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19.灯台の依頼

 私は鳥の甲高い声で目が覚めた。

 時刻は午前六時。

 横にいるゼロはまだ眠ったまんま、サラの方も小動物のような可愛い寝顔のまま。


 私は起こさないようにゆっくりと立ち上がり、ササっと着替えを済ませて部屋を出る。

 アルコールライフはまだ準備中。


「今日は早起きだね」

「はい、人で溢れる前に買い物をしたくて」

「なるほどね。さっき見た時はまだ少なかったから早く行っときな」

「あ、はい。すぐ行ってきます」


 私は準備に追われるアンナさんと軽く会話し、街へ。

 まだみんな寝ているのか、街にはまだ店の準備を始める人たちしか見当たらない。

 まるで、昨日の街の姿が夢だったのではないかと思うぐらいガラガラだ。


 まぁ油断していると人に飲み込まれそうなので、急いでパン屋に朝食を買いに行く。


「ありがとね!」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます」


 私は適当にパンを手に取り、三人分のパンを買う。

 三人分と言っても、サラの分があるので、どう見ても倍の六人分ぐらいあるのだが、別に周りから変に思われることもないだろう。グループの中に大食いがいる思われるぐらい。

 まぁ実際いるんだけどね。


 片手に袋いっぱいのパンを持ちながら歩くこと数分、粉物屋に到着。


「おはようございます。こんな時間ですけど、お好み焼き頼めますか?」

「もちろんさ! というか、もう用意はたくさんあるんだけどね」


 粉物屋の主人は少し寝不足なのか、目の下にクマがあり、疲れが見える。

 恐らく昨日の客の量を考えて、睡眠時間を減らして商品を作っていたのだろう。


 ――私のせいなのかな……。


 昨日、ゼロにはみんな迷惑だと思ってないと言われたが、正直この姿を見ると本当にそうなのか不安になる。

 もちろん、こんな大変になるとは思っていなかったし、街のみんなを寝不足にさせようなんて思ってなかった。けど、私が行ったことでこんな状況になったのには変わりない。


「だ、大丈夫ですか?」

「え? 何がだい?」

「その……体調とか。私のせいで街にこんなたくさんの人が来たので迷惑だったかなって……」


 私は粉物屋の主人から目を逸らし、弱々しくそう口にする。


「はぁ……」


 そんなため息が聞こえ、私の心臓は飛び跳ね、速くなっていく。

 やっぱり迷惑だと思っているのかな?

 ゼロの言葉は私を安心させるための、嘘だったのかな……。


「ごめ――」

「なーに言ってるんだい! こんなに人が来たのは君のおかげだろ? 誰も君のせいとか迷惑だとか思ってないさ。Gポイントを大儲け出来る最高の機会だぜ? しんどくても逆に働きたいね! だから、安心していい。君が行ったことは正解だ!」


