ベッドイン
「なぁ夕貴、今夜は一緒に寝ないか?」
名前で呼び合うようになって数分、ベッドに座りながら二人で話を続けていると花音さんが唐突に言い放った。
「え? えぇ?」
僕は動揺が隠せなかった。だって、女の子と一緒に寝るなんて……そんなのイケないよ! 僕達まだ出会って間も無いのに。そりゃあ入学以来ずっと一緒にいたから多少の感情は持っているし、花音さんは綺麗だし、僕だって一緒に寝てみたい気持ちはある。あるさ、男の子だもん。
「一人では眠れそうに無いんだ。頼むよ」
花音さんは少し甘えるように首を傾げて言った。
え? 何これ、反則的に可愛くないですか? あぁあれだ。男相手だったら絶対こんな姿見せないんだろうけど、僕のことを女の子だと思っているからこんなにも無防備で可愛いんだ。いや、だってこの可愛さ、サッカーで言うならジダンのヘッドバッドクラスの反則だよ?
「なぁいいだろう?」
手を絡むように繋がれてしまった。おおう、花音さんの手の温かさがダイレクトに伝わってくるよ。
「いや、でも……ほら! 藍が部屋で待っているし」
僕は花音さんを騙していることに引け目を感じ始めていた。だってこんなに心を開いてくれているのに僕は嘘をついているんだ。そんな状態で一緒に寝るだなんて、彼女を裏切ることになってしまいそうで気が引ける。
「藍君か、この時間までこの部屋に乱入して来ないことを考えると既に寝てしまっているだろう」
花音さんは冷静だった。確かに僕もそう思う。プール、夕食、そして満腹状態での入浴。九分九厘既に寝てしまっているだろう。あ、入浴と言っても花音さんとは一緒に入っていない。用意してもらった部屋に備え付けの物を使ったんだ。それでも僕の家の風呂より立派だったけど。
花音さんには「風呂も一緒に入ろうか」って誘われたんだけど、プールでさえ誤魔化すのが大変だったんだ、一緒に入る勇気なんて僕には無かった。
「ほら、二人で寝ると狭くてよく寝られないかも……」
「ふむ、このベッドでもか?」
腰かけているベッドをポムポム叩く花音さん。うん、クイーンサイズのベッドだもん、二人で寝るくらい訳無いよね。
「いや、でも……」
僕は言いわけを探す。しかしもう断る理由が見つからない。むしろこの流れで断る方が不自然じゃないか?
「夕貴は、私と寝るのがそんなに嫌なのか?」
眉を下げベッドにのの字を書く仕草をする花音さん。もう駄目だ、そんな事をされて断ったら男が廃る。この場合はちょっと違うかも知れないけど、ここまで求められているに断るのは人間としてどうかと思うんだよ僕は。
だから僕は花音さんと寝る。
お見合い前夜の彼女と一緒に寝る! あぁなんて背徳的なシチュエーション。
「じゃあ、わかった」
「そうか! 嬉しいぞ!」
そんな真っ直ぐな言葉で喜びを伝える花音さんを見ると、少し心が痛まない訳でも無い。
「そうと決まればもう寝よう」
花音さんは布団の中に入り自分の横をポンポンと叩く。ここに来いって意味だろうけど、ちょっと近くない?
「いや、ほらまだ寝るには早いし」
壁に掛けてあった時計が一度だけ鳴り響く。夜中なのは承知してるけど、時計までが僕を追いつめなくてもいいじゃないか。
「夜更かしをして明日に影響が出たら嫌だから、もう寝るんだ。ほら、こっちに来い!」
痺れを切らした花音さんが僕の腕を引っ張って強引にベッドに入れられた。女の子との初めてのベッドインだ。
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