64.今、あたしを助けられるのは誰?
「ついに動き始めました」
「そうか。サムはそのまま監視を頼む」
サムはその言葉にコクリと頷き、一瞬にしてその場から消え去る。
これがサムのスキル――『瞬間移動』。
早朝からずっとこんな感じで、二人を監視し続けているらしい。
てか、サムはちゃんと喋れるようだ。
会ってから今日の朝まで喋っているところを見たことがなかったので、最初に喋ったところを見た時は馬の赤ちゃんが初めて立つ姿を見るぐらい衝撃を覚えた。
まぁそんなことは良くて、現在もあたしは拘束されている。
と言っても、朝昼晩とご飯はあり、フッキに『あーん』されながら残さず食べた。
寿司には劣るがあるだけマシで、そのおかげか体の調子もそこまで悪くはない。
「それにしても、一時間を切ってから助けに動くとは相当なめられたものだな。フッキもそう思うだろ?」
「ええ、ちょっと……遅すぎるわね」
フェダーが鼻で軽く笑いながらそうフッキに話を振ると、フッキは不思議そうな表情というか、何か考えるような表情と仕草を見せて肯定する。
それよりも一時間を切ったということは、現在の時刻はもう既に午前十一時を過ぎているということ。
これは何か意図的な遅れなのか、それともただ遅れているだけなのか。
どちらにしても、二人の行動がこれほど遅いのは不可解である。
リアは真面目な性格だし、ゼロもスキルがない代わりに頭の回転は良い。
意図的ならば、ゼロの作戦。
遅れているならば、何かアクシデントにあったと考えるべきだろう。
しかし、先ほどサムは「動き出した」と言った。
その言葉から推測するに遅れている理由はアクシデントではないと思われる。
そうなると、ゼロの作戦ということになるのだが、どういう作戦なのかは見当もつかない。
「このままじゃ普通に考えてこの場にすら間に合わないな」
「うん、間違いなく間に合わないわね」
フッキは先ほどと同様にフェダーの言葉を肯定する。
だがしかし、すぐにその言葉の後に「でも」と付け加えて言葉を続ける。
「流石におかしいと思わない?」
「ああ、おかしい。ヒントとして居場所を三ヶ所に絞った上に、メニューバーにはサラの位置情報まで載っているからな。むしろ、ここまで遅れる方が難しいぐらいだ」
「そうなのよ」
その会話を聞いてあたしは唖然とした。
だって、二人はあたしの位置情報を知っていながら、グループ戦終了直前なってからここへ向かっているのだから。
まるで、これでは……
「サラ、見捨てられたんじゃないか?」
あたしの心を読むかのようにフェダーがそう言葉を吐く。
でも、そんなことは絶対にないとあたしは知っている。
なぜなら、あたしが死ねば二人も死ぬのだから。
それに現在こちらに二人は向かっているのだから、見捨てられたわけではないことは間違いない。
だから、あたしはフェダーに向かって力強くこう言う。
「それはない! 二人は必ず助けに来る!」
「だが、距離と残りグループ戦時間を考えれば間に合わない。それは事実だ」
「だとしても、助けに来るはず」
あたしの言葉を聞き、呆れたように「はぁ……」という深いため息をつき、耳を小指でほじりながら、フェダーは口を開く。
「サラが何を根拠にそう言ってるのかは想像がつく。だがな、間に合わないというのが事実であり、それを変える方法は存在しない。それに……」
フェダーは急に言葉を止め、ニヤリとしながら鼻で笑う。
そしてもう我慢できないという感じで、腹を抱えて大声で笑い始めた。
その姿を見ていていると吐き気がする。
だが、今の私には睨みつけること、嫌な表情をすることしかできない。
あたしは長々とした笑いに少しイラつきを覚えながら、フェダーの言葉を引き出すために話しかける。
「で、それに何?」
「ああ、そうだった」
息を整えながら、あたしの言葉に返事し、一呼吸してから口角をあげて胸糞悪い笑顔を向け口を開いた。
「そ・れ・に! 間に合ったところで二人がサラを助けられるとでも思っているのか?」
「そ、それはどういうこと?」
あたしはその言葉に思わず動揺してしまい、噛みながらその意味を聞き返す。
「だからさ、もうそろそろ気付けよ。腹筋が崩壊するだろうが!」
「……」
無言であたしは首を傾げる。
「仕方ないなぁ~、分からないなら優しい俺が教えてやるよ」
あたしに数歩近付き目の前に立つと、フェダーはゆっくりと顔だけあたしの顔に近付けてニヤっとした表情を見せ、瞬きすることなく口をゆっくりと動かし始めた。
「このグループ戦はな、最初から俺らの勝ちが決まってて、ラックの負けが決まっている戦いなんだよっ!」
あたしの瞳をジーっと見つめ、嘲笑いながらそんな言葉を吐くフェダー。
それは「絶望しろ」とでも言っているかのよう。
正直、あたしには何を根拠にそんなことを言っているのかは分からない。
だって、このグループ戦の詳細を知らないのだから。
でも、それでも、この勝ちを確信したフェダーの表情、態度を見る限り、本当に勝ち目がないように思えてくる。
それにグループ戦というものが如何に恐ろしく、裏があり、最低なものなのかはあたしが一番知っている。
BNWの初日、あたしはビギナーズキラーの挑発に乗り、負けたことがないという自信だけで戦いに挑んだ。
その結果、リアの到着が数秒でも遅れていれば負けて今頃死んでいるところだった。
そう死んでいるところだったのだ。
で、そんな記憶があったからこそ、今回のグループ戦もリアの……二人の助けが来ると思っていた。
だがしかし、もうそんな助けは存在しないらしい。
ということは、このままあたしたちラックは……負けるのか。
――負ける……ラックが?
