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レイのお礼

 日付が替わる前になんとか8人は帰宅できた。

 楽しかった旅から戻り皆の心はまだ温かい。

「やっぱり我が家が一番ね。」

 チーが言うと、

「最も楽しんでいた君からその言葉が出るとは意外です。」

 イーが呆れた。

「帰る場所があるから旅は楽しいんでしょ。さっ、明日からまた頑張るわよ!」

「そうあってほしいです。」

 翌日はまた忙しかった、一日臨時休業したしわ寄せなのか、お帰りになるお嬢様方の多いこと。

「お帰りなさいませ、お嬢様。」

 8人、いや、キッチンの2人を外し6人は何度この言葉でお迎えしたか、キッチンの2人もいつもの倍近くのお料理とドルチェを作った。

「いってらっしゃいませ、お嬢様。」

 最後のお嬢様をお送りして扉を閉めるとみんなはぐったりしていた、イーは、もう一度気合を入れると、

「ほら、さっさと片付けないと日付が替わります。」

「は〜い。」

 レイとサンの返事に、

「返事は伸ばさない!」

 イーは気が抜けません。


 忙しかったのは翌日だけではなかった。

 なぜかこの週は忙しく日曜を迎え、ランチが終わり少し落ち着いた隙間の時間、今日はアールとレイがパントリーで、チーが作ったふわふわ玉子のオムライスを食べていた。

「やっと明日は休める。」

 アールが言うとレイは、

「明日は楽しみ!」

 なぜかウキウキしている。

「何? レイ、なんか予定あるの?」

「明日はリュウの試作のお手伝いするの。」

「お手伝いではなくて、ひたすら試食の間違いでは?」

 嬉しそうに答えたレイに、奥から出てきたイーが冷静に言った。

「違います! お手伝い!」

「分かりました、そんなオムライスを飛ばさんばかりに言わなくても。そういえば君達、京都でも甘味処で盛り上がっていましたよね、熱心なのは良い事です。」

 イーが言った。

「ご馳走様、では熱心にお仕事頑張ります!」

 笑顔のレイは食器を片付けるとフロアに戻っていった。

「レイが器用だったら、いいパティシエールになったかもね。」

 チーが言うとリュウも、

「レイの思いつきというか発想凄いんだ。お正月の新作タルトもレイの意見で改良したんだよ。」

 イー達は感心し、ふと、

「スウィーツ好きは個性的な人が多いのでしょうか?」

「イー、その話しはなしね、噂しないで。」

 アールが慌てて言うと、そこにバタバタとサンが駆け込んできた。

「アール隠れろ! あのパティシエールだ!」

 ええっ! と、イーもチーもリュウも、もちろんアールも驚きの声をあげる。

(だから噂しないでって言ったのに・・。)

 あのパティシエールとは、アールのグレーカードの原因のぬし

 そんな事も知らずレイがアールを呼びにきた。

「アール、お嬢様がお呼びです。」

「まさかと思うけど、僕がここにいると言った?」

「あたり前でしょ、いるんだから。えっ、なんなの? 私またやっちゃった?」

 レイが不安げに言うと後ろから入ってきたスウが、

「アール、覚悟を決めて行け!」

 それだけ言うとレイを連れフロアへ戻り、入れ替わりに入ってきたウーが、

「彼女結婚されてるみたいですよ、スウの言う通り覚悟を決めて、ほら。」

 アールは深呼吸するとゆっくりフロアへ向かった、すぐ後ろをイーが続く。

「イー、食事は?」

 チーの声に軽く手だけ上げ答えるとそのままフロアへ出た。

「イーが放っておく訳がないでしょ。」

 ウーが言うとチーも、

「そうね、またお昼抜きね、イー。」

 ため息で答える。


 アールがフランスにいた頃の出来事。

 菓子職人の勉強と修行のためフランスの有名パティスリーで働いていた彼女は、アールと知り合い好きになり、最後は自殺未遂を起こし大騒ぎとなり、アールはグレーカードをくらったのだ。

