心の底に沈めた想い
レイは満面の笑みでケーキを口に運んでいた、目の前にはもうひとつ、イーの前に置かれたケーキ、結局根負けしてイーはケーキを注文していた。
甘いものを食べない訳ではなかったが、今日はしあわせそうに食べるレイを見ていたかった。
(私がこんな気持ちになるとは、やはり他の皆同様、レイに心を捉えられているのでしょうか?)
イーは考えながらも、その気持ちが嫌ではなかった、むしろ心地好い。
ここに寄った目的を思い出し、
「レイ、食べながらでいいですから私に頼みたいことを話して下さい、あまり遅くなると皆が心配します。」
心配というより余計な事を考えかねない。
「ごめんなさい。でもイー、ここのケーキ本当に美味しいね! いくつでも食べられる。」
「私の分とふたつだけですよ!」
「分かってます!」
少し膨れた顔をしたが思いついたようにレイは、
「みんなにおみやげ持って帰ろう、ねっ!」
(おみやげと言いながら自分も食べ、確実にスウの分も食べるつもりだ。結局私はまた根負けして、おみやげを買わされるのだろう。)
そう思いながらイーは苦笑した。
「何笑ってるの、イー? 気持ち悪いよ。」
「気持ち悪い? 確かに敬語はやめなさいと言いましたが・・その言いよう!」
「怒っちゃダメ! イー、目、青くなるよ。」
(からかっている、私を? それを私は楽しんでいる? なぜレイはこんなに簡単に心に滑り込む?)
イーは自分の気持ちが不思議だった。
「イー、本当に怒った? ごめんなさい。」
「怒っていませんよ。」
「ホント? じゃ、おみやげ買ってね。」
また満面の笑みで言う。
「君のスゥイーツへの執念には勝てません、分かりましたから話しを。」
レイはケーキをひとつ食べ終えフォークをおくと、少し緊張した顔で話し出した。
内容は単純、一日休みが欲しいというものだった。
基本的には、毎週月曜日が定休日のCafe・dio、レイは十七日の火曜日に休みが欲しいと頼んできた。
「一日くらい構いませんが、君の行動は把握しなければなりません。その日の予定を聞かせて下さい。」
レイの表情が少し硬くなった気がした。
「レイ、言えない事ですか?」
「いえ、違います、ただ少し遠出になるので・・」
「遠出ですか・・どこまでですか? 場合によっては誰か付けなければなりません。」
「えっ、誰かと一緒にしか出掛けられないの?」
「誤解しないで下さい。監視するという言葉通りの意味もありますが、レイは私達と関わったことで本来知らずにすんだ色々なことを知ってしまいました。それをレイから感じとる者と接触するかもしれません。善い者ばかりとはかぎりません、君を守るという意味もあるのです。」
(私を守る。そう、やはり私は守られている。)
レイは思った、感じていたことは間違っていなかったと。
「レイ、どうしました?」
「イー、ありがとう。」
レイは、今まで意識的に心にも思わないようにしていたあの日のことを、全部イーに話そうと決めた。
思い出したくない、でも決して忘れられない。今自分はあの日の上に生きている、あの日を忘れれば今も崩れる・・・
「両親と暮らしていた場所に行きたいんです。」
「ご両親と・・確か君は家族はいないと言っていましたね。まだ生家はあるのですか?」
イーの問いにレイは黙り、
(イー達死神は、永く生きていて色んなことを見聞きしているはず、なら、16年前の出来事なんて、一瞬前のことと言うかもしれない。)
レイがほんの瞬間思った心をイーは見た。
「もしかしたら、行きたい場所は関西ですか?」
「なんで分かるの?」
「16年前、1995年1月17日といえば、私達も忘れられません。」
イーは静かに思い出した。
あの日多くの死神達は、まだ陽も昇らぬ真っ暗な闇の中、かの地に飛んだ。
