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最後のアーティファクト  作者: 三六九
第二章 這い寄る影
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十八話 お腹とこれからと

「シエラちゃん。お腹を見せてください」


「ああ……、うん?」


 『渡り鳥の巣』の広場から見える一番大きな建物、マクロレン商会の客室。

 約束通り夕飯をいただき(大きな商会だけあってそれはそれは豪華な)、さらに一晩泊めてくれるということで、お言葉に甘えることにした。

 何部屋もある中の一室、エクスフレア邸に引けを取らない立派な部屋の中。


 そういえばあれからちゃんと見てなかったな。

 感覚的にはリボンベルトのちょっと下……お腹の下辺りに取り込んだ感覚があった。

 また禍々しい紋様が刻まれているんだろう。


「……はい。多分お腹の下だと思うんだけど」


 スカートを捲り上げた。

 パンツを穿いてるから恥ずかしくない。


 ソラは鼻をすんすん鳴らしながら、俺のお腹へ顔を寄せていく。

 いやごめんやっぱりちょっと恥ずかしい……。


「ど、どうですか」


「綺麗に埋まってますね」


「埋まっ……え?」


 『竜の心臓』が? お腹に?

 取り込んだという感覚はあったけれど、まさかそのまま埋まっているとは。

 というかスカートをたくし上げて下半身を晒しているこの格好は、こちらから下が見えないのもあって、相手に生殺与奪を握られているような……不安な気持ちになる。


 内腿が震える。

 恥ずかしさと、恐らくは緊張で。


「えぇと……大丈夫なの、それ」


「大丈夫そうです。そもそも人間は、お腹の下に魔力を溜め込みますよ」


「うん……うん?」


 説明になってない気がするけどまぁいいや。

 違和感もないし、むしろ以前より魔力を鋭敏に感じられるようになっている。

 操る効率もきっと、桁違いだろう。


「いつまでこうしてればいいの」


 脚からお腹にかけて、肌寒くて不安感がすごいんですけど。


「んふー……もうちょっと」


 そうですか。

 諦めて下腹部に埋め込まれた『竜の心臓』に意識を向ける。

 そこには自身の魔力とは切り離して、『地均す甲竜』の魔力を保持してある。

 ……あの小さな竜は、今何を思っているのだろう。



 ソラを椅子に座らせて、その後ろに立つ。

 トルデリンテ・マクロレンには色々と貰ってしまった。

 この少し目の粗い櫛もその中の一つ。

 青みがかった濃い灰色の髪を手ですくい、櫛を通す。


 話しておくべきだろうか。

 俺のこと、そしてこれからしようとしていること。

 黒き魔女……ヒイラギの、目的。


「シエラちゃん」


「……なに」


 俺の葛藤を見透かしているのか、ソラはゆっくりと口を開いた。


「私は今、とても楽しいです」


 少し背中を丸めたソラは、照れたように笑う。

 それは嘘偽りない、とても自然で素直な言葉だった。


 その柔らかな髪を撫でる。

 相変わらず獣臭いこの少女の姿をした魔獣には、何度も助けられている。

 『空駆ける爪』の最後の生き残り。

 あの時の言葉が引っかかる……実験体とは、どういう意味だろう。


 そしてあのどす黒い魔力……。

 避けては通れない、そんな予感がある。



 いつの間にか眠ってしまったソラを抱え、ベッドに寝かせた。

 トルデリンテに借りた地図をテーブルの上に広げ、現在地と目的地を確認。


 曰く、都市国家内及び周辺の詳細な地図はその国の重要機密であり、商人たちが使う地図は主要な道と大雑把な特徴が描かれた、非常に抽象的なものであるということだった。

 地図の所有権を巡って争いが起きるほどだという……つまりエクスフレア邸の詳細な場所を知るには、魔術都市ソムリアまで行く必要がありそうだ。

 改めて地図を見る。

 幾つかの都市国家とそれらを繋ぐ道、大きな山脈や川、手書きだろうそれは多分に情緒に溢れている。

 今はそこまでの正確さは求めてない、見た限りでは魔術都市はかなり遠そうだ。


 東に向けてぽっかりと口を開けた湾、その喉奥に港湾都市リフォレがある。

 そこから放射状に大きな街道が何本も伸びていき、遠く北に魔術都市ソムリア。

 リフォレから西に川を越え山脈を迂回すると城塞都市レグルス。

 南に川を二本越え、丘に森にぐねぐね下るとここ『渡り鳥の巣』、さらにずっと下るとあの湖と森……本当に僻地だな。

 湾沿いにも幾つかの街が描かれているが、名前は読めない。

 教えてもらった主要都市の位置はこんなところか。


 現状の目的は変わらない。

 港湾都市リフォレへ行き、先行したウルフレッドと落ち合う……アーティファクトの情報収集。

 そこで三姉妹の居場所が分かれば良し、分からなければさらに北上。

 手に入れられそうなアーティファクトがあれば片っ端から手に入れる。

 掛かる火の粉は振り払う。

 その火の粉に三姉妹が加わらないように、最優先で会いに行こう……火の粉どころか、爆炎だもんな……。


 ベッドの上、横向きに丸まったソラの隣に座り、髪を撫でる。

 人間のように旅をしてみたいと語ったこの魔獣の少女は、楽しいと言ってくれた。


「神さまを殺す……か」


 それが仮に、この獣の少女が生きる、この世界を壊すことと同義だとしたら、俺は……。




 そして明くる朝。

 昨日の雨は夜の間に上がったらしい、地面は既に乾きつつある。


 港湾都市リフォレへ向かう商人の一団、その荷馬車に乗せてもらえることになった。

 被害は少なくはなかったものの、滅多に流通しないという『地均す甲竜』の頑強な各種素材を手に入れた各商会は、ほくほく顔で連名の紹介状を書いてくれた。


 これがあればあの街で困ることはまずないぞ、とのこと。

 ありがたく受け取り、荷台に乗り込む。


 全部で七台の荷馬車からなる商団、護衛の人々も賃金が弾まれて意気揚々だ。

 流石にこの集団に喧嘩を売る輩なんていないだろう。



 道中は平和そのもの。

 天気も良く、風も穏やか。


 魔獣も賊も現れず、揺れと騒音は相変わらずだったけど、意外と慣れるものだ。

 馬に乗せてもらったり(ソラは乗れなかった、馬が全力で嫌がった)、御者の真似事をさせてもらったりと、牧歌的な空気の中を順調に進んでいく。

 いつの間にか海も見えなくなっていて、平坦な道が続いていた。


 それは、待ち侘びていた一本目の大きな川が見えてきたときだった。

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