彼女の友人として
「作戦は練り終わりましたか?」
階段を下りてきた柏木さんに声をかけられる。花音さんの姿は無かった。
「えぇ、大丈夫です。藍のおかげで決心が付きました」
「フフ、楽しみです。お嬢様をよろしくお願いしますね」
「はい、自信は無いですけど、自分にできることをやります」
「私はこれからお見合いの席に出す飲み物の準備をしますのでこれで失礼します」
そう言って柏木さんは二階に戻って行った。僕達も早く行動しないと、お見合いが始まる前にクローゼットに入っとかないと、チャンスが無くなってしまう。
「さぁ藍、急いで僕とクローゼットの中に!」
「なんかファンタジー物の映画に出てきそうなセリフだね」
僕と藍はお見合いの部屋に向かう。まぁでも入るだけだから誰かに見つからない限り簡単にミッションは達せられると思う。
階段を上って分かった。そうは問屋が卸さない。
階段を上がった所で待っていたのは花音さんだ。
「わぁ~、花音ちゃん可愛い! 格好良い!」
テンションが上がるのは藍だ。誰だって今の花音さんの姿を見たら感嘆せずにはいられないだろう。
「ありがとう、藍君。夕貴、なぜ君が慌ただしく動いているんだ? 見合いをするのは私だぞ?」
「いや、それはえっと……」
クローゼットの中で見守る作戦を考えていたなんて本人に言えるはずが無い。どうにかして誤魔化そうとする僕を見て花音さんは微笑んだ。
「夕貴の事だ、私のために動いてくれているのだろう? でもそれはもういい。気持ちは伝わっているさ」
「花音さん……」
「私は見合い相手を迎える準備をしなくてはならない。夕貴とゆっくり話す時間も今は無い。だから一言、がんばれとだけ言って欲しくてな。ハハ、心は決めたつもりだが、いざ目の前になってみると存外緊張してしまっていてな。情けないよ」
花音さんが自分の左腕を掴む。彼女は腕は小さく震えていた。
「大丈夫だよ、花音さん」
僕はそう声をかけて彼女を抱きしめる。一人の友人として。
「がんばれ」
耳元で囁くように言うと花音さんはコクリと頷いた。
「あぁ、がんばる」
体を離して振りかえり、彼女は歩き出す。僕を信頼してくれている彼女は今、自分を殺して家族のためになる道を歩き出したんだ。僕を襲う胸の痛みは今日一番の鈍い痛さだった。
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