鈍感な兄
「藍! ちょっと話がしたいんだけど」
「……」
テレビを見続けていた藍に声をかけても返事が無い。正面に回り込むと……あぁそうだこの子怒ってたんだっけ。藍は恐ろしいほどの仏頂面を浮かべていた。
「花音さんのことで話があるんだ」
「花音さん……ねぇ」
「アイス奢るからさ、相談に乗って欲しいんだ」
「そんなので私を釣ろうと思うほど花音ちゃんが大切なんだ、ふーん。妹の私は夜ほったらかしなのにねェ、それでいいのかなぁおにぃとして、家族として」
あぁ、物凄く拗ねていらっしゃる。テレビなんて見てるから機嫌直ってると思ったのに。
「そ、それはごめん。僕だって藍の事は大切に思ってるよ! 頼りにもしているし最高の妹だよ! だから力を貸してくださいお願いします」
「大切……ふむふむ私のこと大切なんだ? じゃあ、今夜は私と一緒に寝てくれる?」
「あぁ! もちろん!」
そのくらいの事だったら全然いい。妹だし、むしろ兄弟の仲が良くなっていいことじゃないか!
「それから、私のこと……愛してくれてる?」
「当然だろう!! 何当たり前の事聞いてるんだ?」
家族なんだから愛してるのは当然だろう。もちろん恋愛対象ではないけども。
「うにゃ~、もうおにぃったら大胆なんだから! そんなにはっきり言われたら私照れちゃうよ! よし、何でも相談に乗ってあげましょうではないですかっ!」
恥ずかしがるように頭を掻きながらニヤける藍。どこにそこまで機嫌が直るポイントがあったのか分からないけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
「ありがとうっ! それでさっそく何だけど、花音さんのお見合いに潜入したいんだ! クローゼットの中に入って見守りたい!」
「おにぃ!? 常識はずれにも程があるんじゃないかな!?」
藍が目を見開いて最大の驚きを表現していた。すごいなぁ、人間って驚きすぎるとこんな表情になるんだ。
「僕もそう思うけど……なんかスッキリしないんだ、胸の中で何かつかえてる感じっていうか、モヤモヤするって言うか……このまま花音さんの見合いが進んだら僕は凄く後悔しそうで……でも答えが見つからない。だからせめて近くで見ていたいんだ!」
僕の気持ちはおかしいのだろうか? 親友とも言える友達が気になってお見合いを覗いてしまう事はそんなに変なことなのかな?
「おにぃ……それって多分、恋わずら……ううん何でも無い。あ~もうっ! しょうがないなぁ、私も一緒に入ってあげるよ。おにぃだけじゃ何するか分からなくて不安だし! でもくれぐれもお見合いの邪魔とかしちゃだめだからね!」
「ありがとう、藍!」
藍の優しさに感動して抱きしめる。僕よりも少し背の低いその体は柔らかくて抱き心地抜群だった。
「教えちゃったら私のチャンスが無くなっちゃうじゃん……」
「ん? 藍なんか言った?」
「もっと強くって言ったの!」
そう言って藍も僕に抱きつく。あぁ、兄弟愛って美しいなぁ。僕はこんなに優しい妹を持てて幸せだ。
「バカ……」
うん、僕がやることは本当に馬鹿だよなぁ。
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