ホームパーティ
四、女装男子と嘘とこれから
「……レッツパーティターイム」
なぜ私がこんな事をと不満げに思っていることが顔に出すぎの柏木さんの掛け声で、竜宮寺家主催のホームパーティが始まった。
場所は花音さんの家の庭。
とても広くて喫茶店のテラスに置かれているようなテーブルが八つあって半分は料理を置いておくためだけに使われていた。
緑の芝生の絨毯と白いテーブル青い空、出来すぎた色調と天気に今日という日を喜ばずにはいられない。
料理もパーティー料理とでも言えばいいのかな? よく聞く名前だけど食べたことは無いものがずらりと並んでいる。
「キャー! 柏木さん執事服サイコー!!」
母さん……興奮しすぎの今の様子を見ていると母親と認めたく無い気もするけど、母さんもホームパーティに招待されていた。そして遠慮することも無く快諾し、柏木さんを始めて見た瞬間「あなた執事服に興味は無い!?」と言って柏木さんの返事を待つことなくどこに持っていたのか服を取り出して着替えさせていた。
でも母さんが興奮するのも分かる。それほどに柏木さんと執事服はベストマッチしていた。
「うむ、似合っているぞ柏木」
「うう……ひどいですご主人様」
助けてくれない主人にすがるような視線を送る柏木さんは新鮮で可愛らしい。
「おにぃ! 柏木さんがなんか大変だよ!? 私、今の柏木さんを見てると……体の内側から分からないワクワクが溢れて来る!」
「藍、それが萌えよ! 恥ずかしがる事は無いの! 思い感じるがままにに開放しなさい!」
藍が執事萌えに目覚めそうになっていた。母さんの娘な時点でサラブレッドなのだから仕方が無いと言えばそうなのかも知れない。
そんな和やかな雰囲気の中僕は決着を付けなければいけなかった。
それはもちろんお見合いを中止にしてしまった事だ。あれから少し時間が空いてしまったけど、僕はまだ直接源次さんに謝罪をしていなかった。
「げ、源次さん!」
「お父さんなどと呼ばれる筋合いは無いわぁああ!」
「――ッ!?」
豪快に笑っていた源次さんを後ろから呼ぶと、意味の分からない返答が来た。僕はもう一度心を強く持って話を始める。
「あ、あの。お見合いの事本当にすみませんでした。僕の暴走で滅茶苦茶にしてしまって……」
「あぁ、その事なら気にするな。夕貴の気持ちを知ろうとせずに話を進めた私も悪い」
「いえ、でも僕のした事は許されないです……その、お家の事とかもあるのでしょうし」
「うむ。家同士の付き合いとしては非常にまずいことになった!」
あぁ、やっぱりそうなんだ。まだ高校生の僕には想像もできないけど、お金持ち同士の家の関係性って庶民よりも大変なのはなんとなく分かる。
「本当にすみません。どうしたらいいか分からなくて……僕はどうすればいいですか?」
「ワッハッハ! 冗談だ! 何もしなくていい。それに桜庭家側に事情を説明したが怒ってはいなかったよ。むしろ修一君は、花音に君の様な友達がいる事を嬉しく考えているようだ」
「そ、そうですか……」
源次さんの言っていることは僕のための嘘かも知れないけど、もしも本当だったらとても嬉しい事だ。花音さんは自分に嘘をつくことなく修一さんと付き合っていける。
「そうだ。うむ、君の様な友達、あくまで友達がいることを喜んでいたぞ。友達で間違いは無いのだな? 間違っても私の事をお父さんと呼ぶつもりは無いな?」
源次さんは体一つ分近寄ってそんな事を言う。圧力が凄い、というか表情が怖い。はっ! これが噂に聞く圧迫面接!? 僕が花音さんの友人として相応しいか判断しているのかも。
「は、はい。花音さんは大切な友達です」
僕が答えると源次さんは元の位置に戻る。
「いや、それならいいんだ! うむ、安心した。それにしても、君が男だと聞いた時には信じられなかったが……今じっくり見ても信じられんな!」
源次さんは微塵の悪意も感じさせること無くそんな事を言ってのける。
「あ、あの、僕が男って事を隠していた事には何のお咎めも無いんですか?」
「ん? あぁ、怒れと言うならいつでも怒れるぞ? 娘と一緒に寝たこととかプールの事とかもあるしな」
「ご、ごめんなさい!」
「ハッハ、いやいいのだ。君はそれ以上に十分嘘の報いを受けたそうじゃないか。そんな少年に追い討ちを掛ける私では無い」
「は、はい……ありがとうございます」
僕は安心からか少し涙が出そうだった。今日一番不安だったのは源次さんと話すことだったから。こんなに優しくしてもらえるとは思っていなかった。
「メソメソするな! それで本当にキン○マ付いてるのか!」
源次さんはそう言って手を僕の股間に伸ばした。
――掴まれる!?
