青い板は万能です
感想での名称応募、ありがとうございました。お冨では思い付きませんでした(笑)一度も触った事無いもので。
ビート板。お冨が子供のころは存在しませんでした。娘の世代になるとスイミング教室が出来て、ビート板も利用されてたな。
小学校にプールが無くて、隣の小学校まで行って使わせてもらってました。ようやく自校にできたのは六年生の時。一シーズンしか使えなかった。昭和の高度成長期の話です。
王都からバルトコル伯爵領へ移動する一団。その異様な隊列に、王都の住民たちはポカンと口を開けることになった。
見た目は箱馬車に似ているが、サイズは大型の幌馬車並み。それだけの重量を牽くなら馬が十頭は必要だろうに、なんと馬無しで動いている。それが四台。
「何だありゃ」
「分かんねぇ。俺ゃあ、見たことないぞ」
「あの紋章、侯爵家だよな。その後ろは公爵家、確かデアモント公爵だ」
「あれ、テムニー侯爵とデイネルス侯爵だとよ」
王都に住めば、十四家しかない公爵家の紋章は嫌でも覚えることになる。貴族相手の仕事に従事している者なら、さらに詳しい。そこから周囲に情報が伝わっていく。
隊列の前後を護衛する騎馬は、近衛騎士の軍服に身を包んでいる。正体不明の巨大な馬車らしきものには、きっちり高位貴族の紋章が掲げられている。
そんな物騒な相手に手を出す平民はいない。
自主的に道を開ける往来の馬車や通行人を置き去りに、隊列は王都の大通りを東城門へ向かって進んで行った。
東城門を抜けると、 スピードが上がった。窓の外の景色が、信じられない速さで流れていく。
これ、軍馬の全力疾走より早くないか。
混乱防止のために王都内を先導してくれていた近衛騎士の皆さんは、城門で別れた。スマホモドキで挨拶してくれたけど、騎馬ではお供できなくて残念だと仰ってた。
今乗っているのは、言わずと知れた天津箱舟の産物だ。
外側は金属製。中に入ると、ちょっとした居間になってた。
ソファーより座り心地が良いんじゃないかってレベルの座席とそれに見合った壁紙。床は歩きやすい硬さの絨毯。
ミリアによると、前世のキャンピングカーもどきだそうだ。
キャンピングカーって何だと聞いたら、長期休暇を取って遊びに行くための贅沢な移動手段と説明された。小さな家を買うくらいの値段で、頑張れば庶民でも手に入るとか。
ただし、ミリアの前世よりも後の時代のものだそうで、ミリアが大興奮してた。
「名前が地上車ってその時点で凄いわ。私の前世では自動車って言ってたの。水陸両用車とか空飛ぶ自動車とか実用化まではこぎつけてたけど、全然普及してなかったし。地上車ってカテゴリーが有るのは、他のカテゴリーの乗り物が普及してたってことよねっ」
興奮したのはミリアだけじゃない。御先祖が交通機関全般を統括してた家系の近衛騎士の方々が、ミリアを交えて熱く語っていた。俺もエンジン模型とやらを見せてもらったけど、理解しきれなかった。
まず、丸い筒。そこにスッポリと嵌まる円柱。円柱の底には、ビートバンが張り付けてある。
あ、ビートバンと言うのは、水の上で空中に浮かび上がる青い板のことだ。正式名称は別にあるそうだけど、ミリアがビートバンと呼んだので略称として公式に認められたのだとか。良いのかそれで。
で、だ。筒の底に水を入れると、円柱が浮き上がる。水を抜くと下に落ちる。弁を利用して断続的に水を流すと、円柱が連続して上下運動する。
「水を流すだけって、なんてエコなエンジンなのっ。二酸化炭素どころか、何も排出しないじゃない。素敵だわ」
エンジンって、何ですか。俺にはさっぱり分かりません。
今回バルトコル伯爵領に向かっているのは、親族と相続に係わる縁戚の皆様。
本来なら王都で会合を開いて王城で手続きするものだが、バルトコル女伯爵は領地から動かせない。なので、特例として王城が出向くことになった。王城の貴族院のお偉いさんという意味だ。
バルトコル伯爵家は他国でなら辺境伯に当たる家格だ。東の国境を守る大家。伯爵家でありながら王家とも縁を結んでいる。
公爵家と侯爵家の紋章を付けたキャンピングカーに同乗させてもらった俺は、成り上がったばっかの新米伯爵。場違い感が凄いんだけど、そうも言ってられない。
マーク、キャサリン義姉さん。力不足だけど、出来る限り守るからな。
青い板、使い勝手が抜群です。船だけじゃなくて、エレベーターも行けるかも。安全装置が課題ですかね。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。次話は、バルトコル伯爵家での一幕かな。




