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14/22

祈り

 夜明け前、全員はバルコニーに立っていた。

 声をかけていた訳でも約束していた訳でもなかったが、その時間がくる前、なぜかそこに揃った8人、誰も声をかけたりはしなかった。

 時が刻まれ静かに祈る8人。

 この街を、この国を、この時を、静かに優しく温かい祈りが包む。

(父さん、母さん、私を守って下さったみなさん、私、今とてもしあわせです。生かされた命大切に精一杯生きる。私に与えられた命の時間なんて分からないけど、今をしっかり生きる。それが私にできる唯一のことだもの。・・・ありがとう。)

 レイの心はやはり霞草だと7人は思った。

 あの日、あの時、レイが飛び込んでこなければ、今日こんな時間はなかっただろう。

 人の出会い、いや、人と死神の出会い、不思議としか言えない。

(神はご存知なのだろうか?)

 ふと、イーは思った。

 朝食を終えホテルを出た8人が乗る車は、レイが暮らしていた場所へ向かう、昨日騒ぎ過ぎたのか迷コンビふたりも今朝は静かだ。長続きはしないだろうがせめて今はイーも休息だ。

 レイの案内で着いた場所は小さな公園だった。

「ここなの?」

 サンの問いにレイは、 

「ここら一帯の家はほとんどなくなり、整理され建て替えられたりして、うちは私が京都の伯母さんの所に行ったしね。」

 周りの景色は変わっていたが、ここにはあの日まで過ごした時間と同じ風が吹き、頬を髪を優しく撫でる。公園の端に立ちレイは、

「ここら辺が玄関、で、奥に台所、右側にお風呂、手前が私の部屋で・・」

「もう説明しなくていい。」

 スウは目の前のレイを抱きしめたい衝動に駆られる、振り返るレイは笑顔を皆に向け、

「ねぇ、みんなには生まれた家とかあるの? そこにご両親とかおられるの? ご兄弟とか・・」

 もうスウは止められなかった、レイを引き寄せ抱くと、

「いつか連れてってやる、もう誰もいないが天に家だけはある。」

 レイは顔をあげ少し驚いた表情で、

「天に・・そうなんだ。凄いね、みんなも?」

「そうよ、私の家も案内するわよ。」

「俺んちだって!」

 チーとサンが話すと他の皆も頷く、

「我が家はラザロの許可があればですが。」

 ウーは笑った。

「すっごい楽しみ!」

 見上げるレイの瞳が濡れていたのをスウは見たが、微笑みレイを見つめた。

 8人は公園で静かに祈る。すると、

「麗ちゃん? もしかしたら新道さんとこの麗ちゃん?」

 皆の後ろから年配の女性の声がした。

「はい、そうですが。」

(あっ! しまった。なんで分かったの? 髪束ねるの忘れてた! 女に見えた?)

 レイは慌てたが違う。スウの隣りにピタリと並ぶ姿、まさか男同士と思わない、それに長い髪、この場所での祈り、年配でも女の勘は鋭い。

「元気やったんや、えらいべっぴんさんになってぇ。横にいはんの旦那さん?」

(スウのこと?)

 レイが思うと、

「さっきの見てたんだ、悔しいけどそうですと言っとけ!」

 アールが小声で言う。

「は・・はい。」

 スウに寄り添うと、

「ひゃぁ〜、男前な旦那さんや。そやけど幸せそうで良かった。うちの人もあの世で喜んでるわ。」

(思い出した! 私を助けてくれたおじさんの奥さん、おじさん亡くなられたの?)

