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第二話:英雄のお仕事

 ギルドに着いたアーロンは奥の会議室へと通され、そこにはギルドマスターを始め各冒険者が集まっていた。


 ギルドマスター達は彼が入って来ると、待っていた様に安心した表情で出迎えてくれた。


「おぉ! アーロン待っていたぞ!」


 整った服とチョビ髭が特徴なギルドマスター――通称マスターがアーロンに駆け寄って来ると、彼も事態をすぐに聞いてみた。


「それでどうなってる?」


「……まずはこれを見てくれ」


 そう言ってマスターは()()()()()をテーブルに並べた。

 アーロンも言われたまま水晶を見てみると、水晶の光は完全に消えていた。

 

――既に光が消えている。しかも4つか、つまり……。


()()()……どこのダンジョンだ?」


「それが……『神獣の巣』なんだ」


 アーロンはそれを聞いて内心でだけ驚いた。


 そこはギルドが推定している難易度の中で、上級である【A級ダンジョン】に指定されている場所だからだ。


 そして、その情報は初耳だったのだろう。

 それを聞いた冒険者達も驚き、騒ぎ始めた。


「『神獣の巣』だと!? ベテラン冒険者でも、そう簡単に入らないダンジョンだぞ!」


「あそこの魔物は特殊な個体が多い……並みの冒険者では歯が立たないぞ!」


 周りの冒険者の言う通りだ。

 

 そこの魔物達は特殊な個体が多く、強靭な強さを持っており、並みの冒険者ではゴミ同然に殺されてしまうと、アーロンも頷いた。


 そしてマスターの方をすぐに向き、再度問いかけた。


「その4人のランクは?」


「……銀一人と、銅が三人だ」


 マスターは下を向いて、申し訳なさそうにそう言った。


 銀は中級、銅は下級を意味している。

 だがA級ダンジョンならば上級の金、そして最上級の白金クラスが一人は必要だった。


――にも関わらず、普通ならばまず行かないメンバーばかり。

 どうりでマスターが申し訳なさそうにしている筈だと、アーロンも彼の様子に納得した。


 ギルドで起こった問題の責任はマスターに発生する。

 だからこそ、彼もマスターに聞かねばならなかった。


「何故だ? どうして彼等がA級ダンジョンに?」


「恐らくだが……」


 そう言ってマスターや周囲の冒険者達の視線は、鎧を着た一人の青年冒険者へ向けられた。


 アーロンもその冒険者を見ると、そいつは見覚えのある冒険者で、ギルド内でも悪い意味で有名な男だった。


「またお前か……ショウ?」


 この青年冒険者――ショウは金目の物があるが危険なダンジョンへ、適当な冒険者を行かせて確認させる行為を続けている奴だ。


 そんなことをする主な理由もギャンブルや風俗、そして借金だから救いようがない。


 そのせいで何度も降格させられた筈だが、一切懲りた様子はないらしい。

 

「へっ? い、いや俺は知らねぇよ~?」


 そう言って口笛を吹いて誤魔化すショウを見て、周囲はイラついた様にピリピリし出すが、今は馬鹿に構っている場合ではない。


 アーロンは


「すぐに準備をして行ってくる」


「あ、あぁ! 頼む!」


 マスターはギルドの仲間を家族の様に思っている。


 だから今も藁にも縋る様な顔で彼を見ており、アーロンも期待に応えようと異次元庫から鎧や鍛冶屋で受け取ったナイフ等を取り出し、急いで装備する。


――特に忘れてはならないのが、()()()だ。


 異次元庫からアーロンは、相棒とも呼べる得物を取り出した。

 

