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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第四章 君とともに
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天使が望む者 5

ラファエル視点に戻ります(^_-)

 玉座の間に入る直前、私は彼女に声をかけた。


「ヴェロニカ、いいかな? 今回のことは父も喜ぶと思う」

「ええ。行きましょう」


 あの旅で私はニカに翼を見せて、正式な伴侶と定めた。国王である父は、公務よりもそちらの方が気になるようで、報告を終えた私に尋ねる。


「して、見せたのか?」

「はい」


 肯定する私に、父は満足そうに(うなず)いた。両親ともニカのことを気に入っているからだ。


 緊張していたのか、退室した途端に息を吐きだすニカ。昨夜のことについて何か聞いてくるかと思えば、彼女はただこう言った。


「用事を思い出したの。もう帰るわね」

「疲れが取れていないのかな? ニカ、無理しないで」

「ありがとう、ラファエル。楽しかったわ。さようなら」


 さようなら、と口にされた瞬間、胸が痛む。


 ニカが私から離れて行くはずがないし、刻印がある限りは繋ぎ止められるはず。

 私は首を横に振り不安を払うと、ニカと別れて執務室へ向かった。()まっていた仕事を片付けなければならない。


 扉を開けると、ソフィアとクレマン、新しい護衛のダリルの姿が見えた。


 ――すぐ書類に手をつけようと思っていたのに、どういうことだろう? 


 部屋に入るなり私の正面にソフィアが回り、興奮気味に話しかけてきた。


「この前のお願い、聞いてくれる?」

「戻ったばかりだし、まだだ」

「どうして? どうしてまだなの?」

「言いたいことはわかるが、あと少し待ってほしい」

「もう、エルったらいつもそればっかり! なぜ私達のことをお父様に告げてはいけないの?」

「物事には順序がある。それでなくとも相手は、私の護衛だから」

「そんな!」


 必死に頼むソフィアに、私は目を細める。


 ニカのこともまだなのに、ソフィア達のことにまで手が回るわけがない。忙しいので一旦彼女を帰そうと、私は口を開く。


「約束しよう。舞踏会の後に必ず話す。だから私を信じて、待っていてほしい」


 告げたところで気配を感じる。

 今、何か、扉が閉まる音がしなかったか?


 


 それからしばらくは目が回るほどに忙しく、ニカを天宮に呼ぶことも、公爵家を訪ねることもできなかった。もう少しで秋となり、この国の社交界シーズンが始まる。


 時の経つのは早いもので、今年はソフィアが十六歳となりデビューする。


 ――ニカが婚約破棄を願っていたのは……十八歳となる今年じゃなかったか?


 気づいた瞬間青ざめた。

 破棄する気持ちは欠片(かけら)もないが、舞踏会には準備が必要だ。


 私は残っていた今日の分の書類を片付けると、彼女の家に急いで向かう。


 庭にいるニカを見つけて、近づいた。

 馬車を前にし、何やらごそごそしているようだ。


 改造したのか、馬車は扉が大きくなっていて、中に棚がある。彼女はその棚に本を並べているところだった。


 いったい何をするつもりだろう?


「これはまた、楽しそうなことをしているね」

「ラファエル! どうしてここに?」

「どうして? 婚約者の顔を見に寄るのもダメなの?」

「もうすぐ終わりでしょう? 演技なんてしなくていいから」

「そうだね。演技の必要なんてない」


 演技なんてしなくても、私はとっくに君に夢中だ。ニカにとっては演技でも、私はいつも本気だった。


 でもそうだね、終わりにしようか。この関係もそろそろ限界だ。


「あの……忙しいんだけど」

「冷たいな。で、これはどういう仕組み?」


 本を手に取り馬車を見る。

 ニカは赤い瞳を輝かせて、私に教えてくれた。


「あのね、これは移動図書館というもので、図書館が近くにない地域でも本を貸し出すことができるの。今はまだ一台しかないけれど、いずれ国中に広まればいいな、と思って」


 私は棚に本を戻し、ニカに笑いかける。


「なるほどね、いろんな所を回って本を貸し出すのか。ニカは面白いことを思いつくね?」

「私の考えじゃなくって、以前見かけたことがあるから」

「これも前世の知識?」

「そう」


 答えたニカが美しい顔を曇らせた。

 彼女が悲しそうだと、私まで悲しくなってしまう。 


「ニカ、思い悩むより笑った方が可愛いよ。近いうちにドレスを届けさせるけど、今度は受け取ってくれるね?」

「ドレスって?」

「もうすぐ秋のシーズンだ。当然、私のパートナーとして出席してもらう」


 最初の舞踏会が始まるまで、あと二ヶ月だ。私にはある計画があった。それにはドレスが欠かせないから、どうか断らないでほしい。


「ありがとう。喜んでいただくわ」

「良かった。後日、採寸する者を寄こすから。本当は私が、隅々まで調べたいんだけどね?」

「なっ……」


 良かった、いつも通りのニカだ。

 冗談に慌てる顔が可愛らしい。


 怒って叩くふりをするニカに、私は笑いながら降参したと両手を上げる。早速戻って、腕のいい仕立て屋を厳選しよう。もちろん男性は許さず、女性の仕立て屋限定だ。


 その日の夕方。

 南部の教会から届いたという手紙に、私は目を通す。


『……王子殿下と美しい婚約者様のおかげで、貧しい者への善意溢れる人々の寄付が定着してきました。領主夫人や地域のご婦人方が主体となって、バザーや物々交換なども始められているようです。教会が話し合いの場としても活用され、問題の解決や仕事の斡旋(あっせん)円滑(えんかつ)になりました。また、民と貴族の交流の場ができ、笑顔も多く見られるように。図々しいお願いかとは存じますが、またいつか、お二人でこちらへいらして下さい。いつでも歓迎致しますし、お顔を拝するだけで光栄に存じます』


 便箋を畳み封筒に戻しながら、私は(つぶや)く。


「順調で何よりだ。全てニカ一人の手柄だが……」


 誰からも愛される彼女を、やはり手放すことはできない。


 そのためにも舞踏会は重要だった。


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