「私を助けて下さったおじさん、亡くなられたんですか?」

 レイは思うと同時に聞いていた。

 おばさんは頷き、5年前に病気で亡くなったことを話し、最後までレイの話しをしていたと言った。

「もともと病気がちな人やったけど、あの日から頑張らなって言うてね。ほんで麗ちゃんに噛まれたとこ見せては、勲章や言うて自慢しとったわ。可笑しい人やろ。」

 レイは首を横に振った、声が出ない、するとスウが、

「妻を助けて下さってありがとうございます。おじさんがおられたから今があると妻が話してくれました。それで今日はここへ。」

「そう、こちらこそありがとうね。あの勲章のおかげで私らも生きられたんかもしれん。おふたりはお子さんは?」

 おばさんに尋ねられスウは、

「ま、まだ。」

「はよ生んで、ええお父さんお母さんになってねぇ。命はつながっていくから。」

 明るく笑うおばさんの顔は、太陽よりも輝いてみえた。

 これが人の強さなのかもしれない。7人は人の不思議に触れた気がした。

 レイは何度もお礼を言い、手を振るおばさんに大きく手を振り返した。

 おばさんの姿が見えなくなると、ふとイーが、

「また来年も皆で来ますか。」

 イーの発言に皆が驚く。

「いいかもしれませんね、年に一度の慰安旅行。」

 ウーまでもが言う。

「俺、なんかスッゲェ楽しい!」

 サンが飛び上がらんばかりに言った。

「サン、君の参加はこれからの働き次第です。」

「冷たいイー。」

「反省がなければ参加もありません!」

 イーとサンの会話に、笑いながら皆が車に乗り込むと、リュウがポツリと言った。

「命はつながるんだ。どんな流れであってもかな?」

「リュウ、どうしたの?」

 リュウの言葉に神妙な顔をする皆を見て、隣りに座ったレイが心配そうに聞いた。

(リュウが自分から話そうとしている。あれほど触れられることすら拒否してきたリュウが。)

 運転していたスウは驚く気持ちと同時に、レイだからという納得する気持ちもあった。

「僕は、神と死神の混血種なんだ。正確には僕の母がそうで、僕はクォーター。」

(待って、神の子じゃなくて神? どういう事?)

 レイは頭が混乱したが、誰も口を挟まなかった。リュウは続けた。

「もしかして、神はおひとりだと思っていた? もちろん父なる神はただひとりだけど、神と呼ばれる方々は何人もおられるんだよ。その中には女性もね。」

「そうなの・・そういえば八百万やおよろずの神なんていうものね。」

 真面目なレイの言葉に、サンは笑いを堪えた。

「僕の祖母が神で、死神を愛してしまい、生まれたのが僕の母。祖母のことは知らないけど、僕の母は一部とはいえ、神や神の子、それに死神からも酷い仕打ちを受けた。幼かった僕の記憶に残るくらいにね。」

「お父さんはどうされていたの?」

「父は僕が生まれてすぐに亡くなっているんだ。違う種と交わると、もともとの寿命に変化がおきるから仕方ない。だから母はひとりで僕を守ってくれた、自分と同じ目に遭わせないよう。」

「寿命に変化があろうと、ご両親は愛し合って伴に生きることを選ばれたんでしょ、素敵ね。」

 レイの言葉にリュウは驚いた、そんなことを言われたのは初めてだった。

「成長した僕は近くにいたスウに随分助けてもらったんだ。後から知った、自分の先が短いと思う母が、こっそりスウに頼んでいたって。」

「お母さんはリュウを心から愛しておられたのね。黙って頼まれたスウも優しいね。」

「言ったろ、スウは心が温かくて優しいって。」

 そう言えば初めてみんなと会った日、リュウが言ったことをレイは思い出した。

「なのに僕は、スウにグレーカードを負わせてしまった。」

 リュウが言うとすぐにスウは、

「それはいい、リュウ。」

「話したいんだ、いいでしょ、スウ。」

「勝手にしろ。」

 前を向いたままスウは言い、リュウは、

「母が亡くなってすぐ、神の子が母を侮辱した。僕はその神の子を立ち上がれないほど痛めつけてやった!」

 レイにはそんなリュウが想像できなかった。

「もしあの時スウが止めに来なければ、僕は相手を全員殺していたかもしれない。」

「全員って、何人相手にしたの?」

「5人。」

 リュウは強いんだ、これもレイには想像できなかった。

「当然一発ブラックを、スウが自分も負うって神に直談判して、僕がグレー2枚、スウが1枚。・・・僕は今まで、自分の血を呪ってた。それでも命はつながるの? つなげていいの?」

 リュウの心の奥底の想いを感じながら、それでもレイははっきりと言った。

「つながるよ。つなげていくの。リュウを心から愛したご両親がいて、さらにそれぞれにご両親がいて、ずっとずっとつながるの。それってさかのぼればきっとすごい数だよ。そのすごい数の愛情がリュウにつながってる。だからリュウもつなげるの。ねっ。」

 全員が感じていた、自分達につながり注がれた愛の天文学的数字、もちろん数字なんかでは表せないだろうが、レイはそれをさらりと、あたり前のように口にする。

 どこから生まれるのか? レイの紡ぐ言葉は、そして心は。

 リュウはレイを見つめ微笑んでいた。

 いつも心にしこりのようにあった黒い塊が溶けていく、その変化を皆も感じた。

 

 車は駅前に到着した、新幹線に向かいながらいきなりチーが言い出した。

「確か、京都の伯母様の所にも住んでいたのよね、そちらも寄ってく?」

 新幹線を前にチーの暴走がまた始まりそうだ。

 イーは頭を抱えた、なぜなら目の前の皆はこの旅同様、もう心は京都に飛んでいるのがはっきりと分かるからだ。

(予約しているチケットはどうするつもりです? なにがなんでも今日中には帰ります!明日は定刻通り店を開ける! 分かっているのですか君達は!)

