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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第四章 君とともに
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運命の行方 6

「護衛の職務を全うしているはずの男が、自分の娘と恋仲になっていると知れば、公爵の逆鱗(げきりん)に触れるかもしれない。私の監督不行き届きで、君との婚約を取り消されるのが嫌だった。だから私達の結婚を発表するまで、待ってほしいと頼んだ」

「そんな理由で?」

「ああ。他に何が?」


 ニカと一緒になることほど、私にとって大切なことはない。


 ようやく理解したのか、彼女はうろたえ真っ赤な顔をする。


「どうかな、ニカ。疑問は解消した?」

「ええ、まあ……」


 再び唇を()むニカ。

 そんな彼女の頬に、私はそっと手を添える。


「それなら良かった。綺麗で可愛い私のニカ、好きだよ」


 甘く囁く。

 今度こそこの想いが届けばいいと、そう願って。


 顔を近づけるが、またしてもストップがかかってしまう。

 ニカは深呼吸し、口を開いた。


「勘違いしてごめんなさい。ラファエル……私も。私も貴方のことが、好きなの」


 思わず息を()む。

 ニカが認めてくれるとは!


 私は彼女の(ひたい)に自分の額を合わせた。

 至近距離で宝石のような赤い瞳を見つめる。 


「ニカ、嬉しいよ。すぐに応えてもらえるとは思わなかった」


 感極まって、少し(かす)れた声が出る。

 照れているのか、再び強く唇を()みしめるニカ。

 私はその(あご)に手を添えて、自分の方に向かせた。


「ダメだよ。君の愛らしい唇を、これ以上傷つけてはいけない。私が治してあげよう」


 万感の想いでキスをした。

 幼い頃から抱いてきた愛情の、全てを込めて。

 

「待っ……」

「待たない。可愛いニカ、ずっと前からこうしたかったんだ」


 君が唇を噛む度、どんなにこうして触れたかったことか――。


 目を閉じたニカが可愛くて、震えるまつ毛が綺麗で、私の渇望は留まるところを知らない。再び開いた目は潤み、(とろ)けたような顔をしているのがたまらなく愛しい。


 ニカは照れているのか、私の胸に手を置き離れようとする。


 だが今ここで、離すわけにはいかない。

 私は彼女の腰に手を回し、さらに抱き寄せた。


 角度を変えて、彼女の甘い唇を味わう。

 何度も(ついば)み、舌で赤い唇の輪郭をなぞっていく。

 でもまだ足りなかった。

 長年にわたる私の想いは、こんなものでは到底満足できない。


「……ラ、ラファエル」


 ニカが、抗議のような可愛らしい声を上げる。止めようとしているのかもしれないが、その声は逆効果だ。 


「ニカ、好きだよ」


 そう告げて、真っ赤な顔で呼吸を整えているニカの肩を軽く押す。長椅子のクッションの上に背中から倒れるニカ。彼女に(おお)(かぶ)さるようにして、私は長椅子に片足をかけた。


 もう少しだけ、付き合ってもらおうか?


「ま、待った!」


 ところが、慌てて飛び起きたニカが私を拒絶した。手を突っ張って、必死にこの先を阻止しようとする。


 そんな姿も愛らしく、唇の端に思わず笑みが浮かぶ。


「どうしたの? ニカ。まだ軽くしか触れていないのに」

「いえ、もう十分よ。軽くとか重くとかじゃないし、婚姻前にこんなこと……。そろそろ戻らないと、舞踏会が終わってしまうわ」

「舞踏会よりニカがいいな。もう少し、君に(おぼ)れていたい」


 正直な思いを口にして、にっこり笑う。


 ――両想いなんだし、いいよね? 


 けれどニカは私の胸に手を置いたまま、怒ったように言葉を続ける。


「まったくもう! いい加減にして……」


 言い終わらないうちに、外から扉が開かれた。

 誰かと思えば噂の当人、護衛のクレマンだ。


「し、失礼しましたっ。まさか、お二人がその……」


 彼の視線が私達の上に注がれる。


 ――ああそうか、上着を脱いでシャツを羽織(はお)っただけだったな。


 止めようとしたニカの手は、私の裸の胸板の上。

 長椅子の上で(むつ)み合っていたと勘違いされても、おかしくない状況だ。私としては、むしろその方がいい。

 

「違っ……」


 途端に手を引っ込め、おろおろするニカ。

 そんな様子がおかしくて、つい声に出して笑ってしまう。

 するとクレマンの後ろから、ソフィアがひょっこり顔を出す。


「あら、ヴェロニカったら積極的ね」

「違うわ! これはその……」


 赤くなったり青くなったり。

 私の薔薇は本当に、見ているだけでも可愛い。


「そうなんだ。ニカがなかなか私を離してくれなくてね」

「エル!」


 エルと呼ばれたため、気だるげにわざと髪をかき上げる。

 男として見られるよう、もっと努力しようか?


「結婚の時期が決まったと思えば、もうそれなの? 舞踏会を放ってまで二人でいちゃつくなんて、信じられないわ。せっかく今日は、私のデビューなのに」


 ソフィアが頬を(ふく)らませて文句を言うが、彼女なりに義姉の幸せを喜んでいるようだ。


 ニカとソフィアはいがみ合っているようにも見えて、実は仲がいい。そんなソフィアの肩には、クレマンの手が置かれている。


 ほらね? 


 見上げたニカと視線がかち合う。

 じっと見つめる赤い瞳から、私は目が離せない。


 すかさず、ソフィアの不満そうな声が飛ぶ。


「ほら、見つめ合うのはあーとーで。エル、約束通りお父様に話してね? もちろんお母様にもよ。私としては、そっちの方が心配なんだけど……」

「こら、ソフィア。王子に対してなんて口をきくんだ。私が直接話すと言っただろう?」

「だって~すご~く待ったんだもの。私だって早く幸せになりたいわ。エルは王子なんだから、彼のお墨付きがあれば十分でしょ?」

「だからといって、無理にお願いするのは……」


 苦笑交じりのクレマンに、ソフィアが甘えた声を出す。


 やれやれ、彼も今後は苦労しそうだな。


 でもまあ、美人姉妹と名高いローゼス公爵家の妹と仲良くなれたのだ。その点は、私に感謝してもらわないと。


「大変失礼致しました。私達はこれで。どうぞごゆっくり」


 二人が姿を消したので、私はニカに向き直る。


「ごゆっくり、だって。じゃあニカ、続きをしようか」

「しません! 舞踏会に戻らないといけないわ。私達が二人になりたくて消えたのだと、みんなが誤解したらどうするの?」


 自らの発言に青ざめるニカ。

 誤解も何も、私が婚約者に夢中だということはみんなが知っている。


「もう遅いと思うし、このまま戻らなくても私は別に構わないよ?」

「私が構うの! こんなんじゃ、どこにもお嫁に行けないわ」

「そうだね。だからニカ、諦めて早くお嫁においで?」

 

 私は愛しい彼女を見つめ、満足げに微笑んだ。


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