 確かに最初に声をかけたのはアール、しかしいつもの軽い挨拶気分、純粋で、知らない土地での生活に不安だった彼女は、アールの優しい言葉に心奪われ夢中になり、恋をした。気づいたアールが距離をおいた時には遅かった。

 ここまで言うとアールに責任はないかもしれないが、そもそも誰にでも声をかける、しかも相手が女性となれば尚更NGだ。下手すればいきなりブラックだってありえる。

 アールの悪気のない癖のようなもの、この時もイーが神との間に立った。

 イーには苦労癖があるのかもしれない。

 

 フロアに出たアールはまっすぐ彼女、ユリの席に向かった。

「イー大丈夫だよ、逃げたりはしないから。」

「あの時も君は逃げたりはしていません、私は知っています。」

 振り返るアールに笑いながらイーは言った。

「ありがとう、イー。」

 アールが近くに来るとユリは、

「こんにちはアール、そんな顔しないで。久しぶりに日本に帰って来たのに・・私、アールに謝りたかったの、あの時のアールの優しさ今なら分かるから。ジャンに何度も言われた。あっ、私、ジャンと結婚したの。」

「えっ! ジャンってあの店のオーナーパティシエのジャン?」

「そうよ。」

 女性は強い、確か二十くらい歳は離れているはずだとアールは思った。

「アール、ごめんなさい。あなたは誰にでも優しい人だったものね。」

(それは褒め言葉か? 嫌みに聞こえるぞ!)

 聞こえたサンは思った。

「もういいよ。ユリは生きてるし、しかも結婚して幸せになった、そうでしょ。」

 アールの言葉に彼女が大きく頷くと、

「ここがよく分かったね。」

 あらためてアールは聞いた。

「ここのドルチェが美味しいって書き込みがあって。そこに執事達のことも書かれてて、もしかしたらと思ってね。実は来月のバレンタインに向けて、日本にショコラを出しているの、その視察かな。」

 商魂も逞しい、さすが今やオーナー夫人。

「ねぇ、ドルチェばかりを注文してもいい?」

「えっ。」

 ユリの注文に戸惑っていると、

「かしこまりました。」

 詰まったアールの後ろからイーが笑顔で答えた。

「普段は一日に何種類もご用意しておりませんが、できる限りのドルチェをお持ち致します。全てお召し上がりになられますか?」

「もちろん!」

 レイ2号がいた。

(そういえば歳も同じだったのでは?)

 キッチンへオーダーを通すためさがりながら、イーは考えていた。

 さぁ、そこからリュウの格闘が始まった。チーは料理があるため、全面的には手伝えない、急きょレイの出番だ。

 イーに呼ばれたレイは、まず注意事項から指示される。

「レイ、くれぐれも言っておきますが、リュウの指示に従う。口には決して入れない! いいですね!」

「はい、分かりました。」

(イーったら、私がつまみ食いすると思ってる、嫌だなぁ。)

 思っているとすぐにイーが、

「レイ! 今、口の前にあるのは何ですか?」

「アハハ・・チョコ。」

(もう行ったと思ってたのに振り返り見ていたとは・・失敗!)

 レイはボウルにチョコを戻した。

「失敗ではありません! チー、ちゃんと見ていて下さい。」

「分かったからほら行って、心配性ね。」

 イーはため息混じりにフロアへ戻っていった。

「リュウ、なんでも言ってね、何からしたらいい?」

 リュウの指示に従いアシストするレイを時折横目で見ながらチーは、

(意外に器用ねレイ。それに、こんなに楽しそうにドルチェを作るリュウを見るの初めてかも。)