イーは心の中で叫んだ。

 その叫びに気づいているのかいないのか、リュウは、

「チケットは変更手続き、僕がするよ。」

「なんだったら夜の闇に紛れて、みんなでひとっ飛びで帰ってもいいじゃん!」

 サンが暴走発言をしたが、すぐにイーの怒りの顔を見て、

「なぁ〜んてのはダメだから、リュウ、よろしく!」

 サンが訂正発言をし、スウは、

「本気で行くつもりか?」

「本気よ、スウだってよく知る土地じゃない。京は昔を残している所が多いから楽しみ!」

 チーはもう完全に頭の中、京一色だった。

 イーは諦めた、旅を決めたのは自分自身、今日一日は覚悟を決めようと思った。

 こうして新幹線に乗った8人の降車地は京都となり、帰路のはずが、途中下車で旅が続く。

「お昼は京都で何食べたい? あぁ迷うわぁ。」

 イーの胃がキリキリ痛むのも知らず、チーはやたら嬉しそうだ。

「本当に寄り道いいんですか?」

 レイはイーの顔を見た。

「大丈夫です、レイは心配しなくてもいいです。ただ、あまり長居は出来ませんが。」

「ありがとうございます。」

「そんな丁寧なお礼はいりません。」

 イーは苦笑した。

「ごめんなさい、だってイーの方が、いっつも丁寧に話してくれるからつい・・。」

(私の方が壁をつくっているのか?)

 イーは思った。

「違いますよ、イーの話し方や態度はいつも私達を導く手本となる為です。崩れて乱れていくのは簡単です。」

 ウーはイーの顔を見て微笑みながら話した。

「分かります。私、イーの言葉、温かくて大好きだもの。」

 レイは言った。

「怒ってるのも?」

 サンが聞くとレイは頷いた。

「怒っていても、そこに相手を思いやる気持ちがあれば温かい。サンだって分かってるからなんでも言えちゃうんでしょ。」

 サンはレイの言葉に頭を掻く、いつの間にかイーの胃の痛みも消えていた。

「長居が出来ないなら急いで観光しなくちゃね。」

 アールが言った。

「観光! すでに君は間違っています。観光目的ではありません! アール、まさかとは思いますが、祇園や上七軒辺りをうろうろしようなどとは考えていませんよね。」

「ハハハ・・まさか。」

 こちらも頭を掻いた。しかしレイは驚きながら、

「イー、祇園はまだしも上七軒まで知ってるの? まさかお座敷まで・・」

「知りません! それ以上は。私はチーやスウのように京での仕事はありませんでした。」

「あら、来てくれたじゃないあの時。」

「それはチーが私に助けを求めたから、仕方なくでしょう。」

「でも来てくれた。」

 チーが笑った。

(仕事と言った、いつ? どこで?)

 レイは思った。

 京都駅に降り8人は荷物をロッカーに預けると、レンタカーを手配に行ったイーとスウを広い駅ナカで待っていた。しかし、じっとしているメンバーではない。

 ここも神戸同様多くの観光客が溢れる街。

 修学旅行生、外国人観光客、うろうろしだした5人にウーの神経が尖る。

(イー、君の気持ちがよく分かります。)

 スウが車を正面に移動させイーが戻ってくる、ウーは慌てて皆を呼び戻した。

 姿が見える寸前間一髪で皆が揃い、何事もなかった顔をするが、イーが気づかぬ訳がない。

「君達全員、見事にニッキの香りを口からさせていますね。」

 呆れ顔でため息をつき、

「さっさと車に乗りなさい!」

 イーの声に5人は走る、それすら楽しい。

 笑いながら車に乗ってきた5人から、スウにもはっきり匂った。

 苦笑し皆が座席につくと、スウはレイに聞いた。

「レイ、場所は?」

「堀川通りを綾小路通り東に入った所、でも伯母さんが亡くなってから、家は人手に渡っているから。」

「お墓参りは?」

 チーの問いにレイは、

「お墓はなくて、西本願寺で永代供養をして頂いているから。」

「まあ。」

 なぜかチーは驚き、

「スウ。」

 とだけ言うと、

「西本願寺だな、手前だから先に寄る。」

(スウは本当にこの町を知っている。)

 レイは思った。

 チーは少し遠い目をしたように見え、

(きっと誰かを思い出しているんだ、チーとスウがこの地で関わった人って誰?)

