体温
――真っ暗な部屋の中、僕は一人考えていた。
「僕と関係のある人かぁ……」
母さんの言ってる事は間違いは無いと思うんだけど……ストーカーされるほど好かれてる男子とかいないしなぁ。他に考えられるのは遊んだことのある女の子の誰か? でも僕の家に来る理由も無いし、秘密を知ったとしてもあそこまで酷い方法でバラしたりするかな……。
考えていても仕方が無い。今日はもう寝よう。
まどろみの中自然と浮かんで来るのは花音さんの事だ。二人で特訓した事、花音さんの本音を聞けた事、お見合いを潰してしまった事、そして今日の花音さんの表情。
やっぱり一番気になるのは花音さんの事なんだ。柏木さんに伝言を頼んだけど、明日になったらどうにかしてコンタクトを取ろう。
――意識が遠退いて行く中、微かに残った触覚が機能してベッドへの侵入者の気配を感知した。
「藍……? どうしたの?」
「おにぃ、覚えてる? 一緒に寝てくれるって言った事。その約束今発動」
ベッドに潜り込んで来た藍が横向きに寝る僕の背中に寄り添って来た。背中に感じる微かな柔らかさ、背中合わせじゃ無くて抱き枕の様にされているな。
「覚えてるよ。というか、藍が嫌じゃ無ければいつでも一緒に寝るよ。兄弟なんだから」
「――ッ!? 今宵一度限りのチャンスかと思いきやまさかの永久招待券!?」
「いや、永久だとちょっと困るかな……僕はどうなるか分からないけど、藍は彼氏を作ったりして少しずつ兄離れしてってもらわないと」
「スースー」
「わざとらしく寝息を立てないの、さっき話してから数秒しか経ってないよ」
「おにぃは可愛い妹にひどい仕打ちをしたのです。妹にはシカトする権利があります」
「まぁ……後何年かはいつでもおいでと言う事で」
「……今はそれで譲歩してあげよう」
「何で藍がそんなに偉そうなの!?」
「妹だから。いいから早く寝よう? 一人じゃ眠れなかったんでしょう?」
そう言って背中に強く抱きついてくる藍は温かい。
本当は何で藍が来たのかは分かっている。僕が心配で、近くに居てくれようとしているんだ。
……まぁ、一人でも寝られそうだったけど。
「ありがとうね、藍」
僕は寝返りを打って藍を抱きしめた。
「あ、あにゃ、にゃにゃにゃ!? い、いいって事よ! マイブラザー!」
少し藍の言動がおかしくなってしまったけど、今は僕の感謝を真っ直ぐに伝えたい。
「おやすみ、藍」
「お、おおやすみ!」
僕の腕の中で身動ぎ一つ取らない妹はとても優しい。茜さんが言っていた様に頼りになる妹だ。
ん? 茜さんが言っていた?
「こんな状態で寝られるかぁああああ!」
僕が違和感を持った瞬間、藍がいきなり叫んだ。そのまま藍は僕の腕から逃れる様に寝返り、背中を向けてしまった。
たまにおかしな妹だ。とりあえず背中を抱き枕として利用させて頂こう。
真っ暗な部屋の中、妹を抱きながら僕は考える。しかし答えが出る前に僕の意識は消えて行った。多分温かい体温のせいだと思うんだ。
まだ完結ではないですが評価、お気に入りをお願いします(´;ω;`)
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