 それは一言で現すなら正面に十字架と女神が刻まれた『棺』だが、これは棺にしては厚みが薄い。


 これは棺のデザインをした盾――仕込み盾だ。


 十字架と女神を刻みし仕込み盾――『クロスライフ』 


 これが“師匠”から譲り受けた彼の相棒であり、仕事としての証だった。


 身の丈程ある盾にしては厚いクロスライフを背負い、彼は会議室を出た。

 するとギルド内の冒険者達がアーロンの姿を見て驚き、声をあげた。


「おぉ……! ス、スゲェ!」


「あれ全部オリハルコン製かよ……!」


「そして背中の棺が……あの人の通り名の――」


 周囲から視線を感じる。


 確かに全身が今までの戦利品で見つけたオリハルコンのお陰で、仕事が大分楽になった。


 背中のクロスライフの知名度も上がり、今では()()()()()()()も付けられている。


――だが俺は別に歴戦の冒険者でも、ましてや勇者でもない。


「それじゃ……行ってくる」


 皆にそう言ってアーロンは、俺自身が持つ()()()()()()()()()を唱えた。


「発動――()()()()。 転移先は『神獣の巣』へ」


 それを唱えるとアーロンの目の前の時空が裂け、白い靄の入口が現れた。


 これが彼が産まれ持った固有スキルであり、一度行った場所に移動できる、かなり重宝している自慢の魔法だ。


「教会で待っていてくれ」


 アーロンはそう言い残し、裂け目へと入って行くと次元の裂け目もギルドから消えた。


 そして彼が次に立っていた場所は街のギルドではなく、虹色に輝く洞窟に入口――


「神獣の巣か」


 久し振りに来たダンジョンを見上げながらも、アーロンは足を止めずに洞窟の中へと入って行った。


♦♦♦♦


 虹色の洞窟に一歩入ると、そこも虹色の鉱石に満ちた洞窟だった。

 

 現実とも思えない光景と強靭な魔物。その要素が合わさって『神獣の巣』と呼ばれている。


 だがまともな神経があれば、無計画で入るものはいないだろう。

 

 洞窟内に存在する不自然な静寂さ。僅かに臭う、魔物臭さと血の匂い。

 そのどれもが、このダンジョンへ入るなと警告している。


 しかし、それでも入る者はいる。


「ここの鉱石は高く売れる……やはり奥に進んだか」


 洞窟にあちこちにある鉱石だが、所々に無理矢理に削った様な跡が目立っていた。 

 

 どうやら訪れた四人が削ろうとした様だが、硬すぎて諦めた様だ。


 この鉱石は入口に近い程に削りずらく、奥に進む程に削りやすくなる特殊な鉱石だ。


 だからこそ、アーロンは彼等が奥へ進んだのだろうと察した。


「それが怖い。この洞窟の魔物は()()()()()()()()()からな」


 行きは良いが、帰りは恐い。

 足跡等の痕跡を見る限り、それに気付くこともなく、そのまま奥に行ってしまった様だ。


「……急ぐか」


 アーロンは、出来るだけ急いで洞窟の奥へと進んで行った。


 洞窟内の構造は何度か来て知っている。何よりこの洞窟は一本道だから迷うことはない。

 

 道中、視界に映るキラキラと輝く価値の高い鉱石。


 それが奥に進むに連れて恐ろしくも見えた。洞窟そのものが罠で、餌を招いている様に。


「どこまで行ったんだ……」


 洞窟内を静寂が支配する。

 聞こえるのは彼自身の吐息と心拍音だけだ。


 洞窟内の中盤まで差し掛かっても4人の姿はない事で、アーロンは心拍数が速くなるのが感じた。


 同時に違和感もあった。

 この辺りからは魔物も出て来る筈だが、出てこないことと関係があるかもしれない。

 

「まさか最奥まで行ったのか……?」


 嫌な予感を抱きながら進んで行くと、彼の目の前に大きな崖の様な壁が立ちはだかった。

  

