デアモント公爵の思惑
後書きや感想返しでネタバレしてはだめで、本編に書き込むべきだと言われております。
今回、感想でいただいた疑問の答になったでしょうか。
今朝の積雪は十センチ。断続的に降り続いているので、どこまで増えるかな。
「それでは。ランドール伯爵家の長男マーク卿の成人を以って、改めて協議の場を設ける。その際は、ランドール伯爵家、デアモント公爵家、ならびに王家の三者での協議とする。以上を決定事項といたします。皆様、異議はございませんか」
貴族院のお偉いさんが最終確認を行って、ようやくバルトコル伯爵家の相続協議が終了した。公の場はここまでだ。
まさかマークに一騒動起きるとは思わなかったけど、とりあえず問題の先送りはできた。妥協点を探ってくれたエザール兄貴には感謝だ。一番掻き回してくれたのも兄貴だけどな。
警戒感バリバリのキャサリン義姉さんが、緊張した面持ちのマークを連れて退室して行く。宛がわれた客室で休憩していてもらおう。
一息ついたところに、デアモント公爵が話しかけて来た。
「オスカー卿、改めてご挨拶申し上げたい。卿とは立場の違いは有れど、敵意がある訳ではないのだ。出来れば親睦を深めたいと思っておる。一席設けよう。ああ、そう警戒めされるな。デイネルス侯爵もご一緒にどうかな」
公爵閣下のお誘いを、新米伯爵が断れるはずないじゃないですか。
エザール兄貴をちらりと見たら、思いっきり胡散臭い笑顔で頷いてきた。俺は貴族相手のやり取り苦手なんだけどな。そうも言ってられないか。
さすがはバルトコル伯爵邸。伯爵家筆頭の家格は伊達じゃ無い。公爵に供された客室は、それはそれは広々としていた。もちろん、下品にならない程度に豪華絢爛だ。
爵位返上に合わせて、この豪邸も王家に献上されるんだけどな。
王家の別邸になっても当分使い道は無いだろうし、無駄に維持費ばかり掛かる。かと言って、そのまま代官の官邸として使うには豪華すぎるんだ。
わざわざ代官屋敷を別に建てるなんて勿体ないと思うけど。これって貧乏性なんだろうか。
酒肴を供され、貴族らしい雑談を交わして、公爵は人払いをした。
王都からの強行軍の関係上、公爵としては考えられないほど少人数の使用人しか伴っていらっしゃらないが、その全員に席を外させている。
部屋の中央にポツンと三人きり。聞き耳を立てている者がいても、聞こえる距離じゃない。
「当時は、家格違いに目くじらを立てる必要があったのよ。血を薄めたいのは山々だが、近衛騎士を輩出できなくなっては本末転倒。あくまで例外として条件を厳しくせねばならなかった。さもなくば、あっという間に王家まで伯爵家の血が広まっておったろう」
舞台裏を宣言した公爵閣下は、ワインを傾けながら上機嫌で語りだした。兄貴は黙って聞き役に回っている。
「船長閣下のご威光を以って、血統にこだわる必要は無くなった。どれだけ血が薄かろうが、名目さえあれば家督を譲れるのよ。極論、縁もゆかりもない平民を養子にしたってかまわぬのさ。天津箱舟の役職を任せられる実力が有ればな」
出た、天津箱舟至上主義。
「かと言って、公爵家を潰す訳にはいかん。今は産業革命の真っ最中だからな。資本の集積と技術力を持った高位貴族が先頭を走っているから、効率的に惑星開発プログラムを実現できるのよ。主導権を民間に渡すには、まだまだ時期尚早。なに、百年もすれば、騎士爵を賜って独立した子弟の子孫が平民に広がる。相続にかこつけて資産分配すれば、本家は貧乏になる。力のない名ばかり貴族の出来上がりよ」
呵々大笑する公爵閣下。あの、酔ってらっしゃいますね。
「封建社会より、市民社会の方が人類は繁栄する。経済規模も養える人口も桁違いよ。それだけ人類存続の可能性が高まるのだ。これだけの大仕事、天津箱舟乗組員として本懐と言わずして何とする」
あーあ、完全にできあがってるよ。良く解らない単語が混じりだした。ジンルイソンゾクって、王家に伝わる秘儀に関連してる言葉ですよね。
「いずれ、いずれな、血の薄い縁者が家督を継いでも、当たり前にする。平民になった孫を本家に迎えるのが珍しくない時が来る。今はまだ駄目だ。ガチガチに高貴な血で固められておるからな。そこに横穴を開けるには相応の理由が要る。契約結婚なら充分理由になる。だからな、マーク卿をデアモント公爵当主にしたい。なぁ、マーク卿をな、デアモント家にな」
公爵の目が座っていた。
公爵閣下、酔ってらっしゃるんですよね。酔ったふりじゃないですよね。
はたしてデアモント公爵は酔っていたか否か。どちらでしょうね。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。バルトコル伯爵の閑章は今回で終わりです。