 と、思った。

「それはふたりとも決して話してはくれませんよ。」

 ウーはいつもの優しい笑みを浮かべ、レイの心の問いに答えた。しかし、

「少しだけ話してもいいですか? スウ。」

 寡黙に運転するスウに、ウーは静かに聞いた。

「寺に着いたら俺がレイに話す、全ては無理だがあいつらの生きざまを話すくらいは許されるだろう。」

 チーも小さく頷く。

 レイはスウの言葉に、

(この地で関わった人達とふたりはきっと心を通わせていたんだ、そして自分達に課せられた仕事に悩み苦しんだ。私は触れてはいけないことを思い、スウを苦しめているのでは・・・)

 次々と思いが巡る。

「レイ、おまえ考えすぎ、俺はそんなに弱かない。」

 スウはそう言うと、左にハンドルをきり駐車場に車を停めた。

(俺はおまえに話したいと思った、ただそれだけだ。)

 広い境内は一月だからなのか人も多い、本堂、御堂と手を合わせる8人に周りの視線は集まる。さっさと進むチーとスウに、レイはまるで案内されているように思った。

(なんだかふたり、ここに住んでたみたい、まさかお坊様だった?)

 レイの思いに、

「ぷっ、んな訳ないだろ! チーの坊主頭想像できる?」

「できない。」

 サンの問いにレイは即答した。

「あなた達、たたっ斬るわよ。」

 小太刀の構えのチーに、笑うみんな。周りの誰かが何かの撮影? と囁いた。

(そんな訳ないだろ!)

 と、みんなは思ったが、イーはアールに、

「今あちらの一団にウインクなどしたら、ここから先、君はずっと車の中です。」

 言い切った。

「わ、分かってます。」

 危なかったですアール。


 スウはひとり大銀杏の樹を見上げていた、レイはそっとその隣りに立つ。

 ついて行こうとしたサンをチーは止めた。

「樹齢何百年もの大銀杏、いろんな出来事を見てきてんだろうな・・」

「すごいね。」

 ふたりは静かに佇む、ほんの一瞬の沈黙だったのかもしれない。

 スウは見上げていた視線を正面に落とし静かに話し始めた。

「月明かりもない夜、俺はあいつの目の前に姿を見せた。あいつは驚きもせず、やっと来たか遅かったな。って。俺の方が驚いた。」

 そう言ってスウはフッと笑った。レイは何も言わず次の言葉を待つ。

「戦いに身をおく者は死を覚悟していてあたり前かもしれないが、あいつは覚悟というより死に場所を探してるみたいだった、武士としての死に場所を。戦いに敗れ進む遠く長い道のりの中、大切な人を亡くし、減っていくかつての仲間達、わずか一年ほどの間だったが、俺は激しい生きざまを目の当たりにし、自分の存在がやたら小さく思えた。」

 空色のリストに載った人、レイは思い出した。

 スウは沢山いたと言った、スウを見て死神と知っても生き方を変えず揺れない人。でもそれは同時にスウを苦しめ辛くさせた人。

 運命(さだめ)を変えることも、伝えることも、止めることも許されない。

 レイはスウの横顔を見上げた、スウの瞳はまっすぐで綺麗だった。

 その瞳がレイに向き、

「綺麗だ。」

 低く優しい声でスウは言った。

「えっ?」

「レイの涙。」

 スウの手が顔に近づき、指でそっと涙を拭われ、レイは、自分が涙を流していたことに気づいた。

 

「あのふたり、どこでラブシーン演じてるんだ!」

 アールの声に、

「いいじゃない素敵なら、ほら、周りも撮影か何かと勘違いしてるから大丈夫。」

 チーはうっとりで言う。

「よくありません! 誰か止めに・・」

「イー大丈夫だよ、抱き合うわけじゃない、もう少し話しさせてあげて。」

 リュウが言ったのにはイーも少し驚いた。

 ただ自分達も移動しなければと思った、すでに携帯カメラのシャッター音がしている。


「ごめんなさい、私勝手に涙流れてた。」

 レイは慌てて自分でも涙を拭い謝った。

「謝ることじゃない。」

 スウ自身も思わず言った言葉と行動に、内心驚き照れていた。

「ねぇスウ、その人の人生はしあわせだった?」

 前にもレイに同じ質問をされたとスウは思った、そしてまた同じ答えをする。

「しあわせだったかどうかはその本人にしか分からない。ただ言えるのは、あいつの人生はあいつ自身が決め、信じ続け生き抜いた。簡単なようで誰もができることじゃない。」

「だから年月を経ても語られ、多くの人を魅了するのね。」

 レイにはなんとなくその人が誰なのか分かった気がした、その言葉にスウが、

「おまえ匂わなくても分かったのか?」

「失礼だ! スウ! 真剣に話してたのに。」

「悪い悪い、怒るな。」

 振り上げる小さい手を止めるように掴み、スウは笑いながらギュッと握っていた。

(この手を離したくない。)