 と、思った。

 なんだかキッチンがいつもより明るい。そんな3人の様子を他の5人はフロアでしっかり感じていた。

 運ばれてくるドルチェを、ひとつひとつゆっくり食べるユリの、満足で感心している姿を見て皆は嬉しかった。

 今日はお嬢様方、ドルチェを追加される方がほとんどで、ディナーまでのひと時フロアは甘い香りに包まれた。食べ終えたユリはアールに、

「書き込み以上、どれも美味しかった! なんだか私も今すぐ作りたくなってきた、スゴイ刺激をもらった。ありがとう。」

「そのまま伝えます、喜ぶよ。」

「会いたいけどダメだね。」

 ユリが言うとアールは、

「ごめん、照れ屋だから。」

「やっぱりアールは優しい。ご馳走様でした。フランスに来ることがあったら必ず寄ってね。」

 そう言って帰っていった。


 忙しかった週の終わり、いつもの遅い夕食を終えレイだけはしあわせそうだ。

 なぜなら今夜は食後のドルチェがお祭りのように並んでいて選び放題! 嬉しくて仕方ない。

「レイ、まさか全部食べる気ではないですよね。」

 イーの問いにレイは、

「まさか、明日に少しは残しておく。」

「少しは? それこそまさかです!」

「おまえ、今何時だと思ってる、確実に太るぞ! やめとけ。」

 スウも注意する。しかしレイは、

「イーもスウも小舅だね。」

 さらっと言った。

「小舅!」

 ふたりは同時に叫び、イーはスウに、

「スウ! 君の弟子教育はどうなっているのです! 私は胃が痛い。」

「俺だって頭痛が・・」

「ふたりが小舅なら僕が夫ということでOK。」

 アールが言うと、OKじゃないと全員の声が返り、その横で、もうレイはふたつめのドルチェを口に運んでいた。

 全員が呆れて頭を抱える、日付はすでに月曜日に替わっていた。ちっとも懲りないレイにとうとう皆は苦笑する。

 明日、いえいえ、今日はどんな休日になることやら・・・。


 妙に忙しかった週を終え今日は定休日、昨夜が遅かったこともあり全員まだ眠りの中のようだ。

 驚いたことにあのイーが起きてきていない、よほど旅の間の緊張と疲れが溜まっていたのだろう。しかもイーは行く先々で幕を張っていたのだ。おそらく他の死神なら無理だろう。

 もちろんウーとスウも協力はしていた。イーに続き完成度の高い幕を張れるふたりがいたからある意味、旅は成立したのかもしれない。それは体力、精神力、技術力を要する、従ってこの3人ともお疲れだ。

 そんな中、二階のキッチンがガタガタとうるさい、そこにいたのはいつもは寝坊ギリギリのレイだった。

 レイはどうしても旅のお礼をしたかった。7人の優しさに包まれ守られっぱなしの自分に何ができるか一生懸命考えた。で、無謀にも料理を作る気なのだ。

 さすがに夕食は無理だ、昼食も自信がない、朝食ならなんとかなるのではと安易な考えレイらしい。

 トーストと目玉焼き程度にしておけばよいものを、レイは疲れた胃に優しい粥を作ろうとしていた。

 昨夜遅く、みんなが寝静まってから土鍋を出し生米から炊くので洗って水に浸けておいた。昆布と鰹節で出汁だしをとり濃いめに味付けをし、葛でとじた葛あんを作る、浅葱を細かく切り針生姜も切る、梅干しと鰹節を混ぜ酸味を和らげる、それから・・・

 あっ、土鍋が噴いてる! 蓋に触れ、熱っ! と飛び退くレイ、見ていられない。

 まだ何かするのか、鮭を焼く、卵焼きも・・、みんなは、

「もういい!」

 と、それぞれの部屋で叫んでいた。

 レイの行動に気づかない7人ではない。

 ただ、レイの気持ちが分かるから見守っている、内心はハラハラだ。

 チーはタオルの端を噛み、引っ張りすぎて、もう、一枚ボツにしていた。

「ねぇ、手伝いにいっていい?」

 我慢できずリュウが皆に心を飛ばして聞く。

「駄目だ! チーですら我慢してんだぞ。」

 スウが答えた。

 チー、二枚目のタオルがヤバイです。胃に優しい粥が胃に悪い。

 そんな事など知らないレイは、出来上がった食事をダイニングに鼻歌まじりで運んでいる。

 全てを運ぶと一番にイーの部屋へ走り扉をノックした、平静を装い返事をするイー、

「はい、どうぞ。」

「おはようございます。イー、朝食作ったのでいかがですか?」

 満面の笑みで聞くレイに、イーは、

(その笑顔で言われて断れる人はいないでしょう。)

