ランドール伯爵領へ 大歓迎
ランドール伯爵領、少しずつ形になって来ています。名ばかり領主のオスカー君だけど、歓迎されました。
屋台、客層からして、肉体労働者向けのガッツリ系だと思います。どんなメニューなのかな。
前話で百話目でした。感想で気が付きました。ここまで続けてこれたのは、皆様のお陰です。ありがとうございました。
山道を下りた広場は、単純に駐馬車場と呼ばれているらしい。この辺りにはまだ一つしかないから、それで不便は無いそうだ。
「番号を振るか、地名を付ける所ですが、まだ地名が有りませんので。土地の名付けは初代領主の仕事です。頑張って下さい」
我がランドール伯爵領の全てを取り仕切っている代官、グレーン・スミス騎士爵がにっこりと言った。
そうは行くか。俺のネーミングセンスの無さを舐めるなよ。絶対に拒否してやる。俺だって学習してるんだ、ここで一発かましとかないと。
「スミス代官。当主として命ずる。妥当な地名候補リストを提示せよ」
ドヤァ。当主命令だぞ。
リストはそのまま承認するから、グレーン卿、全部考えてくれないか。
「そうですね、オスカー地区とか、大将通りとか、ああ、愛しのニーナ街などいかがでしょう」
「止めて下さい、お願いします。俺が悪かったです。調子に乗りました」
「やっぱり父上とスミスさんは仲良しです。面白ーい」
キャッキャと笑う息子のカークと、クスクス笑うグレーン卿。
はぁ、俺に伯爵の威厳とかオーラは、無理だよなぁ。
駐馬車場の中央部にランドール伯爵家の紋章付きの馬車が停まると、ざわめきが起きた。まあ、一目で貴族仕様って分かるからな。周りは実用一点張りの荷馬車ばっかりだから、そりゃ目立つわ。
御者台から降りた使用人が、外から扉を開けて踏み台を用意してくれる。
先に降りたグレーン卿が、大声を張り上げた。
「オスカー・ランドール伯爵閣下である。領地へ視察にいらっしゃった。平伏は無用。皆、その場でお迎えするように」
さすが元近衛騎士。戦場でも良く通る、指揮に慣れた声だ。
ちょっと緊張しながら馬車から降りたら、歓声が起きた。人数に見合わない大歓声だ。
「伯爵様、伯爵様」
「ありがとうございます」
「ありがてぇこって、伯爵様ぁ」
いやあの、両手挙げてぴょこぴょこ飛び上がるって、どうした、何でそんなに興奮するんだ。
俺の後から馬車を下りたカークが目を丸くしてる。
「閣下、手を振ってやってください。彼らはタムルク王国からの移民です。正式に荷運び人として雇用していますから、閣下が雇用主です。宿舎と食堂完備の職場ですからね、彼らにしたら、有り得ない高待遇です。閣下は人気の的ですよ」
おいおいおい、それ全部、グレーン卿の差配だろ。俺は何もしてないぞ。
歓迎の中、グレーン卿の先導で敷地の端の屋台に向かった。かなりガッツリ系の軽食が並んでいる。ちょっとカーク向きじゃないかな。
馬車に戻って、どうぞどうぞと屋台で献上された料理の数々をつまみながら、先を進んだ。
「屋台は王都直通の街道が整備されるまでの仮設ですから。ここで腕を磨いて、将来街道沿いに飲食店を出してもらおうと計画しています。普通は既存の店で見習いとして修業するものですが、あいにく、まだ何も無いので」
そりゃそうだ。無人地帯だったんだから、店なんてある筈ないか。
「移民の中に経験者がいるかと当てにしていたんですが、思ったほど数がそろいませんでした。店を持っていたり手に職の有る者は国に残ったようです。こちらに来たほとんどが農民ですね。と言うか、タムルク王国は国民の九割以上が農民だったようで、二次、三次産業に従事している者は富裕層扱いですよ」
富裕層、ね。あの国じゃ、我がデルスパニア王国基準の生活必需品が、贅沢品扱いされたなぁ。
あれ、じゃあ、さっきの大歓迎って。
「厳しい開拓生活を覚悟して来たのに、故郷の富裕層並みの生活が保障されたってことになるのか」
「その通りです。まあ、次の世代になれば当たり前になるでしょうけどね。移民一世の感謝は本物ですよ。おかげでやり易い。我が国の生活水準と比べたら数段落ちますが、知らなければ不満は出ません。出たところで、開拓地だから仕方がないと納得させますよ」
グレーン卿、笑顔が怖いよ。
カーク、それも美味しそうだな。父さんにも一口おくれ。
ジャンル、ヒューマンドラマに戻しました。転生物だけど、遠い未来だから現実世界とは地続きだなと。やっぱり異世界は違いますよね。
小さな拘りですが、こっちの方がしっくりきます。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。




