クローゼットの中で
「はい、結婚しても学校に行きたいです」
「うん、僕もそれがいいと思うよ。高校生の時にしか経験できないものってあると思うから、学校に行くのは賛成だ。周囲の目にさらされるかも知れないけど、大丈夫かい?」
「えぇ、もうこの話を知っている友人もいるのです。応援もしてくれています」
花音さんと修一さんの会話は続いて行く。花音さんはいつもの断定口調を抑えて普通の女の子の様に話をして、相手も花音さんを気に入ってる様子だ。花音さんのことも心配してくれているみたいだし、いい人だ。
「な~んだ全然心配すること無かったね、相手の人も花音ちゃんの事気に入ってるみたいだし」
「うん、そうだね」
確かに藍の言うとおり何の問題も無いように思う。
でも僕の罪悪感は無くならない。どうしてなんだろう、自分でも分からない所でこのままじゃ駄目だと脳が判断しているんだ。
「それにしても花音ちゃんすごいねぇ。あれって私が提案したキャラを作っちゃうってやつでしょ? 全然違和感無く演じてるじゃん! 相手の人もあそこまで自然じゃ気付かなくても無理無いよ」
あ……そうか。
藍の一言で、分かった。
罪悪感の正体が浮かび上がる。
「どうしよう藍、僕は間違えていたかもしれない」
「……なんで?」
「だって、もしこれで見合いがうまくいっても花音さんはずっと演技をし続けなきゃいけないんだよ?」
「そうだけど……しょうがないじゃん。本当の自分じゃ好きになってもらえないなら、演技でもなんでもするしか無いんだよ」
そうなのかな……藍が言ってることは正しく思える。
でも藍がそう言えるのは、ずっと嘘をつき続ける事の苦しみを知らないからだ。
騙されている方は気付かなければ辛くは無い。でも騙してる方はずっと苦しいんだ。最初は苦しく無くても相手の事が分かるたびに、仲良くなるたびに苦しさは増していく。
高校に入って女装をして、みんなを騙して、友達の花音さんすらも騙している僕にはその苦しみが分かっている。
でもそれなのに……。
僕は藍さんに同じ苦しみを与えてしまっていたんだ。これが僕の感じていた罪悪感の正体……今になって気が付くなんて、僕はなんて馬鹿なんだろう。特訓の時に気付けていれば……いや、あの時はまだそんなに仲が良いわけじゃ無かったからそんなに苦しくは無かったっけ。
「あーあ、仲良くなったからこそ気付けるなんて……」
さっきまでは普段の花音さんがバレ無いように応援していたのに、今ではその事を後悔している。
「人を騙す事なんて、良くあることだよ?」
「違うんだ藍。僕は、苦しくなることが分かっているのに止められない自分が情けないんだ」
「……苦しくなるとかはよく分かんないけど、おにぃはこのお見合いを止めたいんだね?」
「うん……」
だけどもう遅いよ。今出て行ったら花音さんには迷惑にしかならない。
「じゃあ、行動するべし。だよ!」
藍はクローゼットの入り口を指さし、今止めろとゼスチャーをする。
「いやでも……」
「にゃー、もう! 花音さんの事が好きなんでしょう!? グダグダ理由を考えて動けないんだったら――」
「僕が花音さんの事が好き!? 違うよ藍そうじゃなくて僕は――」
何をするつもりだ藍!? なんでそんなに足を折りたたんで今にも蹴りが出そうなポーズになってるの!?
「――何も考えずに行って来い! バカおにぃ!」
藍に蹴られてその勢いでクローゼットの扉が開く。
僕はお見合い中の二人の前に蹴り出されてしまった。
まだ完結ではないですが評価、お気に入りをお願いします(´;ω;`)
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