 ふと視線の先に、怒り顔のみんなの姿が見え、慌ててレイの手を離した。

「レイ、みんなが待ってる、行こう。」

 ふたりは駆け出しみんなと合流すると、開口一番サンが、

「お待たせされましたぁ〜! あのまま抱き合ってキスでもされたらどうしようかと思ったよ、なっ、リュウ。」

「まっ、まさかぁ、それはないでしょ・・」

(僕にふるな! 僕はすでに見てますとは言えないだろ!)

 リュウは考えると、冬なのに汗ばみ、スウの視線が痛い。

「嫌ねぇみんな、そんなのあるはずないでしょ! スウの中の私は、監視しなきゃならない執事見習い。」

 レイはそう言って笑った。

「そうだったらいいんだけど。僕の中ではいつでも恋人昇格ありだよ。」

 アールはチラッとスウを見ながら言った。

「移動しましょう、周りが騒がしい。」

 イーの言葉に足早に皆は車に向かう。

「桜の頃に来たいわね。」

 チーが呟いた。

 道案内の為レイが助手席に座ると、運転席のスウはふと思った。

(桜みたいな生き方だったのに梅が好きだったよな、あいつ。)

「今、スウ、梅のこと考えたでしょ。」

(な、なんで分かった! レイが俺の心を見た? まさか?)

 驚いた顔のスウを見て、

(心が見えなくても京都にいた私、それくらいは・・)

 レイはほくそ笑む。

「レイ、気持ち悪いです。」

 イーがこの時とばかり言ったのでレイは、

「イー、執念深い、嫌らしい!」

「い、嫌らしい! 君のスゥイーツへの執念には勝てません!」

 みんなが笑った。

 

 次の目的地にはすぐに着いた。

「京の町家だったのね、伯母さんの家。」

 チーは、周りの風景を見ながらレイに言った。

「大学行くまでここに住んでたの、この辺りはあまり変わってない。」

 レイが中学高校時代を過ごした町、昔を残す温かい優しい風が渡る町。

 少ししてイーが言った。

「そろそろ駅に戻りましょうか。」

「ええぇぇ・・!」

 イーの声に反論する声に、イーも反論する。

「君達はどうしたいのですか!」

「もう少し観光。」

「食事もしたいわ。」

 サンの声にチーが付け加える。もうこれ以上反論する気力もなくイーは、

「では、どちらも一ヶ所だけ制限時間内でです!」

「ヤッタァ! イー大好き!」

 大きなため息のイーと共に車は八坂神社へ向かった。

 途中おばんざいやで念願の昼食をとり、通りを歩けば周りが振り返るが8人は全く気にしていない。

 舞妓さんと出会うと8人の方が見とれ、暴走しそうなアールをイーとウーがかろうじて止めた。

 食事は一ヶ所のはずが結局甘味処にも寄らされ、ここではレイの暴走をイーひとりで止め、他の皆は甘味に舌鼓をうち大満足だ。

 暴走は止めたがリュウとレイはなんだかんだと言いながら、互いの注文した物を交換して食べたりし賑やかだった。制限時間などあっという間だ。8人はやっと帰路についた。

 帰りの新幹線の静かだったこと、イーもやっと安堵の息を吐く。

「お疲れ様、イー。」

 ウーが優しく言い、

「君とスウには協力してもらいました、ありがとう。」

 ふたりは微笑む。

レイはなぜかスウの隣りに座っていた、お酒は一滴も飲んでいないがすっかり夢の中だ。皆、目を閉じていた。眠っていたり色々思い出していたり、熟睡中はサンとレイだけのようだ。

スウは自分の肩にもたれ、安心しきって眠るレイの顔を見て思っていた。

(この顔をこれから先もずっと見ていたい。できることなら俺の隣りで眠るレイを・・。)

 明日からはまた忙しい毎日が待っている。8人が一緒ならどんなことでも大丈夫だ。

 そう、どんなことでも・・・。







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