神からは何枚ものリストが何人ものシロアムに渡され、多くの天使も共に舞い降りた。
神にすら予測できない天災。
神は全てのリストに自らの手で一文を加え、綴られた。
「どのような小さき体の欠片も、たとえ風が吹き飛ばすかもしれぬ灰になろうとも、すべて私の愛しき宝物。必ず、余すことなく宝箱に納めよ。」
5時46分。
その時間から地獄絵図のような光景が目の前に広がる。
陽が昇り、闇が散らされても、そこかしこであがる炎と視界を遮る白煙と黒煙。まるで戦禍のような光景・・。
イー達は助けることも出来ずただ納め続けた。死神の中にすら、その場にうずくまり茫然とする者がいたくらいだ。
7人はまだ共同生活はしていなかったが、他の死神同様に集まっていた。
皆の目には焼き付いている。
幼い命を庇うようにして息絶えた母親。
手を取り合い瓦礫の下に横たわる老夫婦。
自らも怪我を負いながら、親を、子を、愛する人を、助けてくれと泣き叫ぶ人々の、天にも届かんばかりの声。
運命(さだめ)を変えられぬことを、あの日ほど呪ったことはないかもしれない。
しかしそれは神も同じ。
その中にレイもいたというのか、イーは、
「君のご両親はもしかして・・」
「あの日、私を庇いふたりとも瓦礫の下、炎に包まれ亡くなりました。」
イーは次の言葉が出てこなかった。あの光景を目の当たりにしているだけに声にならない。
レイはイーの心を感じ、わざと口角を上げ静かに話しを続けた。
「中学一年生だった私は、今みたいにまだ体も大きくなくて、結構小柄だったの。地震とほぼ同時に両親は私の部屋に飛んで来て、私を起こすと机の下に入れて、でもすぐ横の本棚が両親の上に倒れてきてそれから家が崩れて・・・気づいたら私は近所の人に引っ張り出されていた。」
少しの沈黙の後、
「目の前の崩れた瓦礫の下には両親がいる。微かに母さんの声が聞こえたの・・いきなさい麗!・・って。すぐそばまで炎が迫ってた・・・私、離れたくなかった! そこにいたかった。でも近所の大人が無理やり引っ張っていった。私、おもいっきりその手噛んでやったけど、おじさん私を離さなかった。凄く凄く痛かったと思うのに、おじさん私を離さなかった・・・」
レイの瞳から落ちた雫が銀色のフォークを濡らしキラキラと輝かす、その輝きすら心に痛い。
「もういいですよ、レイ。何も話さなくても私がレイの心を感じます。顔をあげて私を見て。」
ゆっくり顔をあげ自分を見るレイの瞳の雫を、指先で拭った。
店員達は驚いた顔で見ていたが大きなため息を洩らし、イーは慌てた。
(間違いなく誤解されている、しかし、間違いなく目の前のレイは女性なのだ、誤解するならすればいい。)
開き直った。
「イー。」
「なんです、レイ。」
「そのケーキ食べていい?」
「えっ!」
まだ潤んだ目でにっこり笑うレイに呆れたが、イーには分かっていた。
(無意識の内に私を気遣い笑っている。心など見れなくても、目の前のレイは自分自身でも気づかない内にいつも周りの皆のことを感じとり、頭で考えるより先に心が反応している。その心に皆の心も共鳴しているのだ。もちろん私の心も・・行かせてあげなければいけない。・・・誰を一緒に行かせるのかでまた揉めるのでしょうね、いっそ私が一緒に・・皆文句は言わずとも北極より冷たい空気に包まれますね、きっと。)
考えながらイーは苦笑し、いずれにしても皆と相談しなければ仕方ないと思った。
そんなイーの気持ちには気づかず、レイはふたつめのケーキをしあわせそうに食べている。
「イー、ひと口食べる?」
「どうぞ全部お食べ下さい。」
「ありがとう。」
イーは、多分もうここには来れないだろうと思い、ならば根こそぎケーキを買って帰ろうと思った。
(まさかレイの作戦?)