 私の言葉を遮り、返ってきた言葉は想像とは真逆だった。

 思わずパッと顔を上げ、溢れそうな涙を我慢して口を開ける。


「あ、ありがとうございますっ!」


 満面の笑みで私がそう言うと、「こちらこそ!」と言ってお好み焼きを渡される。

 私は受け取り、Gポイントを払った。


「じゃあ、また来てくれよな!」

「はい! もちろんです!」


 元気良くそう言い、私は他の店の人たちにも軽く挨拶をし、アルコールライフに戻った。


        ⚀


 アルコールライフに戻り、サラを起こして支度をさせているとあっという間に時間は経ち、午前八時前になっていた。


「サラ! 早くしないと街が混むわよ?」

「わ~かってるぅ~」


 眠たいのか機嫌が少し悪い気がするが、行動してくれるだけマシだろう。


「ゼロ、じゃあこれ!」


 私はサラに見られないように、朝食のパンと別に買ったお好み焼きをゼロに渡す。


「ん? 朝食はさっき貰ったが?」

「昼食だよ! どうせ部屋から出れないんでしょ?」

「それ……言ったか?」

「いいえ、ただの勘だけど」


 少し驚いた表情を見せ、「ただの勘に感謝するよ」と言い、何だかホッとしていた。

 どうせ昨日、昼食を忘れていて次の日は商売までには買おうと思っていたが、完全に起きるのが遅くなって、困っていたというところだろう。


 私は地球にいる時、大人の考えを先読みして言われる前に行動していたから、観察力には自信がある。

 だから、そんなことは言われなくても大体分かる。


 それにゼロの行動範囲を狭めたのは私だからちょっと罪悪感があったのよ。

 そういうわけで、昼食を買うのはせめてもの罪滅ぼしみたいなもの。


「明日からも私が朝食と昼食の担当でいいわ」

「Gポイントは?」

「そんなものはゼロの商売で幾らでも入ってくるでしょ?」

「まぁそうか。じゃあ、頼むよ」


 そうそう、ゼロの稼ぎがあるのだから何の問題もない。

 それに私も街のみんなと更に親交を深められるし、むしろおいしいのよね。


「リア、行こう」

「分かったわ。じゃあ、ゼロ行ってくるから」

「ああ、いってらっしゃい」


 ゼロのそんな言葉を聞き、私とサラは部屋を出る。

 それから私たちは少し人が増え始めた街の中を歩くのであった。


        ⚀


 午前から午後に変わり、お腹も減り始めた頃、昨日の約束通り、私たちは狩った動物を持ってカルロスさんたちの家に行く。


「今日は何かな? 何かな!」

「それ言うの何回目よ!」


 サラは昨日のクリームシチューの美味しさにエリカさんの料理の虜になったのか、森に入って眠気が吹っ飛んだ後からはずっとこんな感じだ。

 昼食が楽しみで仕方ないのか、昨日以上に動きがいい。

 動きがいいということは私は昨日以上に置いて行かれたのだが、何とか追い付いた。


「リアもアレぐらい料理出来たら使い物になるのに」

「充分使い物になっているでしょ! それに私も料理ができないわけじゃないわ」

「じゃあ、エリカより美味しい?」

「そ、それはないけど。でも、人様が食べれるぐらいには出来るわ」


 私が「ふんっ」と鼻を鳴らしそう言うと、サラは「へ~」と信じていないのか、冷たい目でこちらを見て来る。

 確かにここに来てからは作ってない。でも、それは作る場がなかったから。

 いつか驚かしてやるんだから!


 そんな会話をしてるといつの間にか、カルロスさんの家が視界にあった。


「おー、今日も大猟だな~」


 陽気な声で出迎えてくれたのはダイチさん。

 今日も薪割りをしている。


「うん、昼食のためだから」

「サラはご飯が本当に好きなんだな」

「そう。ご飯さえされば言うこと聞く」


 この子、誘拐犯にお菓子で連れ去られるタイプの子だわ。

 気を付けないとヤバいかもしれないわね。

 あ、逆に返り討ちにしそうで、ヤバいかも。

 どちらにしても、ヤバいことには変わりはないんどけど。


「あの、他の二人は?」

「エリカは昼食を作ってるはず。カルロスは水を水タンクに補給中」

「そうですか」

「作業も終わったし、僕が案内するよ」

「ありがとうございます」


 家に向かうダイチさんの後ろについて行く私たち。

 サラは早く今日の昼食を知りたいのか、犬のように鼻をクンクンとしている。


「おーい、二人が来たぞ!」

「二人ともいらっしゃい」

「お邪魔します」

「うん、ご飯!」

「サラ、お邪魔しますでしょ」


 私はサラの常識の無さに額に手を当てながら、耳元でそう教える。

 サラは「次からそうする」と言い、まるで自分の家のように昨日のテーブルの前に行って椅子に腰を下ろした。


「はぁ……」


 思わずため息をつき呆れていると、エリカさんが「いいのよ! そんなによそよそしくされても困るし」と言ってくれた。

 それに感謝の言葉を述べ、私も椅子に腰を下ろす。


「お、もう来てたのかい!」


 カルロスさんが私たちが入ってきた扉とは違う扉から出て来てそう言う。


「はい、お邪魔してます」

「右に同じ」


 いや、そんな感じで「右に同じ」は使わないから。

 でも、カルロスさんは笑っているし、別にいいか。


「狩った動物は外に置いておきました」

「うん、ありがとう」

「カルロス、今日も大猟だぜ!」

「それは助かるな。俺たちこれを機に太りそうだな」


 そう言って、笑い合うカルロスさんとダイチさん。

 私は空気を読むように、笑顔を作る。

 サラは無だったけど。

 いや、今日の昼食を知るためにクンクンしていた。


 十分後、料理が完成し、エリカさんが持ってきた。


「今日はカレーとナン。それとポテトサラダだよ!」

「お~! ご飯がいっぱい!」


 サラは昨日よりグレードアップした料理に、瞳を眩しいぐらい輝かせている。

 しかし、本当に料理のレベルが高い。

 商売でレストランを始めれば、かなり繁盛しそうだ。


 そして私たちは昨日同様にみんなで「いただきます」と言い、昼食を開始する。


「お、美味しいぃ~! もう死んでもいい!」

「いや、死なないで!」


 私のツッコミに男性二人が面白そうに笑う。

 ツッコミはゼロの役なのに!

 って、意外とツッコミって恥ずかしいんだけど!


 でも、私はそんな表情を見せるわけにもいかないので、苦笑いをしながら軽く流し、「でも、本当に死んでもいいぐらい美味しいです」とエリカさんに伝える。

 すると、「ありがとうね、嬉しいわ」と言い、なぜか目から涙を流した。


「え、私……何か泣かすようなこと言いましたか?」

「ううん、ちょっとね。地球にいた時のことを思い出しただけ」


 と言って、涙をすぐに拭って笑顔を見せた。


「まぁ何となく分かるよ、エリカの気持ち」

「そうだな」


 ダイチさんとカルロスさんは頷きながらそう言う。

 一体、何が分かるのだろうか?

