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最後のアーティファクト  作者: 三六九
第四章 旧き竜の末裔
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二十八話 別れは告げず

 売らないからー! と叫び手を振るソニカに小さく手を振り返し、見送る。

 どうやらなかなかに忙しいらしい。


 それにしても『災厄』か……数年前に起きたという魔族の侵攻。

 随分と物騒な……出所はどこだろう。

 城塞都市か魔術都市、どちらかだとは思うんだけど。



 行き交う人々の好奇の目に晒されるのにも飽きてきたし、中もそろそろ落ち着いているだろう。

 再び、ディアーノの店へソラとリチェルを連れて入った。


 カウンターの奥で向かい合って座る二人を和やかな空気が包み込んでいた。

 見ればディアーノは、膝の上でケープを縫い直しながらニアリィの話を聞いていた。

 恐らく久しぶりに会うのだろう孫娘、その年相応の横顔は柔らかい。


「ああ、気を使わせてしまったようだな。そうだな、今日はもう店を閉めよう」


 こちらに気がついたディアーノは、ニアリィの頭の上にぽんと手を置き、こちらにゆっくりと歩み寄ってきた。


「よく来てくれた」


「……はい」


 リチェルの姿を見ても、ほう、と呟いただけで特にお咎めなし。

 どんだけ肝据わってるんだろうこのおじいちゃん。

 入り口の施錠をするディアーノを横目に見つつ、くんくんと鼻を鳴らしながら奥の方へ勝手に入っていくソラに慌てる。


「ちょ、ソラ」


「ハッハ。好きに見ていい」


 杖をつきながら戻るその背はしかし曲がっておらず、まだまだ元気そう。

 きょろきょろと店内を見回すリチェルの手を引いてカウンターの方へ。


「しかし食材がないな。ニアリィ、買出しを頼む」


「うん」


 お小遣いを渡されるニアリィのあどけない子供のような笑顔に、思わず目を奪われてしまう。

 『血の平野』でレイグリッドに抱かれていたあの時の満面の笑顔を思い出す。

 ……うん。


「シエラたちは待ってて。目立つから」


 あは、と冗談めかして出て行ったその背に手を振りつつ、振り返る。

 ディアーノはカウンター奥の椅子に座りなおし……頭を下げた。


「嬢ちゃんには本当に感謝している」


「……いえ。成り行きでした」


 そう、俺自身は何もしていない。

 むしろ巻き込んだ形だ……感謝なんて。

 それに、レイグリッドだって。


「だとして、だ」


 その目に厳しさはなく、しかしやはり僅かに疲れが見えた。

 城塞都市での話はもう届いているのだろうか。

 俺から伝えられることは、何かあるのだろうか。




 戻ってきたニアリィと共に早めの昼食を取った。

 傷口に触れないような優しい会話は臆病に見えたけど、必要なことなのだと思った。

 大丈夫。

 ニアリィはこれから、おじいちゃんとゆっくりとした時間を過ごせるのだから。


 疲れていたのだろう、部屋の片付けをしていたニアリィは、ベッドに突っ伏すように眠ってしまった。

 その緩んだ頬を撫で、ポケットからまだ瑞々しく咲いている小さな黄色い花を取り出し、添えた。


「……元気でね」




 一階、土産の皮を採寸しているディアーノに声をかけた。


「あの、ディアーノさん」


 ただの我がままかもしれない。

 けれど決めたのだ。


「私が言うのは変ですけど……ニアリィを、よろしくお願いします」


 俺の言葉にディアーノは優しく、力強く頷いた。

 察してくれていたのだろう、かけられた言葉は簡潔だった。


「土産話を楽しみにしている」


「はい」


 ソラとリチェルを呼ぶと、なんか二人とも口の端に付いてる……何食べてたんだろう。

 手を繋ぎ、背中にくっついたのを確認して、左手を一度軽く振った。


 左手で左目を押さえる。

 俯瞰する。

 『血の平野』の東、川を越えた先の……どこか。

 結界のせいだろうか、彼女たちの魔力は掴めない。


「……お元気で」


 そう呟き、『転移の魔術』を発動した。




「っう、おおぉ……っ!?」


「きゃー」


 情けない叫び声は俺のもの。

 楽しそうな声はリチェルのもの。

 一人無言のソラは、俺の身体を引き寄せて抱きかかえた。


 ごっそりと魔力が抜け落ちた感覚の後、俺とソラとリチェルは空中に現出していた。

 空中っていうか……上空?

 かなりの高さだった。


 確かに距離が離れたところに転移したときは毎回ズレてたけどさぁ……!


「この高さは……」


 ソラの呟きにぐるりと首を廻らせる。

 いくらソラでもこれは無理か、そう思わせるほどの高さ。

 スカイダイビングなんて初めて。


「もっかい使うよ」


「大丈夫ですか?」


「多分」


 恐らく気を失うことはない筈、もう少ししたら地面に向かって転移しよう、と思っていたら。


「きゃー」


 しゅん、とリチェルが小さな六枚の羽を広げ、もの凄い速度で滑空(墜落?)していった。


「えっ、ちょお……っ!?」


「死にますねあれは」


 自然落下で地面までたっぷり十秒以上はかかるだろう、その高さを……追いつこうとか助けようとかそんな気持ちが湧く前に、竜の少女は真っ直ぐに落ちていき、地面に衝突した。

 薄く、衝撃波が大地を舐めていったのが見えた。


 絶句しつつ、小さなクレーターの横を見る。

 人差し指の付け根を噛み、転移の魔術を発動させた。



 翼をぱたぱたさせて砂埃を払っているリチェルは……平気そうですね。

 降り立った俺とソラに気がつくと小走りでやってきて、もっかいやろ! と笑顔を浮かべた。

 ……流石は『竜』というべきか。


「ああもう、砂だらけじゃん」


 きゅるる、と目を瞑るリチェルの髪やら服やらをはたいていると、少しだけ目が眩んだ。

 やっぱり左目と転移の組み合わせはきつかったか。


「大丈夫ですかシエラちゃん」


「……うん、少し経てば平気」


 深呼吸して、気を取り直す。

 さて。


「どの辺りなんだろうな、ここ」


 改めて見回すと目の前……さっき川が向こうに見えたからえぇと、南側には広大な湿地が広がっていた。

 緑豊かで人間が立ち入るのは難しそうだ……どこかで見た覚えのある大きな鳥が上空を旋回している。

 見える限りでは人の手が入っている様子はない、野生の動植物の楽園のよう。


 西の方は木々が深くなっていてよく見えない。

 湿地からの続きだろうか、鬱蒼としている。

 対して東側は小さな岩山だろうか、折り重なるように立ち並ぶそれにも、人の気配は微塵も感じない。


 ちらりとソラを横目で見る。

 俺の視線を受けて鼻を鳴らし耳をぴこぴこ動かしているけど、特に反応なし。

 人間も魔獣も近くにはいないらしい。安全なのは良いことだ。


「とりあえず、街道探そ」


 目的の場所よりかなり南側に現出してしまったみたいだけど北上すればぶつかるだろう、見覚えのある場所に出られるといいんだけど。

 しかし見上げる、トーテムポールみたいなそれ。

 生木に直接彫っているらしい、これだけが人の温度を感じる、けれど少し不気味な屹立する十数メートルの立派な木。

 そしてその先に続く森は深く、暗い。


 ……まぁしばらくして魔力が回復したら、適当に転移すればいっか。

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