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めざせ牢獄!【王子の悪役令嬢溺愛編】  作者: きゃる
第二章 婚約から始めよう
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王子として 4

 後日、もやい綱を解いた犯人が特定された。


 船乗りの試験に落ちたことを恨む者達で、僕の乗船を狙ってのことではなかったようだ。港にある豪華な馬車を見て、船の関係者を困らせてやろうと思ったらしい。


 羽に竜という王家の紋にも気づかないとはね。

 かなりの勉強不足で、落ちたのも当然と言える。


 彼らには鉱山の仕事を回すことにした。きつい労働だがある程度は稼げるし、山に囲まれているため逃げられない。いい薬になるだろう。


 船の管理体制にも問題はある。

 大型船が簡単に動くようでは困るのだ。徹底した管理をすると同時に、安全に留意してもらいたい。


「良い方法はないかな?」


 すると、ニカがまたもや面白いことを言い出した。


「町の人に愛着を持ってもらえばいいのよ。みんなを招待して、乗せてあげたらどう?」

「王家所有の船に? 前例がない」

「ないなら作ればいいと思う。港町に住んでいながら、船のことを知らないのは寂しいもの。こんなに素敵な船が自分達の近くにあるってわかれば、大事に管理してくれるはずよ」


 ニカはそれを、『遊覧船』と呼ぶ。

 近場を巡るだけで航海気分が味わえるから、是非町の人を乗せてあげてほしいとのこと。


「そうか。航海前の訓練にもなるし、その案は良いかもしれない」

「でしょう!」


 僕が賛同したからか、ニカはとっても嬉しそう。

 

 国王である父は驚くが、すぐに許可をくれた。母はニカが好きなので、当然賛成だ。


 船長に手紙を書いたところ、了承の返事が来た。「航海前に民を乗せるのは……」と反対されるかとも思ったが、先日の一件に責任を感じているらしく、否定的な意見は書かれていない。


 

 後日。

 船長の報告によると、男性はもちろん女性や子供は初めて乗る大きな船に、目を丸くしてはしゃいでいたそうだ。

 男の子の何人かは「漁師ではなく船乗りになりたい」とその場で親に申し出るし、ある小さな女の子は「お嫁さんにして」と風の魔法使いに本気で迫っていたという。

「年の差が……」と魔法使いが真面目に返答していたとの記述に、僕は久々に声に出して笑ってしまった。


 子供達に尊敬された船乗り達のやる気も向上し、船内ではこれまでになく良い雰囲気が出来上がったらしい。出航の際は町のみんなが総出で見送り、別れを惜しんだとのこと。港で船を管理する職務の倍率も、近頃急激に跳ね上がったのだとか。


 なるほどニカは頭がいい。

 実際に乗船してもらうと、船に愛着が出るだけでなく、後の人材育成にも繋がるようだ。僕はこのことを伝えるために、早速彼女の家を訪れることにした。




 公爵家に入ると、ソフィアが僕を出迎えてくれた。彼女は僕の顔を見るなり、文句を言い出す。


「あのね、ヴェロニカがまた私に意地悪しようとするの」


 まだ悪役令嬢にこだわっているのか? 


 思わず出そうになったため息を(こら)え、僕はソフィアに聞いてみる。


「意地悪ってどんな?」

「わからない。でも、なーんか動きが怪しいのよね」


 ソフィアの勘は割とよく当たる。

 長年ニカから逃げ回っているせいで、年々足も速くなっていた。


「わかった。任せておいて」

「うふふ、エルったら優しいわ」


 そうでもないけど?

 優しくしたいのは、ニカにだけ。

 肝心の本人が、今の所全く気づいてないけれど。


「で、ニカはどこにいるの?」

「応接室よ。呼ぶまで入って来るなって」


 またそんな、わかり易いいたずらを。

 仕掛けているのがわかっていたら、余計に入りたくなくなるだろう?


「僕が代わりに行こう。ソフィアは安全な所にいて」

「わかったわ」


 護衛に(うなず)くと、僕はまっすぐ応接室に向かうことにした。ノックすると、中から慌てたような声が聞こえてくる。


「え? やだ、ちょっと。まだなんだけど」

「入るよ、ニカ」


 いたずらを阻止しようと、僕は強引に扉を開けた。


「ダメ! ちょっと待って。うわっ」


 急いで走って来たニカが、何かにつまずき転んでしまう。その途端、棚の上の花瓶が倒れて中の水が彼女にかかる。さらに、その反動で上から()るした(おけ)が傾き、中から白い粉が飛び出した。当然ニカは、粉まみれ。


「うえっ!?」


 見れば彼女は、自分で用意した(ひも)に引っかかって転んだようだ。花瓶の口とテーブルの脚が結ばれていたらしい。

 もう一方は、テーブルの脚から本棚を通って頭上の桶へ。テーブルが少しでも動くとバランスが崩れて、傾く仕掛けになっている。


 銀色の紐は、光っているからすぐわかるのに。自分の罠に自分でかかるところも、相変わらずニカらしい。


「ちょっと待ってって、ちゃんと言ったのに~」


 例によって、ソフィアのために粉の量を調節したのか、そこまでひどくはない。


「ごめんね、ニカ。よく聞こえなかったんだ」


 もちろん嘘だけど。

 これなら別に阻止しなくても、ソフィアは楽に自分で避けられただろう。


 腕を引いてニカを立たせた僕は、粉を落とすフリをしてあちこち触ることにする。背中や腰、細くて小さな肩や粉で白くなった髪も。まあ、さすがに胸は遠慮したが。


「失敗したけど、これってある意味成功……なのかしら?」


 ぶつぶつ呟いているようだけど、自分が引っかかっている時点で明らかに失敗だよね? 


 されるがままのニカが可愛いので、僕は粉が飛び白くなった彼女の頬を()めてみる。


「な、なな、な……エル、今いったい何を!」

「何って……これは、小麦粉?」

「そうよ、何だと思ったの? って、いきなり舐めるの変だから」

「仕方ないよ、すごく美味しそうだったから」

「こ、子供のくせに!」

「子供? 小麦粉とどんな関係があるの?」


 ませていると言いたいのだろうが、僕はわからないフリをして首を(かし)げた。

  

「な、何でもないっ」


 真っ赤な顔で慌てるニカは、粉まみれでも愛らしい。頭が良いのにドジな君は、大人っぽい考え方をする割には、子供っぽいいたずらもする。


 僕の婚約者は、どうしてこんなに可愛いのだろう?


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