そんな訳はないかと笑う。
「また笑ってるの、イー? 気持ち悪いよ。」
「今日買って帰るケーキは君には食べさせません!」
「ウソだよ! イー、気持ち悪くなんかない! 私、イーのこと大好きだから! 愛してるから・・ケーキ頂戴ね。」
「好きとか愛しているとか簡単に言わない!」
「でも、大好きなのは本当だよ。」
イーの顔が少し紅くなったような気がし、今の言葉で店員達は誤解ではなく確信としただろう。
(それでもいいですか、仕方ない。)
と、イーはまた苦笑した。
レイは最高に上機嫌だ、手には20個のケーキ、何度も嬉しそうにイーの顔を見た。
(ケーキ20個でその笑顔を向けてくれるのなら、安いものかもしれません。)
と、イーは思った。
帰れば難題が待ち受けている、皆はケーキ20個では釣れない。
「ただいま、戻りました。」
イーはさっさと中へ入っていく、
「イー、お塩は?」
「死神に清めの塩はいりません!」
「じゃ、私は?」
「ご自由に。」
帰った途端冷たいと、レイが思っていると、そこにチーが走ってきて摘んでいた塩を軽くかけ、
「ご苦労様、で、どうだった?」
「大丈夫! きっといいお母さんになる!」
「そう、良かった。どんなお話ししたの? えっ!」
レイは、もう二階へ走って行きリビングに飛び込むと、待っていたみんなに嬉しそうに、
「みなさんただいま! おみやげのケーキです。」
「おかえりぃ。」
サンの元気な声以外はみんな普通におかえりとだけ言い、くつろいだままだ。
「ねっ、ケーキ嬉しくなかった?」
「ケーキの前に報告でしょ!」
追いかけてきたチーが言い、
「て、言うか、イーとふたりで食ってきたんだろ。レイはまだ食うの?」
サンが口を尖らせ言う。
「イーがもう言ったの? 内緒、ふたりだけの秘密ねって約束したのに・・」
「ふ〜ん、ふたりだけの秘密にするつもりだったんだ。」
アールが言うとウーも、
「あのイーが、レイとね、変わるもんですね。」
「ケーキなら僕がいくらでも作るのに、普通買ってくるかなぁ。」
さすがにリュウの言葉にはレイも、
「ごめんなさい、リュウ。」
と、謝った。
そんなやりとりも知らず、さっさと着替えたイーがリビングに入ってきた。
「イーのお喋り! 執事は秘密厳守でしょ!」
「はぁ?」
イーとレイ以外、皆はどっと笑った。
「イーが何も言わなくてもおまえの心を見れば分かる、それにその口。」
スウに言われレイは口を隠したが、すぐにスウはその手を掴み、自分がされた時と同じように、顔を近づけ口に鼻をくっつけんばかりに匂いを確認した。
「ブルーベリーのレアチーズケーキ。おまえ、もうひとつ食べてるな。」
「スウこそ警察犬だ!」
レイは真っ赤になりリビングを飛び出し、自分の部屋へ飛び込んだ。
「スッゲェ! スウ! 2個食ったってなんで分かったの?」
驚くサンに、ソファーに腰掛けたスウは、
「あいつが1個だけで終わるわけない、イーの分も食べてるに決まってるだろ!」
さすがスウ、ご明察!