 壁には古くなった梯子が設置されていて、周囲にも真新しい削られた鉱石もある。


「ここを登ったか……!」


 まずい、いよいよ可能性が低くなる。


 各ダンジョンには特殊な魔力の波があり、アーロンの転移魔法も魔力の波に妨害されて直接、最奥に行くことはできず、こればかりは走るしかない。


 彼は急いで奥に向かおうと梯子を上り始めた。

 しかし装備の重量もあって、古い梯子がギシギシと不安な音を立てる。


 今だけは耐えてくれと、内心で祈りながら上って行く。

 途中、あまりのボロさで急ぎそうになるが、下手な衝撃を与えればすぐにでも折れそうだ。


 だからこそ逆に冷静に、ゆっくりと上がり、ようやく頂上に着いた時だ。


「ぐおぉっ!?」


 梯子が折れてしまい、落ちそうなったアーロンは間一髪で崖の上を掴んだ。

 そして一気に力を入れてよじ登ると、梯子があった場所を見下ろして見た。


 梯子はボロボロに砕け、木片となって地面へと落ちていた。


「やってしまったが、買い替え時でもあった……新しい梯子を買って正解だったな」


 下に散らばる残骸を見て俺は自身を納得させると、またすぐに奥へと急いだ。


「ここは松明も要らない。だから、どんどん奥へと行ったのか……」


 明るいのは上級者にならば助かるが、不相応の者には罠でしかない。


 結構、奥にまで来たが、ここまで来ても見つからないなら最奥に行ったとアーロンは確信する。

 

「だからダンジョンの出入りを、もっと厳しくしろと言ったんだ……」


 走りながら愚痴ってしまう。


 今回の件だってそうだが、誰かが気付けば防げた筈だろうと思えてならない。

 

 彼はそんな事を思いながら進んで行くと、不意にツンとした異臭に気付いた。


「血の匂い……それに魔物の声も聞こえるな」


 アーロンはクロスライフを下ろし、それを左手で持って構えながら静かに進んで行くと、巨大な広場に出たと同時に見つけた。


 広場の中央に倒れている若い男女の冒険者を。

 そして周囲を取り囲んでいる魔物達を。 


「さて行くか……」


 こっからが彼の仕事の始まりとも言え、アーロンは気合を入れて魔物達に突っ込んだ。


「こっちだ!」


『!』


 周りの鉱石の様にキラキラと輝く魔物――狼の様な姿、獅子の様な鬣を持つ獣型の魔物の群れが、一斉にアーロンの方を向いた。


 そして一匹が吼えると、一斉に掛かって来るのをクロスライフで迎え撃ち、最初の1匹を正面から殴り飛ばした。


『ギャオォ!?』


 顔が潰れながら吹っ飛ぶ1匹は後方の魔物に激突し、そのまま泡を吹いて動きを止める。


 だがその行動により、完全に周囲の連中を怒らせたらしく、他はまだまだ向かって来た。

 

「そうだ、こっちに来い……!」


 少しでも4人に損傷を与えない様に戦う必要がある。


 だからクロスライフで次々に叩き潰し、魔物の攻撃は盾として受け、接近を許せばオリハルコンの剣やナイフで斬り伏せる内、魔物達の数は確実に減ってきていた。


「しかし流石に硬いか……」


 ここの魔物は洞窟の鉱石を餌にする偏食だから身体も固い。

 だがそれでもクロスライフーーそしてアーロンの空間魔法ならば倒せる。


「一気に決める……」


 アーロンは腕に持ったクロスライフを回転させ、その先端を魔物達に向けた。


 クロスライフの先端には穴が空いており、彼が持ち手のトリガーを引いた瞬間、杭の様な太い金属製の矢が次々と発射する。


「……空間で穴を開ければ、硬さは関係ない」


 クロスライフの仕込み武器――射撃装備。


 この中には大量の矢が内蔵されており、遠距離戦も可能だ。

 

 同時に空間魔法を発射と同時に唱えれば、当たった魔物の身体に空間を作り、まるで蜂の巣に穴を空けて貫通する。


――これで終わりだ。

 

