開拓村にて
うーん、今回も説明になりました。ジャンさんの口調が安定しないよ~。
俺たちが到着した村は、岩塩の採掘現場のすぐそばだった。もう一つの村は道の先、小さな湧水がある場所に作られていて、生活の基盤はそこだと言う。ちなみに村の名前はまだ無い。
男たちは採掘の仕事があるので、ジャン一人が案内に立って、奥の村へと移動することになった。徒歩のジャンに合わせて、ゆっくりと馬を進める。
「なにしろ岩塩が採れるもんで、井戸を掘っても塩水しか出ねぇ。水がなきゃ暮らせねぇしよ。雨水ためて使ってるが、足りねぇ分は運んでくるしかねぇしよ」
あっという間に言葉遣いが崩れたジャン。ちょっと訛りがあった挨拶は、あれでも彼の精一杯の敬語だったらしい。
俺は伯爵と言っても新米だし、普段通りにしてくれと頼んだ。気を遣うのも遣われるのも窮屈で疲れるだけだ。自分の領地なら、これくらいの我儘は通したい。
そう言ったら、みんなに突っ込まれた。
「領主なんだから、領民に気を使わなくて良いんじゃねぇですかい。それが貴族ってもんだろがよ」
「貴族の我儘って、それ、違うだろ」
「オスカー卿、卿は国軍中将、立派な高位軍人でいらっしゃる。何故それほどまでに卑屈なのです」
えー、俺、昇進したのは成り行きだし、兵站で頑張ってただけで、部隊指揮したことないし。
「タムルク王国の侵攻を阻止しておいて、何を言ってるかな。救国の英雄呼ばわりは伊達じゃないっしょ」
ん? テイラムこそ何言ってるのかな。
「ちょ、ちょっと待って下せえ。救国の英雄って、あの!?」
「そうだよ。タムルク王国軍の先遣隊と交戦して、国境から叩き出したんだ。あれが無かったら、今頃、西部諸侯の領地はタムルク王国に併合されてたかもだよ」
そんな大袈裟な。確かに遭遇戦は有ったけど、俺は派遣先の騎士団にちょっと報告しただけだぞ。その後は騎士団が動くのを後方で見てただけだし。
大袈裟に褒賞されて中将に昇進したのは、人心安定のための宣伝だったんだよ。部外者の俺が適任だっただけ。騎士団の全員を一度に昇進させるわけにはいかないしな。
「ああ言ってるけど、司令部で敵の動きを先読みしまくって助言してたんだよ。本人はただの思い付きのつもりらしいんだけどさ、これがまあ、的確だったんだよね。どこの騎士団だって、オスカーが所属したいって言ったら、諸手を挙げて大歓迎間違いなし」
あー、テイラム、ジャンは俺の大事な領民なんだから、揶揄うのはそこまでにしといてくれ。
道の先、奥の村は、そこそこ開けた平地だった。ジャンの言っていた湧水から流れる小川に沿って、ログハウスが点在している。何軒か作りかけの家もあった。
家と家の間は畑になっていて、自給自足用と一目でわかる家庭菜園が並んでる。ツオーネ男爵領でよく見る光景だ。
遠巻きにこちらを見ている村人は、ボロとは言わないが年季の入った野良着姿で、生活の厳しさが窺える。
ジャンの家にお邪魔して、腰を据えて今後のことをテイラムが話した。
いやいや、俺に統治能力を期待しないで欲しい。人には向き不向きが有るんだよ。
「今までは王領の未開地だったから、土地は誰の物でもなくて自由に使えていたけど、これからは伯爵領になる。土地の所有者をきちんと決めて登記簿に記載しなければ、追い出されても文句を言えなくなる。つまり君たちは、伯爵領の領民になって税を支払うか、この地を退去するしかない訳だ。どちらを選ぶ」
ジャンの顔が強張った。
「お勧めは領民になることだけどね。初期開拓の特典というものがあって、自力で開墾した土地はそのまま所有が認められる。それに、これからは最低限の生活基盤を伯爵家に整えてもらえる。子供の卒業試験を受けられる教会とか、医療施設、生活道路の整備だよ。教会は国の出先機関を兼ねるから、出来上がるまでは領主の責任を果たしていないことになる。その間は徴税できない決まりだ。つまり、まだしばらくは無税のままだ」
「じゃ、じゃあ、家は取り上げられなくて済むんですかい」
「当たり前さ。家の敷地ごと、私有財産として認められる。畑もね。ただし、杭を打っただけで私有地と主張しても認められない。あくまで開拓実績がある場所だけだ」
へえ、そうなんだ。まあ妥当だよな。
それにしても教会と医療施設か。
「今回は挨拶だけだ。次回の訪問までに住民の意思確認をしておいてくれ。領民になるかどうか、考える時間が必要だろう。来月、領民登録の手続きを始めるから。後は村長の人選だな。指名する権限は領主が持っているけれど、君たちが自分で選んで推薦するなら、尊重すると約束しよう」
だんだん具体的になってきた。今になって実感してきたと言うか。俺、伯爵になるんだな。
開発資金、どうしよう。
行政手続きが始まります。人口少ないうちに始めないと、後が大変(笑)
オスカー君、自分の功績に関しては安定の鈍感ぶりです。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。感想、読ませていただいてます。ちょっくら、ネタに繋がりそうです。