「スウ、あなたいじめっ子ねぇ。小学生じゃないんだから、レイを呼んできてあげなさい。」
チーがたしなめ、
「なんで俺が・・来たきゃ自分で来るだろ。」
「意地悪言ってないで、ほら、早く。」
「面倒臭い・・」
そう言いながらもスウは立ち上がり、レイの部屋の前まで行くと扉をノックし、
「おい! 拗ねてないで出てきてリビングに来い! おまえには報告する義務がある。」
その時だ、きゃっ! と中からレイの声がした。
「どうした! 入るぞ。」
飛び込むと呆然と立つレイの姿があり、着替えかけていたのか上着は脱ぎシャツのボタンも上からいくつか外していたが、背中が露わという訳ではないのでスウは落ち着いて聞いた。
「どうした? レイ。」
振り向いたレイは泣きそうな顔をして、
「お数珠が切れて、数珠玉がバラバラに飛んだ。」
そんなことかとスウは思い、
「探してやるから、そんな顔せずおまえも探せ。」
ふたりで床を這うように探しだした、ひとつ、ふたつ、みっつと、次々見つけ、ほとんど見つけただろうか、最後の一番大きい数珠玉がテーブルの足の陰にあった。
「あった!」
ふたりは同時にそこに進み手を伸ばすと、互いの顔が交差し、意図せずふたりの唇が触れた。
驚き慌てて引くレイと、固まるスウが、
「すまない!」
スウの言葉にレイは声を出せずただ首を横に振った。そこに、
「イーがみんなに相談があるって。」
開けていた扉からリュウが呼びに来た、床に四つん這いのふたりを見て、
「ホントにふたりは警察犬?」
ふたりとも答えがない。
「ちょっと、ふたりとも何か返事してよ。」
スウは先に立ち上がると、レイの手を引き立ち上がらせた。
「ほら、これで全部だ。チーに直してもらえ。」
「ありがとう。」
「ねっ、ふたりとも僕を無視してる?」
「リュウ、すまない、相談だな分かった。」
スウはレイの部屋を出てふと思った、レイが動揺して心が飛ぶかもしれない。
慌ててもう一度レイの前に戻ると、
「えっと・・今は何も考えるな! 思うな! 見られるな!」
(スウとキスしたこと?)
レイはもう思っていた。
「ええええぇ!」
リュウの叫び声に、スウは慌ててその口を塞いだ。
「いいかリュウ、今のは忘れろ! 分かるな!」
口が塞がれたまま、リュウは何度も頷いた。
「スウ、かわいそうだよ、私考えないし思わない、スウに迷惑かけない。今のは事故だよね、衝突事故。ねっ。」
(違う、いや、そうだ、今のは事故。でも迷惑なんて言うな! 俺は・・・)
スウは自分の心を止めた。
「先に行く、着替えたらおまえも・・」
「すぐに行く。」
レイは笑った、スウは心が痛かった。
(なぜ、考えるな、思うななんて言うんだ。あいつの素直で真っ直ぐな優しい心に、皆はどんどん心がほどけているのに。いや、皆じゃない、俺がだ!・・あいつの心が欲しい。)
スウとリュウがリビングに戻ると、イーはレイを待たず話し始めた。全てを聞いたみんなは同じ思いだった。
レイの心の底にあったのに見られなかった想い、レイが唯一見せなかった想い。
外出に異を唱える者などいない。
スウは無言で拳を握り締めていた。
前にレイが垣間見せた心、死に逝く人を見送るのは辛いぞと言ったスウの言葉に、
「誰にも見送られず逝くことの方がもっと辛い。」
レイは言った、そして見送ることが出来なかった想いはもっともっと辛い。確かにそう心が言った。
(なのに俺は、その意味を深く想ってやれなかった。情けない! 自分に腹が立つ!)
スウの心が揺れ、皆も無言だった。
そして、レイが遅れてリビングに入って来たと同時だった、いきなりリュウが、
「みんなで行こうよ、レイが生まれ、住んでいた所。そしたら監視も出来るし守ることも出来る。えっと、こういうの確か・・何とか旅行・・。」
「慰安旅行のことですか? リュウ。」
「そう! 慰安旅行! さすがイー、物知りだね。」
イーはもう笑うしかなかった、あのリュウが言う。しかも全員がもう行く気満々だ。
(グレーもブラックも、皆の頭からはとんでいる。さしずめレインボーですか? 皆の頭の中は・・)
イーが苦笑して、レイだけがキョトンとしていた。
みんなが笑っていた、レイには訳が分からなかったけど、この温かい空気が大好きだと思った。暖炉の優しい炎のせいではない、みんなから伝わる優しい温もり。
「では、十七日は臨時休業とします。前日十六日は定休日ですから、もう覚悟を決めて、一泊二日の慰安旅行です。」
イーが真顔で言い切った。
「やったぁ! このメンバーみんなで旅行なんて初めてじゃん!」
サンが喜ぶ。
「あたり前です。私は今、壊れていくイーを見ている気がします。」
そう言いながらも微笑むウー、チーもウキウキしながら、
「一泊なら宿泊先予約しなくちゃぁね。今から大丈夫かしら?」
「僕がネット予約するよ。」
「リュウ、それは私がします。間違って全員同じ部屋にされては大変です。」
イーはきっぱりと言うと、
「レイ、君の行きたい場所を詳しく教えて下さい。」
「えっ?」
「漠然と関西では範囲が広すぎます。」
(イー、まさか幕を張るつもりか?)