 と、思い、口元で笑いながら、

「君が作ったのですか?」

「はい! お口に合うか分からないけど・・」

「頂きますよ、すぐに行きます。」

「はい!」

 嬉しそうに次へと走るレイは、同じようにみんなの部屋に声をかけていく。

 みんな分かっていても、わざと驚きダイニングに向かい、レイは最後にチーの部屋をノックした、タオルを握りしめ飛び出してきたチーに、

「どうしたの? 怖い夢でも見たの?」

「違うの、最高の夢を見たのよ!」

 チーはレイを抱きしめた。

「大丈夫? チー。」

「ごめんなさい、大丈夫よ、で、何かしら?」

「朝食作ったからいかがかなって。」

「食べる食べる! さっ、行きましょう。」

 ダイニングには和の香りが漂う。

「まっ、白粥に葛あんをかけていただくのね。体に優しい朝食。う〜ん、お出汁のいい香り。」

 チーが言うとレイは、

「でも卵焼き少し焦がしちゃったの、ごめんなさい。」

「お砂糖入れたの?」

「うぅうん、お出汁を少し入れた。」

「そう、これくらい大丈夫よ。」

「では、頂きましょう。」

 イーが言うとみんなでいただきますと食事が始まった。

「うん!」

 口にした皆の声に、レイは、

不味まずかった?」

「いえ逆です、美味しいです。」

 イーが言うとサンも、

「美味い! この葛あん最高!」

「ええ、レイ、あなた味覚がしっかりしているからかしら、味がいいわ。」

「チーに褒めてもらうと嬉しい!」

「いいお嫁さんになるわね。」

 チーが言うと、

「私、お嫁さんにならないよ、ずっと執事!」

 レイは笑った。


 食事の途中からずっとイーは考えていた。

 レイが死のリストに載るまでここに一緒にいるということは、すなわちずっと執事だということ、それは彼女から女性としてのしあわせを奪ってしまうことではないか。

(なぜもっと深く考えなかったのか。私は7人のことしか考えていなかったということです。なんて傲慢で身勝手なのです、それなのに、レイは笑って言いきりました。ずっと執事だと。)

 それでいいのか?・・・他の6人も皆、イーと同じ思いを心に抱いた。


 後片付けも全部ひとりでするというレイに、リュウとチーが無理やり手伝うと言いキッチンに入って驚いた、ここでどんな事件が起こったのかと思うくらい酷い状態。

 ふたりは笑うしかなかった、一緒に手伝おうと後から入って来たスウとアールは言葉をなくし、どうすればこうなる! と思った。最後に入って来たレイは頭を掻いた。

「ハハハ・・だから私ひとりで片付けると言ったのに・・」

 5人がかりで片付けたので比較的早く終わったが、もしこれをレイひとりで片付けていたら、きっとまだ半分も終わっていないだろう。

「手伝って頂いてありがとうございます。これじゃぁお礼したことにならないね。」

 苦笑するレイにチーは、美味しい朝食で十分と笑う。

「僕は食事もいいけど熱い口づけの方がもっといいかな。」

「ゴホン、ゴホン・・」

 アールの言葉にむせるリュウは、

(あ〜あ、なんであの時見てしまったんだ。)

 と、思った。

「リュウ、何を見たの?」

 チーの問いにリュウは驚き、

「な、何も! もお、僕の心ん中見ないでよチー!」

「だって飛んできたんだもん。」

 あぶないあぶない、赤目に注意だ。話しを変えるようにスウが、

「レイ、コーヒー飲むか?」

 と、聞いた。

「スウが淹れてくれるの?」

「あ、あぁみんな飲むだろ、リビングに持っていくから座ってろ。」

「私手伝う!」

 そう言うとレイはみんなのカップを用意しだし、スウはドリップのペーパーを2枚折った。

 チーに促され他の者は先にリビングへ、アールは振り返りふたりを見てから行った。

 コーヒーを淹れながらスウはレイに聞いた。

「あの粥は誰かに教わったのか?」

「京都の伯母さんが何度か作ってくれたの。」

「そっか、確かに京らしい。」

 レイはふと思い出した、スウだけでなく、確かチーも京都で仕事があったと言っていたと。するとスウが、

「チーの仕事は俺より一年ほど前に終わり、関わったのは数ヶ月。ただ、惚れたからな・・イーを呼んで無茶を言ったみたいだ。どんなに惚れても、何があっても、止めることも変えることも出来ない。それが運命(さだめ)。」