ふとそんな時、あたしは違和感を覚えた。
ラックが負けるということに対してではない。
このグループ戦の全てに対してだ。
まず勝ち目のない戦いにゼロとリアがわざわざ挑むのか?
――いや、挑まない。
グループ戦に二人が間に合わない理由は?
――間に合っても意味がないと分かっているから。
じゃあ、今あたしを助けられるのは誰?
――それは……あたし自身だ!
「残り五分。そろそろサムを呼ぶか」
フェダーはメニューバーでサムを呼び出す。
すると、すぐさまサムはこの場に現れた。
「様子はどうだ?」
「間に合う気配はありません」
「そうか。なら、もう監視は終わりだ」
「はい」
フェダーに返事を返したサムは飲み物をフッキから手渡され、フッキに感謝するように軽く頭を下げ、こめかみから汗を流しながら喉を動かして一気に半分まで飲み干す。
それを横目にあたしは口を開く。
「フェダー、もう監視を終わらせていいの?」
「ああ、もう勝ちは確定した。まぁ最初から確定していたがな」
「確かにそうかもしれない」
フェダーの言う通りである。
そう最初からずっと勝ちは確定していたのだ。
後はそれに気付けば良かっただけ。
あたしの言葉に首をポキポキ鳴らしながら、フェダーはニヤりと笑い口を開く
「だろ?」
「うん……あたしたちの勝ちが、ね!」
あたしはその言葉と同時にフッキがサムに飲み物を渡しに行った隙に生成していた『針金』で手錠を外す。
そしてフラッシュバン……じゃなくてここはスモークグレネードを生成し、地面に叩きつけて三人の視界を奪う。
「なっ、ど、どうなってやがる!? フッキ、お前がスモークグレネードを投げたのか?」
「そんなもの投げてないわよ」
「そう、だよな。サム、扉を開けて煙を出せ!」
そんな会話が真っ黒な煙が漂う小屋で聞こえる中、あたしはナイフを生成して足錠の真ん中を切り裂き、久しぶりに立ち上がる。
そうこうしているうちに漂う煙は扉から外へ出て行き、視界が見えるように。
「なっ、何でサラが立って……いるんだよ。どうやってあの手錠と足錠を外した?」
「そんな難しいことじゃない。アレぐらいであたしを拘束していたつもり?」
「チッ、まぁいい。どうせ相手は女一人だ。俺らが負けるはずがねぇー」
そんな強気な発言をしながらも、かなり警戒はしている。
まぁそらそうか。
急に相手が普通なら脱出不可能な状態からいとも簡単に抜け出したのだからな。
その前にあたしはメニューバーを確認。
時刻は午前十一時五十七分。
位置情報を見ると、ゼロとリアはこちらに向かって来ていた。
だが、やはり間に合いそうにない。
「おいおい、よくもこの状況で余裕をかませるものだな」
「ん? 余裕をかますも何も……余裕だから」
「こっちは三人だぜ? しかも、スキルも知らないだろ?」
そう言う割にはなかなか手を出して来ない。
恐らくこのまま時間が過ぎるのを待っているのだろう。
無駄な戦闘は相手も避けたいはずだからな。
「うん、知らないけど――」
「やれぇぇぇぇえ! サムっ!」
あたしが喋っている途中だというのに失礼な奴だ。
――跪け……サム。
あたしは空気が移動する感覚、今までの経験をもとにした予測、そしてサムの思考を読み、生成した拳銃を後ろに向け、振り返ることなく、引き金を引く。
「あぁぁぁぁぁぁあっ! い、いた、いたぁぁぁぁぁぁ……」
あたしはそんな痛そうなサムの悲鳴を背中越しで聞きながら、フェダーに向かって言葉の続きを吐く。
「知らないけど何か問題でも?」
「なぜだ!? なっ、なぜ一切見ないで正確に撃ってた!? それにどこかその拳銃を!」
「質問が多い。喋っている暇はないの。少し黙って」
――バンッ、バンッ!
あたしは言葉と同時にフェダーの両足に銃弾を撃ち込む。
すると、サム以上の悲鳴をあげて膝から倒れ込んだ。
「黙ってと言ったのに、はぁ……」
あたしはため息をつき、最後にフッキを見つめる。
フッキは震えることもなく、ただこちらを静かに見つめているだけ。
まるで、仲間に見守られているような感覚。
そんなことを思っていると、フッキが口を開いた。
「サラ、お別れだね」
「うん、正直フッキには感謝してる。あたしの心の鍵を開けてくれたから」
「ワタシは何もしてないわ。それはサラの力よ」
「そ、そうかな……」
「ええ、そう。それより時間だわ。もう終わりにしましょう」
「うん、そのつもり」
そう一言告げ、無抵抗なフッキの心臓を銃弾で貫いた。
『<情報>グループ戦終了。
グループ名――ラックの勝利。
これによりグループ名――ダックスのGスコア及びGポイントの全てがグループ名――ラックへ移ります』
いつも通り脳内に響く声と共に、グループ戦は無事に勝利という形で終了した。
あたしの周りに横たわる三人はもう死んでいる。
「……フッキ……」
あたしは心臓から血を流すフッキを見てそう呟く。
フッキには本当に感謝している。
先ほど直接言った通りあたしの心の鍵を開けてくれたのだから。
でも、そうだとしても敵に変わりない。
どんなに感謝している相手だろうが敵に容赦は出来ない。
そんなことすれば、こちらが死ぬのだから。
だけど、最後にこの言葉だけはフッキに言っておけばよかったと思う。
そう、あの言葉を。
――フッキ……「ありがとう」。
そしてこの場にゼロとリアが現れたのは、それから数秒後のことだった。