スウはイーの言葉にそれを感じ、ウーもスウの顔を見て互いに目配せする。
(ウー、その時は俺達も協力だ。)
(分かりました、イーを助けましょう。)
このふたりも、イー同様の力を持っていた。
「あの、少しお話しが見えないのですが?」
戸惑いながらレイが言うと、
「だからレイの外出にみんなでついてくの。それも前日のりこみ一泊二日の慰安旅行!」
サンのはしゃぐ声にレイは驚き、
「嘘っ? お店は?」
「当然臨時休業よ。」
チーも嬉しそうに言う。
「そこまでして頂かなくても・・」
まだちゃんと把握できないレイに、
「レイとお泊まりしたいんだ。」
アールの甘い声。
「部屋は別ですから安心なさい。」
ウーの優しい言葉。
「神戸方面は、美味しい洋菓子の宝庫だから。」
リュウの真面目な言葉に、
「関西か、かなり久しぶりだな。」
想いを巡らせるスウの顔。
「・・・そういう事です。」
イーが笑った。
微笑むみんなの顔を見てレイも微笑んだが、次の瞬間目の前にいたイーの胸に飛び込み泣き出した。驚いたイーは、
「皆で行くのは嫌ですか?」
戸惑いながら聞いた。
(違う! そうじゃない。みんなが優しすぎるから、温っかすぎるから、溶けていくの、凍っていた心が・・・ありがとうイー、ありがとうみんな。私、みんなが大好き!)
イーの胸に顔を埋めたまま、レイは心いっぱい思った。声が出ないから、
(飛んでけ! 私の心、私の想い。)
初めて自分の意志で心をみんなに飛ばす。その心はみんなの心に真っ直ぐに飛んできた。
レイに触れることもなく不器用に胸に受け止め、困った顔をしていたイーが、両腕でしっかりレイを抱きしめた。
(こんなに近くで想いを飛ばされたら、心が震えて苦しいです、レイ。)
その光景に全員が驚き、
「どうなってんの? あんなイー想像できねぇ!」
サンが言うと、
「しっ! お子様は黙ってなさい! 素敵な光景じゃない。」
うっとりとしてチーが言ったが、皆がそうだった訳ではない。
「うん、ええっと、イー!」
たまらずウーが呼びかけた。その声に我にかえりイーは慌てて腕をとき、
(皆の前で何をしている、私としたことが・・。)
「冷静を装っても遅いよ、俺、イーのこと誤解してた、そういうの興味ない真面目堅物人間だって。」
ニヤリのサン。黙り込むイーに、
「えっ! イーが言い返さない! どうしようチー。」
「お喋りサン、お黙り!」
やっと全員が笑った、胸から顔をあげ、レイはじっとイーの顔を見つめ、
「おみやげのケーキ食べる?」
「君は・・・夕食前です、食べません!」
「ケチ。」
「ケ、ケチ・・またですか、ケチで結構!」
「じゃ、夕食後のデザート、ね。」
「その熱意で仕事も頑張って下さい。・・それから・・・泣き止んだのなら私の胸から、そろそろ離れて下さい。」
「あっ、ごめんなさい。イーの胸、泣き心地良かった。」
笑うレイにイーは言い返せない。
「泣き心地も寝心地も、僕の方が上だと思うけど。」
アールが言うと、
「寝心地は分からない、アールの胸で寝たことないもん。」
「あたり前だ!」
全員の声が響いた。
深く考えず普通の顔で言っているレイに、皆の方が赤面する。このメンバーで一泊二日の旅行、大丈夫なのだろうか?