 アーロンは最後の1匹も撃ち抜くと、クロスライフの端の開いて異次元庫の開いた。

 そこから金属製の矢を取り出して装填し直し、ようやくクロスライフを降ろす。


――さて次だ。


 彼は仕事に取り掛かろうと、倒れた4人の下へと向かった。


 周囲は血の匂いが充満していた。魔物と、そして彼等の血だ。


 兜の中で汗が流れるのが分かる。 


「この4人で間違いないなさそうだ」


 戦士と武道家の男女と、魔術師とハンターの男女4人。


 4人の首にあるタグ、それがギルドの一員でもある事を示していた。


 けれど4人は目を覚ます素振りがない。

 爪で切れたり、鉱石に叩き付けられたのか、血の海に沈んでいる者ばかりだ。

 

 一応、4人の脈を計ってみるがやはり4人共死んでいた。


「……だが()()()()()だな」


 ハッキリ言えば、死んでいた事はギルドにいた時から分かっていた事だ。


 タグに『命の水晶』が埋め込まれていて、破片の持ち主が死ぬと輝きを消える仕組みになっている。

 

 なのにアーロンが急いでいた理由は遺体の損傷を防ぐ為だった。 


「……始めるか」


 彼は呼吸を整え、仕事に取り掛かった。


 最初に異次元庫からポーションを取り出し、それをちょっとずつ傷部分に掛けて再生させる。


 その後に管を使って肺に入らない様に体内に入れ、次は教会から貰った聖水を4人に振りかけた。


「これで肉体が腐敗する事はない」


 教会の聖水には女神の加護が宿っている。


 だから降り注げば遺体の腐敗を防いだり、ちょっとした魔物除けにもなる。


 しかし彼の仕事はこれで終わりじゃない。


「……次は棺だ」


 異次元庫から教会で購入した棺を4つ取り出し、蓋を開けた。


 そして、一人ずつ抱えながら4人をそれぞれの棺へ収めていく。


 その時に鎧越しでも分かる、魂を失った亡骸故の冷たさを感じた。


「次は処置だ」


 棺に納めた後は、血液を失っている者には傷を縫い、ブラッドポーションを血管に刺して輸血する。


 そして適量で整え、最後に棺の蓋を閉めた。


「これで良い……」


 4つ並んだ棺を見て肩の力を抜きそうになるが、次にこれを運ばねばならない。

 だから気を抜くのはまだ先だ。


 棺の下には車輪が付いているので運ぶのには楽だ。

 アーロンは棺を鎖で繋いでいき、先頭のを少し長めにし、それを手に持って棺を運ぶ準備を終わらせた。

 

 後は神聖なる場所、女神へ声が届く場所――<教会>に行けば完了だ。


 だが転移魔法は、ダンジョン特有のマナのせいでダンジョンの外に行かねば使えない。

 だから彼は鎖を持ち、棺を入口まで運ぼうとした時だった。


『ギャオォォォォンッ!!』


 大気を揺るがす程の咆哮が響き渡った。


――来たか。


 どのダンジョンにも言える事だが、ダンジョン内の魔力の影響を受けて変異する個体が必ずいる。

 このダンジョンも例外ではない。 

 

 振り向かずとも分かる威圧感。だが振り返えなければ自身が死ぬ。


「……大型変異種」


 振り返ったアーロンの視界に映るのは、巨大な獅子の様な魔物――レジェンドファング。


 そいつは、さっき倒した魔物の輝きと大きさを数倍にした姿で、怒りの形相で彼を見下ろして吼えていた。


――言葉通り、この広場が奴の巣だったか。


「……仕事の邪魔をするな」


 この4人にも待っている者達がいる。


 だから送り届けなければならない。それを邪魔するならA級ダンジョンの大型でも容赦はしない。


――邪魔者の排除。それも()()()()だ。


 アーロンは仕事を遂行する為に構え、レジェンドファングと対峙する。


――だが俺は魔物狩りではない。


 ただ仕事の都合上、出会ったら避けては通れないだけだ。

 それは相手も理解しているのだろう。低く唸りながら腰を低くし、身構えている。


『ギャオォォォォン!』


 向こうが飛び掛かってきた瞬間、アーロンは異次元庫から一つの瓶を取り出した。


 中身は()()()()()を放つ濁った液体だが、彼はそれをレジェンドファングに瓶ごと投げた。

 

