花音さん
「ちょ、ちょっと! なんで脱ぐの!?」
「いや、着替えなければ見てもらえないじゃないか」
「そ、そうだねぇ」
自分でも自分の発言がおかしいとは思うけど、女の子が着替える所なんて見れないよ! 女装してると言っても僕は男、健全な反応もしてしまうんだ。しかしそんなことを竜宮寺さんに言える訳もなく彼女は着替えを続ける。そしてパンツ、下着では無い方のパンツに手がかかる。
僕はこれ以上見えないように目を閉じた。薄眼を開けてなんて、いないんだからね!
「ほら、着替えたぞ目を開けろ。まったく、人の裸を見てはいけない物の様に扱いおって」
愚痴る竜宮寺さんをよそに、目を開いた僕は言葉を失っていた。
「ん? どうした、なぜ何も言わないんだ? ハッ、まさか似合っていなかったか? 自分で着てみた中ではこれが一番良いと思ったのだが」
身を捩って背を確認する竜宮寺さんは不安そうに呟いた。
「そ、そうじゃないよ」
白地に銀のラインが胸元から裾にかけて刺しゅうされた丈の短い薄手のコート、スカートは黒地に白のフリル。フワフワのスカートとシックな感じを出したコート、そしてロリータファッションの要である少女らしさ、その全てがベストマッチした完成形が目の前にあった。竜宮寺さんの高い身長がギャップになってより一層可愛さが増している。
「さ、最強に可愛いと思う!」
お世辞でも嘘でも無い。言葉が勝手に口から発せられていた。
「さ、最強か! う、うむ。それは可愛いの在り方としてどうかと思うが……夕貴が可愛いと言うのなら間違いは無いだろう」
さっきまでの不安な表情とは打って変わって竜宮寺さんの顔は嬉しそうだった。クルリとその場で回っては「どうだ、可愛いか!?」なんて聞いてくる彼女は、例え洋服が無くても可愛く思えたと思う。
「そうだ夕貴、もう一度踊ろう! この格好で!」
「え、えぇ?」
僕の返事も待たずに手を取り、夕食の時の様に踊りだす竜宮寺さん。多分竜宮寺さんが踊っているのは本来男が踊るものだと思う。
女装をして、女の子のダンスを踊る僕。
可愛らしいのに、男のダンスを踊る竜宮寺さん。
歪な関係だけど、僕はこのままでもいいと思えた。
竜宮寺さんが笑っていられればそれでいいじゃないか。
源次さんが言うように、竜宮寺さんの友達でいられたら、彼女はずっと笑っていてくれるんじゃないかと、そう思った。
女装の僕を可愛いと、初めて認めてくれた人。その人の横にずっといる、それだけなら女装が趣味の僕でも願っていいんじゃないかな。
「ねぇ、竜宮寺さん……」
「なんだ! 夕貴」
彼女は力強く踊り続ける。格好良く、そして可愛く。
「花音さんって呼んでもいいかな?」
僕は近づきたかった。
偽りの自分を作る彼女と僕はよく似ていて、それでも真っ直ぐに進む彼女は格好よかったから、可愛い物好きの僕でも憧れてしまうほどに。
同じ高さに、隣に立ちたかったんだ。
「アッハッハ! やっとか! いつ名前で呼んでくれるのかと心待ちにしていたんだぞ。私は夕貴のことを名前で呼んでいると言うのに、夕貴はいつまでも竜宮寺さん竜宮寺さんと、まったくじれったい事この上無しだ!」
踊りを止め一歩距離を開けてから言われてしまった。竜宮寺さんはそんな風に思っていたんだ。
「ごめんね、花音さん」
だから僕は呼んでみる。格好良い彼女の可愛い名前を。
「うむ!」
満面の笑みの花音さんはやっぱり可愛かった。
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