはしょぼんと表情を暗くし、静かに長机から足を下ろす。

 かなり先ほどのサラの言葉が心に刺さったようだが、可哀想とは一ミリも思わない。

 というか自業自得である。


「まぁとにかく命令されたことに成功したから僕たちが一点だな」

「うわぁー、マジかよ。何も得してないじゃん、俺」


 それは知らん。

 てか、自分で命令しておいて、自分でダメージを負うとか逆に凄い。

 ある意味才能と言えるかもしれない。


「次は僕たちの番だな」


 僕はそう言い、カジキの目の前にあったコインを取ってサラに渡す。


「やっていいってこと?」

「ああ、今の地獄を引き受けてくれたからな」

「あ、地獄って言った! 地獄は言い過ぎでしょ!」


 カジキが僕を指差し、少し膨れた表情でそう言うが無視。

 僕的には地獄は言い過ぎというよりかは、むしろオブラートに包んで言ったぐらいだ。

 他にもっと酷い言い方があったのに、言わなかっただけ感謝してほしい。


 その後も、カジキはしつこく地獄という言葉を否定していたが、僕たちはまるでそれが一切聞こえていないかのように自然な表情で流し続ける。

 そのまま何事もないように、サラがコインを親指で弾く。

 サラの弾いたコインは天に向かって綺麗に回転しながら上昇、最高到達点で一瞬だけ停止し、一気に急降下してスポッとサラの両手の中へ。

 それと同時にパッと両手を開いた。


「あ、黒だ」

「黒ということは質問だな。サラが質問していいぞ」

「いいの?」

「ああ」


 まだ序盤も序盤。

 それに僕たちが一点先取している状況だ。

 サラに質問させるぐらい何の問題もない。


「って、無視かよ! 聞こえてるだろ!」

「はぁ……カジキ、まだ何か話していたのか。静かにしてくれないと公開グループ戦が進まないだろ。それにな、周りをよく見てみろ」


 僕にそう言われ、ぐるっと周りを見渡すカジキ。

 現在、カジキが足の指を女の子に舐めさせたこと、カジキの足の指がかなり汚いと思われることから、カジキに冷たい視線が送られていた。

 もうそれはそれは凍えるぐらいで、こちらも迷惑しているぐらいだ。


「あ、なんか……すみませんでした」


 カジキは状況を理解したのか、あっさりと謝った。

 それを見て意外と素直な奴だと思いながら、周りの視線が元に戻り僕はホッとする。

 数秒後、僕とカジキの会話が落ち着いたのを確認してサラが話しかけてきた。


「ゼロ、もう質問してもいい?」

「もちろん」


 その言葉を聞き、サラは少しワクワクした表情で前を向いて口を開ける。


「クリオネのおっぱいのサイズはAカップ?」


 その質問の瞬間、周りにいる男性陣の目が一瞬にしてクリオネを向く。


 ところで、サラの奴は何でこんな質問をしたんだよ。

 初対面の人に対して、この質問は流石に斜め上すぎる。

 難易度で言えば、難しいの上の鬼ぐらいだ。

 常識外れのサラにしか出来ない超絶失礼な質問と言える。

 だがしかし、この質問に僕も男として興味が湧かないわけではない。

 濃い赤色のチューブトップ型の水着を見た感じクリオネの胸は小ぶり。

 サラとあまり変わりがないぐらいだ。


「キャー、うちのパイパイに興味があるとか驚きなんですけどぉ~」


 両手を胸に押し当てながらそう言うクリオネ。

 まぁ押し当てるというよりかは、ただ両手を当ててるだけだけどな。

 押すものが存在しないので、当然と言えば当然だ。


「で、どうなの?」

「えー、これって絶対に答えないといけないやつだよねぇ~」

「そう」

「もー、仕方にないなぁ~! 恥ずかしけど、教えてあ・げ・る!」


 クリオネはテンション高めにそう言いながら、アイドル顔負けの綺麗なウインクをする。

 その瞬間、周りからは多くの声にならない声や息を呑む音が聞こえた。

 もしかしたら、クリオネはGレイヤーのアイドル的存在なのかもしれない。

 今の時代、ギャル系は珍しいからな。

 意外とファンが大勢いてもおかしくない。


 そんなクリオネは少し間を置き、男たちを焦らしてからゆっくりと口を開いた。


「うちのパイパイのサイズは……Aカップ! つまり、YESだよ!」

「や、ややや、やったぁぁぁぁあ!」


 それを耳にしたサラは拳を突き上げるように、ガッツポーズをして見たことないような笑みを浮かべる。

 一方、周りの男たちはというと、「おー」みたいな顔をしながら「やっぱりか」みたいな感じで数回頷いていた。


「サラ、何で喜んでいるのよ! YESってことは一点取られたじゃない!」


 今まで静かだったリアがサラを睨みながらそう言う。

 リアの言う通り何で一点取られたのにサラは喜んでいるんだ。

 てか、何でサラは見た感じAカップの可能性があるクリオネに対して、Aカップかどうか聞いたのだろうか?

 これでは当てにいったようなものだ。

 冷静に考えてこの手の質問をするなら、Gカップとか絶対にNOと答える質問をするべきだろう。


「ゼロも何か言ってやりなさいよ」

「あ、ああ、そうだな。それでサラは何で喜んだんだ?」

「だって、勝ったんだよ! あたしはBカップ!」


 僕に向かって胸を張りながら、自慢気にそう言うサラ。


「って、まさか……勝っているかどうか知りたくてそんな質問をしたのか?」

「そう! そして勝ったの! 勝った勝った!」

「勝ったじゃないわよ」


 リアは呆れるようにそう言い「はぁ……」とため息をつく。

 そんな対照的な二人の表情を見ながら、僕は苦笑いを浮かべる。


 恐らくサラはリアにバストアップのマッサージを教わり、少しバストアップ効果が出たので、このような質問をしたのだろう。

 いつもリアに貧乳扱いされている分、目の前にいるクリオネの貧乳に対して「もしかしたら勝てるのではないか」なんてことを考えたに違いない。

 全く、サラが勝ったところでYESと答えられたら、この質問では負けたようなものだ。

 一点先取したからと言って、サラなんかに質問させるべきではなかったな。


「ゼロ、これで同点だな」

「ああ、こんなすぐに同点になるとは思っていなかったよ」

「いやぁ~、そっちのグループにバカがいて良かったぜ!」

「ああ、そうだな。お互いバカがバカしたから一点入ったようなものだしな」

「それって俺のことバカって言ってるのか?」

「え、ああ、そうだが間違っていたか?」

「間違ってるどころか大間違いだぜ! 俺はバカじゃない!」 


 間違ったことを言ったはずじゃないんだが、何故か全力で否定された。

 一方、隣のサラの方は、まだ初めて胸のサイズで勝ったことに浮かれているようで、バカと言われていることには気付いていないようだ。


「はいはい、分かったから次のコイントスをしてくれ」


 カジキの話を流すように僕は言い、コインをカジキの前に置いた。


「お、バカじゃないと分かってくれたか! よし、コイントスするぞ!」


 まぁそういう単純なところがバカっぽいんだけどな。

 こいつらが本当に実力者なのか、正直言って信じられなくなってきた。

 周りが「ペンギンペンギン」言ってたのがバカっぽく感じる。

 まぁまだ公開グループ戦は始まったばかりだ。

 様子を見ながらゆっくり進めるか。

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