『ギャオォォン!?』


 それが奴の顔に命中すると、割れた瓶から漏れた液体を被り、苦しむ様に暴れ始める。


 当然だ。それを浴びた奴の顔は溶ける様に気化し、煙を出しながら今も尚、溶かしているのだから。


――ここの鉱石には、もう一つ特徴がある。


 それは()()()()を掛けると、特殊な反応をして溶けるということ。

 

 そして、その液体こそアーロンが今投げた瓶の中身だ。


「……()()()()()尿()、補充しなければ」


 これが一番良く効く。

 鉱石を餌にしている奴も例外ではなく、長年試したりした結果だ。


 知識があれば効率よく安全に仕事が出来るから学び、試しているだけだ。


『グルルルル……!』


 しかし懲りないものだ。


 顔が火傷した様に歪んでいるが、それでもアーロンへの敵意を緩めていない様だ。

 顔を彼へ向け、未だに唸り声をあげて隙を伺っている。


「……逃げずに仕事の邪魔をするお前が悪い」


 アーロンの仕事は別に、絶対に魔物を倒さなければならない訳じゃない。

  

 このレジェンドファングが、そのまま逃げても追う事はしないが、襲ってくるなら話は別だ。


「来い……!」


 クロスライフの持ち手を左腕で掴んだ彼は、奴を迎え撃つように腰を低くして構えた。


 それを見て向こうも正面から挑むらしく、そのままアーロン目掛けて突進してきた。


 しかし彼は、そのタイミングを見計らい、クロスライフを正面からレジェンドファングの鼻に叩き込んだ。


『ギャッ!?』


 叩き込んだ瞬間、奴の脆くなった顔が砕けて大きく怯む。


 その隙を狙い、アーロンは発射口に時空魔法を込めて奴の顔へ次々に撃ち込んだ。


『――!』


 空間魔法により皮膚で防ぐ事も、巨体で威力を落とす事も出来ずに穴が増えていくレジェンドファングだが、生命力の高さは本物だ。 


 穴から出血しながらもアーロンを殺そうと突っ込んで来ると、彼は飛び上がってクロスライフの渾身の一撃を奴の顔に叩き込んだ。


『!』

 

 その瞬間、周囲の張りつめた空気が消えた。

 同時にレジェンドファングも絶命し、その巨大な身体が瓦礫の様に崩れ落ちる。


 またレジェンドファングの死により、周囲の魔力が安定した事を肌で感じ取った。


「……行くか」


 クロスライフを背負ったアーロンは棺に結んだ鎖を掴むと、今度こそ棺を引っ張りながら入口へと目指した。


 道中で木工ギルドで買った梯子を設置し直し、棺を一つ一つ鎖を使って慎重に降ろしていく。

 

 腕が痺れる、兜や鎧の中で汗も流れる。


 だが決して放すことはしない。必ず、無事に彼等の魂を連れて帰る。

 それがアーロンの仕事だからだ。


 そして全員を降ろし終え、再び彼は入口へ棺を引っ張っていく。


 道中、魔物がアーロンや遺体を狙って襲い掛かって来たが、それも彼等を守りながら対処した。


 餌にさせるものか。必ず連れて帰える。

 それが俺の仕事で使命だ。


「……女神ライフよ、この弱き(しもべ)をお守りください」


 アーロンは、そう祈りながら魔物達をクロスライフで薙ぎ払い、最後は全滅させた。


 決して、棺は血で汚していない。彼自身が血で塗れようとも、棺は決して汚させない。


 アーロンは返り血で鎧や兜が魔物の血で塗れたが、それでも拭くこともせずに棺を引っ張り始めた。


 そして、ようやく入口へ辿り着くと、アーロンはすぐに転移魔法を発動させた。


 目指す場所は一つ。――女神ライフへ声が届く場所。教会だ。


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