花音さん!
「待ち合わせがあるって言ってたよね。すぐにここだって分かったよ。二人がいつも一緒にいた場所。私が入りたくても入れなかったこの場所。羨ましかったんだ、夕貴ちゃんを独り占めにする竜宮寺さんが。私が彼女の立場ならってずっと考えてた。……だから今日、竜宮司さんに言っちゃったんだ。「待ち合わせは無し、嘘をついていた僕が悪かったんだ」って夕貴ちゃんからの伝言だって」
「そんな、何でそんなこと……ひどいよ」
「ひどい? ひどいのはどっちかなぁ、女の子騙しておいて自分だけ幸せになろうなんて調子がいいんじゃないかな? ねぇ……夕貴ちゃん」
目の前で涙を溜めながら僕を責める彼女を見て、僕は分かった。
この人も僕が傷つけたんだ。
嘘をついてまで学校に通った僕のせいで、過去に苦しんだ茜さんにもう一度同じ苦しみを与えてしまったんだ。
「自分を騙していた男の話と私の話、竜宮寺さんはどっちを信じるかな?」
考えるまでも無い問題に僕は絶望した。頭の中には後悔という形の記憶が羅列されるようにグルグル回って、自分の浅はかさに嫌になる。
僕は一人なんだ。
「フフフフフ、ざまぁみろ。人を傷つけといて自分だけ救われると思ったの? 甘い甘い大甘だよ。私はあんたみたいのを認めない許さない!」
茜さんは上機嫌でその場でクルクル回る。壁が無くなった彼女は狂気じみた怖さが付いて回っている。
「どっちを信じるかと言ったかな? 茜君」
突然だった。
僕と茜さんしかいない空間に、現れるはずの無い人がドアを開けて言い放った。
茜さんは回るのをやめてその人を睨む。いや、睨むというより驚いて凝視している。
僕も驚いているという点では茜さんと同じだった。でも違うのは恐ろしいほど巨大な喜びの感情が溢れている所だ。
僕は感情を抑えきれずに彼女の名前を叫んだ。
「花音さん!!」
「夕貴、済まない。待たせたな」
彼女は威風堂々仁王立ち。午前中に見せた戸惑いの表情は少しも無かった。彼女は救いのヒーローの様に見えた。
「何で、何で来るの? おかしいでしょう。騙されてたんでしょ? 信じてた相手に。許せないでしょ? 少なくとも私は許せなかった! 自分を裏切った人を許せるわけがない!」
茜さんが悲鳴を上げるように言う。
「騙されていたさ。怒りもした。でも夕貴は逃げずに打ち明けてくれたんだ。そんな人を憎み続けることは私にはできない。茜君には悪いが話は聞かせてもらったよ。父親に裏切られた君は確かに同情するに値する。だがしかし、その苦しみを知っているのになぜそれを夕貴に与えようとした! 夕貴は自分の過ちを私の事を救うために活かしてくれたぞ!」
「うるさい、うるさいよ。違うでしょ、あんたと私じゃ状況が違う! あんたは恵まれすぎなんだよ。だから私の苦しみにも気付かないし分からない!」
「でも嘘を付かれる苦しみを一番理解しているのは君だろう。なぜそれを夕貴のために活かさない? 夕貴を救える状況にいたのは君だろう。私は駄目だった。肝心な時に傍にいてやれなかったんだ!」
花音さんが茜さんに一歩一歩距離を縮める。
「救う? 助ける? 何それ……そんなの偽善でしょ? 私だけ苦しんで、女の子を好きになっちゃうようになって、一目惚れした女の子に騙されていて……その相手を救え? 偽善でしょそんなの。あんただって、実際何にもしていない。夕貴ちゃんが苦しんだのはあんたが夕貴ちゃんを信じなかったからでしょう?」
「くっ……っ! この馬鹿者がぁああああ!」
花音さんが拳を振りかざす。
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