「辛くて苦しいね。私には到底出来ない尊い仕事。」

 レイの言葉にスウは驚いた。

(俺達の仕事が尊い仕事だと言うのか・・)

 おもわず手が止まっていた。

「スウ、お湯溢れてるよ。」

 レイに言われ慌てて我に返り、

「あっ、しまった。」

「らしくないね。」

「笑うな。」

 笑うレイのおでこをスウは指で弾いた。

 先にリビングに戻ったチーは、イーの傍に行き隣りに座ると、

「あまり考えすぎない方がいいわよ、意外と近くに解決策が沸き起こったりするかもよ。」

 なんだか意味ありげに笑いながら言った。

「君は前向きですよね、見習います。」

「少し年下でも経験数と苦労数が違いますから。」

 チーがまた笑うと、そこにスウとレイがコーヒーを運んできて、順にコーヒーを置いていく、

「レイ、リュウのカップ。」

「はい、これね。」

 手渡すレイの姿に、

「なんだかスウとレイ、カフェのオーナー夫婦みたいだよな。」

 サンの言葉にリュウはコーヒーを吹きだした。

「汚ねぇなリュウ、最近落ち着きなくねぇ?」

「落ち着きないのはサンの方が上だろ!」

「俺は自覚があるもん!」

 サンは変に偉そうだ。イーの咳払いにふたりは黙った。

(オーナー夫婦ねぇ・・サンは時々鋭いことを言いますね。)

 ウーは思った。

 リビングの暖炉の薪がパチパチと燃え暖かい温もり色を灯す。

 みんなの心の中にも温もりが飛び火する。

 7人は同じ温もりを心に感じていた。手放したくない温もり。

「今日のコーヒー、なんだか優しい味だね。」

 ウーがひとり言のように言うと、

「優しい心で淹れたからよね、スウ。」

 チーがスウの顔を見て言った。

「知らん。」

 スウのぶっきらぼうな返事に、

「お湯、溢れさせてましたよ。」

 レイが悪戯っ子のように皆に言うと、

「おまえ、告げ口するのかぁ・・」

「告げ口じゃないもん、報告。」

「はぁ、そうくる・・報告か。これからおまえがどこで寝ようと二度と運ばん!」

(運ぶくせに。)

 他の6人みんなが同時に思い、

「いいよ、絶対に寝ないもの!」

(寝るくせに。)

 また6人みんなが同時に思う。

「やめなさい、こないだだってちゃんと運んで、帯も苦しくないようにほどいてくれてるのよ、スウが。」

「えっ!」

 チーの言葉にレイは驚いた、気づくのが遅すぎです。

 バツが悪くなったのか、コーヒーカップを手に立ち上がり、リビングから出ようとするスウにレイは、

「ごめんなさい!・・・ありがとうスウ。なんだかあまり覚えてなくて、似合わない着物姿で寝てるなんて変だったよね。」

 似合っていたと皆が言おうとしたが、それよりも早く、

「綺麗だった、似合ってたよ。」

 スウが言いみんなは驚いた。

「き、着物が綺麗で、チーの着付けが上手いし・・」

 慌てるスウの姿に、ごまかすのが下手ですと皆は思ったが、レイは、

「ありがとう。」

 と、もう一度言った。

 レイの声に背を向けたままリビングの扉を開け出ていき、部屋へ戻りながらスウは思っていた。

(今度は俺が着せてやる。)

 不器用なスウの想いは今はまだレイには届かない、届く時はくるのだろうか?

 たとえ届いてもどうすることもできない想いなのかもしれない。

 彼ら7人は執事である前に死神なのだ。

 死神と人、本来関わることはない。

 関わるのは、人が死のリストに載ったとき・・・。







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