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66.戻ってきたラックの日常

「サラ、ここが宿だよ」

「な、なんか凄い」


 グループ戦が終わってから約六時間。

 僕たちは無事にココの宿に戻って来た。


 その前にこの六時間をどのように過ごしていたのか軽く話しておく。

 グループ戦が終わり、サラを本当の意味で助けてから数分後、僕たちはサラの要望で昼食を蟹屋という蟹専門店で食べることになった。

 そこには蟹のしゃぶしゃぶを始めとした蟹料理が勢揃い。

 蟹飯、蟹汁、蟹の茶碗蒸し、蟹クリームコロッケなどなど。

 とにかく蟹と付く料理のみ。

 サラはそのほとんどを頼み、幸せそうに頬を緩めながら食べていた。

 正直、ここまで蟹にこだわらなくていいのではないかと思ったが、サラ曰く前に寿司屋へ行った時に蟹だけなく、その後に無性に蟹を食べたくなったとか。

 その結果、僕は寿司屋以上にGポイントを払う羽目になったのだが、サラに食欲がしっかりあることが確認でき、幸せそうな顔がまた見れたので、蟹屋に来て良かったと思っている。


 それよりも蟹屋で、サラは裏切り者を嫌う理由である『過去』を話してくれた。

 サラが産まれてから戦場に立つまでのこと。

 容姿から『悪魔の子』と呼ばれていたこと。

 初めての戦場で挫折したこと。

 たった一人で行った襲撃のこと。

 そして仲間に裏切られ、一番の友である『エリット』が殺されたこと。

 その結果、『裏切り者』を見ると体のコントロールがきかなくなったこと。

 最後にこの世界に来るまで一人で生活していたこと。


 リアはそんなサラの過去話を聞いて大泣き。

 自分のことように大粒の涙を流しながら泣き、食事中だというのにサラを抱きしめていた。

 だがしかし、その時のサラはリアより蟹を食べることが最優先だったらしく、無視してひたすら蟹料理を口に運び続けていた。


 そんなことはどうでも良くて、やはりサラは人一倍『裏切り』が嫌い、いや、絶対に許せないようだ。

 過去話を聞けば、その理由も充分理解できる。

 とても若い年齢であのようなことがあれば、そんな思いを持ってしまうのも仕方ないだろう。

 しかし、サラにそのような思いをいつまでも持たせておくわけにはいかない。

 この世界は裏切りが多い場所、しっかり矯正していかなければ今後いつサラのコントロールがきかなくなり、殺人を犯してしまうか分からないからな。


 そのためにも僕とリアがサラを見守りつつ、まずは人を信用すること、グループメンバー以外には裏切られる可能性が常にあるということを教えなければならない。

 いや、教えるという表現は正しくないか。

 話を聞く限り、サラはそれを頭では理解しているみたいなので、少しずつ体にもそのことを理解させ、『裏切り』行為を許す心と体を身に付けさせる。

 そうすれば、サラ自身もっとステップアップできるはずだ。


 心が不足しているリアに対し、サラの心は深く傷ついてしまっている。

 また新たな問題が発覚したが、このことを早く知れたということは不幸中の幸いと言うべきだろう。

 それに今回の件、少しラッキーなこともあった。

 それはサラとリアが衝突したことによって一度離れた結果、改めて二人はグループメンバーの必要性を再認識し、サラとリアが二人を求め合ったということ。

 この経験は二人の心の問題に大きな刺激を与えたことに違いない。


 さてサラの過去話についてはここらへんで終わるとして話を続ける。

 蟹屋で蟹をたらふく食べ、次にサラがまだ水着ではないということでGレイヤーの初日に行った水着屋へ僕たちは向かった。

 もちろん、今回もリアがサラの水着を選び、その評価を僕がすることに。

 二時間ほど水着選びをした結果、サラの水着を三着購入。


 一着目はブラの部分が横長の帯状で、チューブトップ型になっている真っ白なバンドゥビキニ。

 二着目は黄緑色の南国風の柄が入った上部がキャミソール形状で、ボトムと分かれているセパレートタイプのタンキニ。

 三着目は薄い紫色で水玉模様のワンピース型の水着。


 何と言うかリアとは違い、サラはその胸が小さいということもあり、三角ビキニなどの胸を強調するようなビキニは全く似合わなかった。

 いや、正直に言うと、サイズがなかった。

 サラはそのことに対し「パットでどうにかする」と謎に強気でそう言っていたが、リアに「その胸じゃパットが落ちて恥をかくだけよ」と鼻で笑われながら言われ、頭を抱え諦めた。

 まぁサラはまだ発達途中なのだから仕方がない。

 それに体型は人それぞれ違うのだから似合う水着も人それぞれ違うと思う。

 だから、サラがわざわざ胸を強調する水着を着る必要もない。

 サラはセクシー系というよりかは可愛い系だからな。


 そう言えば、この水着選びで面白い発見もあった。

 それはサラの日焼け跡が無くなり、綺麗な白い肌に変わっていたのだ。

 サラ曰く、地球の冬場はいつもこんな感じだったらしいが、初めて見た僕とリアはその白すぎて輝く肌に驚きを隠せなかった。

 なぜ日焼け跡が無くなったかは、三人で推測した結果リアのスキル『回復』によって皮膚が元の状態に回復したからという判断に至った。

 確かにイベントの最後あたりは白かった記憶もなくもない。

 いや、イベントであまり気にしていなかったというのが本音だ。

 でも、改めて見て気付き僕が思ったことは、サラはこの白肌の方が似合っていて、本当に天使のように美しいということ。

 まぁ中身は悪魔に近いがな。


 そんな色々なことがあり、最終的に僕はサラの水着を買わされた。

 水着屋を出ると、外はもう日が暮れ始めていたので、ココの宿に戻ることに。

 そして今に至るというわけだ。


「おかえりなさい。そ、その子は?」

「ただいま、ココ。それよりも紹介するわね。この子はグループメンバーのサラ」

「サラさん、初めまして。ボクはこの宿で宿主をしているココと言います」

「ココ、よろしく」

「よろしくお願いします」


 軽く挨拶を交わす二人。

 ココの方は満面の笑みだが、サラは僕たち以外と話す時のような無表情。

 流石にそう簡単に人は変わりはしない。

 いや、初対面なのだからこの反応は普通か。

 むしろ、これからどう接していくのかが大切だ。


「ココ。一旦、僕たちはサラの荷物を置きに部屋に戻るよ」

「分かりました。夕食はどうしましょう?」

「リア、どうする?」

「そうね。十分後には降りてくるから用意しておいてもらえると有り難いわ」

「はい、分かりました。では、また十分後に」


 そう言い、すぐさまココはいつも通りキッチンがあると思われる場所に入っていった。


「僕たちも行こうか」

「そうね」

「うん」


 そういうわけで、僕たちは部屋のある二階へ上がるのであった。

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