 私には理解できなかった。


「リアさん、気にしないでいいのよ。温かいうちに食べて」


 そう言われ、深く追及することでもないと思い、私は言われるがままに口にカレーを運んだ。


 ご飯を食べ終わり、サラは昨日同様ベッドでダラダラし始めた。

 かなりくつろいでいるが、三人は何も言わないので、私も何も言わないでおく。

 それより今日はダイチさんに話があるのだ。

 日が暮れる前に帰りたいので、そろそろ話を始める。


「ダイチさん、少し頼みごとがあるのですが……」

「え、頼みごと? グループ戦は無理だよ?」

「いやいや、違いますよ」


 軽く笑いながら、ダイチさんがそんな冗談を言う。

 それに私は同じように笑みを作り答えた。


「で、頼みごとって?」

「あのですね、街の近くの草原に灯台を作ってほしくて」

「灯台? それはまた難しい頼みだね」

「出来ませんか?」


 少し困った様子だったが、「いや、別にできないことはないけど」とダイチさん。

 じゃあ、カルロスさんが「こいつ今、カッコつけたぞ」と笑いながらいい、エリカさんも「思った思った」と手を叩いて笑う。

 ダイチさんは「もうっ! 別にいいだろ!」と頬を赤らめていたが、最終的には笑ってごまかしていた。


「でも、かなり時間かかるよ?」

「どれぐらいですか?」


 ダイチさんは「ん~?」と手を顎に当てて考える。それから数秒後、ゆっくりと口を開いた。


「三週間ぐらいかな?」

「それで充分です!」


 私はダイチさんの回答に思わず、笑みを浮かべた。

 最低でも一ヶ月は覚悟していたが、三週間で出来るなんて優秀すぎる。

 やはり私の見込んだ通り、否、それ以上だ。


「材料費は全て払うので、必要な物があれば何でも言ってくださいね」

「分かった。じゃあ、明日に必要な物をリストアップした紙を渡すよ!」

「はい!」


 よし、これでゼロの問題は解決だ。

 思った以上に話がスラスラと進んで良かった。

 でも、昨日の今日で厚かましかったかな?


 そんなことを考えていると、エリカさんが話しかけて来た。


「けど、リアさんは何で灯台なんか作ってほしいの?」

「え、あー、それは商売に必要だからですかね」

「商売もしているのね。大変でしょ?」

「いや、私とサラはしてないんですけど、もう一人のグループメンバーが……」


 そして私は三人にゼロについて軽く話した。

 スキルがないこと。100万ポイントのプレゼントした者だということ。

 最後に今している商売のこと。


 私の話を聞いて三人は驚きを隠せない様子。無理もないだろう。

 ゼロという存在はこのBNWで特別、否、特別扱いされる者なのだから。


「けど、リアさんは大変そうね。サラさん、ゼロさんという個性的な人がメンバーで」

「それはないですかね」

「え、そうなの?」

「はい。だって、三人と生活するのは楽しいですから」


 私は笑顔で力強くそう言い切った。

 だって、私は本当にBNWに来て良かったと思っているから。

 初めて年の近い人と関わって、生活して本当に毎日が楽しい。

 もちろん、悩むこともある。でも、私たちならどうにかなる、否、する。


 エリカさんが言った個性的な人。恐らくそれは間違っていない。

 私のグループは私を含めた三人とも個性的だ。

 でも、それが逆に良かったのだと思う。

 個性的=普通じゃなかったからこそ受け入れやすかった。

 それが私たちの唯一の共通点だったから。


「本当に面白いわね、リアさんたちは。あ、そろそろ夕暮れ時ね」

「ですね」

「じゃあ、また明日話しましょうか」

「はい、喜んで!」


 満面の笑みでそう答えると、エリカさんは急に真剣な表情でボソボソと独り言を言い始めた。


「……女だけで話すのもありだわね……」

「あ、気にしないでいいよ! エリカは時々こんな感じになるから無視してね」

「あのモードに入ると俺たちの声も聞こえなくなるからな」

「あ、はぁ、そうですか。では、そろそろ帰りますね」


 私はサラに帰ることを伝える。

 サラは「えー、もう?」と不満そうだったが、暗くなると本当にこのIレイヤーは真っ暗になるので太陽が沈むまでには帰りたいのだ。

 一応、マップがあるから迷わないが、足元が見えなくなり、危険だからね。


 何とかサラを立ち上がらせて、三人と別れの挨拶を交わし、家を後にする。


「リア、お腹空いた」

「はいはい、街に戻ったら食べようね」


 と呆れ気味に言い、私たちは肩を並べ、街に向かうのであった。

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