「下品です、旦那様」
そう思った瞬間、いつの間にか傍にいた柏木さんが源次さんの手を止めた。
一瞬背筋が凍ったけど、さすがは柏木さんだ。
「いいじゃないか、男同士なんだから」
「そうですが、美少女の股間を弄る旦那様の絵は……犯罪です」
「お、男同士だからいいじゃねぇか……」
遠くで母さんが『男同士』という単語に反応して悶えているけど放っておこう。
「まぁ掴むのはまた今度にしよう! 夕貴君、楽しんで行ってくれ。私は仕事があるので失礼するよ」
源次さんは不穏な事を口にして去っていった。次は掴まれるのか……。
「申し訳ありません、夕貴様」
柏木さんが僕の様子を見て何か感じたのか謝罪をする。うん、まぁ怖かったけどね。
「い、いえいいんです。いや良くないですけど。親しく接してもらえて嬉しいです」
「ふふ、旦那様も本気で掴む気はありませんよ、多分」
しれっと最後に多分を付ける辺りが柏木さんだ。
「そういえば、前はご主人様って呼んでいませんでしたか?」
「今は執事ですから!」
柏木さんはキリッと表情を決める。
「そ、そうですか……」
なにやら本人の中でルールがあるらしい。というか今日無理やり執事服になった割りにはノリノリだ。最初は恥ずかしがっていたけど実は結構好きだったりするのかな?
まぁ変身願望は誰にでもある物だよね。その最たる例の僕が言うのだから間違いない。
「えぇ。お嬢様とは元に戻れたようですね」
「あ、はい。柏木さんのおかげです。あの日に柏木さんが来てくれなかったらどうなってたか分からないです」
茜さんが電柱に隠れていたことも分からなかったし、花音さんが僕を許すつもりだったと聞かなければ彼女に話しかける夕貴さえも持て無くなっていたかも。
そう考えると柏木さんには感謝してもしきれない恩があると思う。
「いえいえ、そんなことは無いですよ。夕貴様ならいつかは解決したでしょう。でもそれが早まったのは私のおかげ、と言ってもいいかも知れませんね」
「はい。僕も花音さんと元の関係に戻れてよかったです」
もう無防備に寄って来てくれないと思うと少し寂しいけど。
「本当に、元通りですね……もう少し何やら進展があると思っていましたのに。お嬢様も不憫です」
柏木さんは眉を下げて残念なものを見るように僕を見た。
「な、なんのことですか?」
「いえ、何でも無いのです。これは私が言ってしまったら台無しですからね」
一体何のことだろう、見当も付かない。僕的には今が一番幸せな形なんだけどな……。
「それと今日も……無理をお願いして済みませんでした」
「あぁ、いえ。縛ることは大好きなので、問題ありません。抵抗されると余計に燃えました」
柏木さんが恍惚の表情を浮かべて、端のテーブルに座っている茜さんを見た。
まだ完結ではないですが評価、お気に入りをお願いします(´;ω;`)
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